トヨタ「クラウン FCEV」をきっかけに水素の可能性を訴求するイベント「CROWN“next-life”SALOON vol.1 -SENSE of NEXT-」が虎ノ門で行なわれました。
未来のクルマに水素という選択肢を
クラウンは2022年にリニューアル。ライフスタイルや価値観に合わせて、クロスオーバー、スポーツ、セダン、エステートの4車種をラインアップ。コンサバティブなセダンだったクラウンがスポーツカーのようなスタイリングとなっただけでなく、SUVもラインアップしたことに、発表当時は大きな話題となりました。
さらにトヨタは、クラウン専門店を全国に3店舗展開しているほか、クラウンの価値観を発信して共感する仲間を募る「CROWN“next-life”SALOON」というコミュニティを設立するなど、クラウンブランドの再構築を考えているようです。
今回のイベントでは、環境負荷を低減するクラウン(セダン)FCEV(燃料電池車)を中心に、PHEV(プラグインハイブリッド車)も展示。さらに水素を身近に感じることができる体験やコンテンツが用意して、持続可能な社会に向けた取り組みを身近に触れ、考えるイベントになっていました。
開催地が虎ノ門ヒルズであること、そしてクラウンという車種もあって、年配の方が中心と思いきや、若い夫婦が多くて驚きました。イチバン人気は2024年内の発売を予定しているクラウン(エステート)PHEV。SUVは人気が高いですね。
FCEVは水素を充填するので充電時間がいらない
FCEVは、水素と酸素を化学反応させて得た電気でモーターを駆動する電気自動車のこと。モーターを動かすという点でBEV(電気自動車)と同じですが、ガソリン車と同じ感覚で水素充填できるため、BEVで問題視される「充電時間」が解消できるのがポイントです。また、走行中に発生するのは水ですので、環境負荷低減につながると注目を集めています。クラウンFCEVについては、今後別記事で開発責任者のインタビューとあわせてご紹介する予定ですので、暫くお待ちください。
イベントではクラウン(セダン)FCEVとクラウン(スポーツ)PHEVの試乗体験のほか、会場内ではパネル展示とともに、FCEVだけでない水素に関する取り組みが披露されていました。現在水素ステーションは首都圏を中心に160ヵ所あります。その数は年々増えているそうで、トピックスとしては、東名高速道路・足柄サービスエリア(下り線)に水素ステーションがオープンしたことです。今後、水素ステーションが増えれば長距離ドライブでの不安も解消されていくことでしょう。
水素の活用法のひとつとして提案されていたのが水素グリル。これはトヨタとリンナイが共同開発しているもので、水素カートリッジを交換することで、電力によるIH調理のほか直火焼きができるというもの。炎の温度が天然ガスより高いほか、燃焼時に水蒸気が発生するため、肉を焼くと「外はカリっと、中はジューシー」なのだとか。
会場では、この水素オーブンを使った料理も提供されていたので“自腹”で注文。綺麗な焼き色は、実に見事。いただいてみると確かにウォーターオーブンで調理したような「ふっくらで余計な油や塩分が落ちたヘルシーな味わい」でした。水素はカートリッジで供給されるため、屋外のBBQなどでこの味が楽しめるのは魅力的。「カセットこんろ」のような手軽さで水素が使える日もそう遠くないかもしれません。
UCC上島珈琲は、水素を熱源とした「水素焙煎コーヒー」を訴求。同社は2040年までにカーボンニュートラルを実現する」と掲げていまして、2025年から水素焙煎コーヒー豆を販売する予定です。いまだ温度調整の面で課題があるそうですが、こちらも焙煎時に発生する水蒸気により、豆本来の味を引き出すのに向いているのだとか。飲んでみると「違いのわからない人」でも普段のコーヒーよりも酸味がまろやかで、優しい味わいのように感じました。
そのほか、持続可能な社会という観点から自然農法の野菜なども販売されていました。作られている野菜は、スポーツ選手のセカンドライフとして始められたもので、人の生き方という点でも持続可能な社会の取り組みであるとのこと。その中には松の葉があり、尋ねてみると「雑木林の手入れした時に出た赤松の葉」だそうで、砂糖水と一緒に瓶に入れると、酵母の力によって爽やかな味わいの天然サイダーができるのだとか。
「CROWN“next-life”SALOON vol.1 -SENSE of NEXT-」は、身近なところにスポットを当てて、かつ興味をそそるような体験型イベントであったのが印象的。単なる水素に置き換えるではなく、「美味しくなる」「便利になる」などメリットを訴える点も新鮮で、共感を覚えました。
デザイナーの篠原ともえさん「職人の伝統を橋渡しするのが責務」
イベントでは様々な著名人によるトークセッションや座談会が行なわれ、最終日には90年代「シノラー」で一斉を風靡し、現在デザイナー/アーティストとして活躍する篠原ともえさんが登壇。世界的な広告賞である「第101回ニューヨークADC賞」のシルバーキューブとブロンズキューブの2冠を達成した革の着物の作品“ザ レザー スクラップ キモノ(THE LEATHER SCRAP KIMONO)”が、本来は廃棄されるエゾ鹿革の端の曲線を使ったほか、日本の革産業技術の継承という持続可能社会について言及。「職人の伝統を橋渡しするのがデザイナーの責務」と熱く語りました。
FCEVや水素コーヒーは初めての体験だったようで、感心しきり。そしてFCEVで作られた水は飲めるのですか? と素朴な疑問を投げかけます。その後は来場者の質問を受け答えながら、環境問題についての取り組み方について「何事にも好奇心が大切。FCEVを試乗した時のワクワクする気持ちの中に環境に良いというのが導かれているのが大切だと思う」と語りました。
ご本人のキャラクターもありますが、「置き換えたら素敵で新しい作品が生み出せた」と説く内容で非常に好感が持てました。
クラウン(セダン)FCEVを入口に、水素の活用法を紹介する当イベント。暗い話題が多い昨今ですが「未来って結構いいものかも」と明るい雰囲気に満ちていました。