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中国テック事情:死者復活だけじゃない、ディープフェイク・ビジネス

2024年05月28日 06時59分更新

文● Zeyi Yang

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AP Photo/Mark Schiefelbein

画像クレジット:AP Photo/Mark Schiefelbein

墓所や葬儀中などで死者に語りかけるという中国の文化的伝統を、ディープフェイクという現代風にアレンジした市場が拡大している。この技術の用途はそれだけではない。

この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。

もし亡くなった愛する人ともう一度話せるとしたら、あなたはそうするだろうか。長い間、これは仮定の質問だった。しかし、もはやそうではない。

ディープフェイ・クテクノロジーは進化を遂げ、今では人工知能(AI)で人の容姿や声を簡単かつ安価に模倣できるようになった。一方、大規模言語モデルにより、AIチャットボットとの完全な会話は、かつてないほどに実現可能なものになっている。 

先日、中国で急成長している、こうした進歩を応用して亡くなった家族を再現する市場についての記事を執筆した。何千人もの悲しみに暮れる人々が、死んだ親族のデジタル・アバターに会話や慰めを求め始めている。 

これは、墓所や葬儀中、あるいは記念碑の前で死者に語りかけるという文化的伝統を現代風にアレンジしたものだ。昔から中国人は、亡くなった愛する人に近況を伝えるのが好きだった。しかし、もしその死者が言葉を返せるとしたらどうだろうか? これは、「AIによる復活」サービスを提供する少なくとも6社の中国企業が提案していることである。数百ドルから数千ドルするこの製品は、アプリやタブレットでアクセスできる本物そっくりのアバターで、ユーザーはまるで死者がまだ生きているかのように彼らと交流することができる。

私は、合わせて2000人以上の顧客にこのサービスを提供している2つの中国企業に話を聞いた。これらの企業は、このテクノロジーを受け入れる人々の市場が拡大していると述べている。こうした企業の顧客は通常、悲しみを乗り越えるのに役立つ製品を求めている。

これらの製品がどのように機能するのか、そしてこのテクノロジーが持つ潜在的な意味合いについての詳細は、こちらの記事をご覧いただきたい。

私が先の記事で触れなかったのは、死者のクローンを作るために使われるのと同じテクノロジーが、他の興味深い方法でも使われているということだ。

1つは、このプロセスが私人だけでなく、公人にも適用されていることである。 中国企業シリコン・インテリジェンス(Silicon Intelligence)の最高経営責任者(CEO)兼共同創業者であるシマ・ホワポンは、自身が手掛けた「AIによる復活」事例の約3分の1は、死んだ中国の作家、思想家、有名人、宗教指導者のアバターを作ることだったと教えてくれた。このようにして生成された製品は、個人的な弔いのためではなく、より公的な教育や追悼を目的としている。

昨年、シリコン・インテリジェンスは1894年生まれの有名な京劇歌手、メイ・ランファン(梅蘭芳)のレプリカを作成した。メイのアバターは、2023年に彼の故郷の台州で開催された京劇フェスティバルでのスピーチのために依頼されたものだった。本人は1961年に亡くなっているが、近代的な都市開発によって台州がどれほど大きく変わったかを見てきたことをメイは話した

しかし、このテクノロジーにはさらに興味深い使い道がある。人々は生きている間に自分のクローンを作り、思い出を保存し、遺産を残すためにそれを利用しているのだ。

成功した家系で、自分たちの物語を後世に伝える必要性を感じている人々の間で流行りつつあるとシマCEOは語った。同CEOが見せてくれたのは、縦長の大きなモニター画面に映し出された92歳の中国人起業家のために、シリコン・インテリジェンスが制作したアバターの映像だ。この起業家の男性は自分の人生を記録した本を書いており、彼のアバターを作り始めるのに同社がしたことは、単にその本のすべてを大規模な言語モデルに読み込ませることだった。「この男性は、自分の人生の物語を家族全員に伝えるために、自分のクローンを作りました。亡くなった後でも、彼はこうして家族に語りかけることができます」と同CEOは言う。

シリコン・インテリジェンスのもう1人の共同創業者であるスン・カイも、前述の私の記事に登場している。同共同創業者が2019年に他界した自身の母親のレプリカを作ったからである。同共同創業者の後悔の1つは、アバターをもっと母親に似せるための訓練に使えるような彼女の映像録画を十分に持っていなかったことだ。そのことがきっかけで同共同創業者は自分の人生のボイスメモを録音し始めた。40代の彼には死はまだ先のことのように思えるものの、自身のデジタル「双子」作りに取り組んでいるのだ。

スン共同創業者はこのプロセスを写真撮影の複雑なバージョンと例えているが、自分の容姿、声、知識を持つデジタルアバターは、写真よりもはるかに多くの情報を残すことができる。

さらに別の使い方もある。 親が特定の年齢の子どもの記録を残すために高価な写真撮影にお金をかけることができるように、同じ目的のためにAIアバターの作成の選択もできる。「このような親は、12歳の子どもの写真や映像をいくら撮っても、いつも何かが欠けているように感じると語ります。ですが、その子をデジタル化してしまえば、いつでもどこでも12歳のときの我が子と話すことができるのです」とスン共同創業者は言う。

結局のところ、生きている者と亡くなった者の両方のクローンを作るために使われるディープフェイク・テクノロジーは同じものだ。そして、中国ではすでにこのようなサービスの市場があることから、これらの企業はさらに多くの使用事例を増やし続けるだろう。

しかし、同意の問題から著作権の侵害に至るまで、こうした利用に関わる倫理的な課題について、もっと多くの疑問に答えなければならないこともまた確実である。


中国の最新動向

1.新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のウイルスの塩基配列を発表した最初の中国人科学者である張永振は5月第一週、自身の研究室から締め出されたことに抗議した。中国政府が新型コロナウイルス感染症の起源に関する研究を阻止しようとした結果だと思われる。(AP通信

2.中国の習近平国家主席が、5日間の日程で欧州を訪問している。旅程の半分はハンガリーとセルビアに費やされる予定だ。欧州諸国の中でこの2カ国だけが中国の投資と製造業を歓迎している。同主席は滞在中、ハンガリーでの電気自動車製造契約を発表する見込みだ。(AP通信

3.中国は5月3日、新たな月探査機を打ち上げた。この探査機は月の南極付近でサンプルを採取する予定だ。この地は、米国と中国が恒久基地の建設を競っているエリアである。ネットフリックスのコメディーシリーズ『スペース・フォース』がドキュメンタリーのように見える日も近いかもしれない。(ウォール・ストリート・ジャーナル

4.ファーウェイは、米国で光学研究競争に秘密裏に資金提供している。この行為はおそらく違法ではないが、欺瞞的なものだ。同社とは仕事をしないと誓っていた者もいた大学の参加者たちは、資金源を知らなかったからだ。(ブルームバーグ

5. 中国はブレイン・コンピューター・インターフェイスの研究開発の遅れを急速に取り戻しつつあり、このテクノロジーを医療以外の認知改善に利用することに強い関心が寄せられている。(ワイアード

6.台湾は今年、頻繁に地震に見舞われており、開発者たちは人々の命を救うかもしれない地震警報アプリを作ろうと急いでいる。そのようなアプリの1つは、ユーザー数が3000人から37万人に増加した。(ロイター通信

7. 今でも時に痛烈な記事を掲載する中国メディアの権威ある出版社は、政府から「外国勢力と共謀している」と非難されるのを避けるため、アジアで最も知名度の高いジャーナリズム賞から距離を置かざるを得なくなっている。 (日経アジア

ロスト・イン・トランスレーション

現在のAI熱の中で生成AI(ジェネレーティブAI)企業が注目されている一方で、中国の旧来の「AI四小龍(コンピュータービジョンと顔認識における技術的優位性から市場で脚光を浴びるようになった4つの企業)」は、利益の後退と商業化のハードルに立ち向かっている、と中国メディアが報じている

こうした課題に対して、「龍」たちはさまざまな戦略を選択している。イートゥ(Yitu)はセキュリティ・カメラにさらに傾倒し、メグビー(Megvii)は物流とIoTにおけるコンピュータービジョンの応用に焦点を当て、クラウドウォーク(CloudWalk)はAIアシスタントを優先し、そして最大手のセンスタイム(SenseTime)は自社開発の大規模言語モデルで生成AIに踏み出した。スタートアップほどトレンディーではないにせよ、長年にわたってより多くのコンピューティング・パワーとAIの能力を蓄積してきたこれらの老舗企業が、最終的にはよりレジリエンスがあることが証明されるかもしれないと考える専門家もいる。

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