理化学研究所、東京大学、愛知学院大学の研究グループは、CRISPR-Cas13を利用した遺伝子ノックダウン手法「CRISPRδ(クリスパー・デルタ)」を開発した。特定の遺伝子の活動をノックダウン(一時的に低下)するもので、従来のRNA干渉技術と比べて高い精度を誇る。
理化学研究所、東京大学、愛知学院大学の研究グループは、CRISPR-Cas13を利用した遺伝子ノックダウン手法「CRISPRδ(クリスパー・デルタ)」を開発した。特定の遺伝子の活動をノックダウン(一時的に低下)するもので、従来のRNA干渉技術と比べて高い精度を誇る。 従来のRNA干渉技術は、狙った遺伝子だけでなく、似たRNA配列を持つ他の遺伝子にも不要な影響を与える可能性があった。CRISPRδ手法では、Cas13という特定のタンパク質が、狙ったRNA配列に非常に特異的に結合し、切断することで、この問題を大きく改善する。Cas13の特異性は、標的RNAを認識するためにより長い配列を必要とするため、誤って他のRNAを切断するリスクが低い。 一方で、Cas13が特定のRNAと結合した後、周囲のRNAを非特異的に切断してしまうという問題があった。この問題を解決するため、研究チームは、Cas13の変異体であるdCas13を使用。この変異体はRNAを切断する能力を失っているため、狙った遺伝子のRNAに結合することで、リボソーム(タンパク質を合成する細胞内の機構)の動きを妨げ、特定の遺伝子からのタンパク質の生産を効果的に低下させることができる。 この手法の特異性と効果を検証するために、研究チームはリボソームプロファイリングという技術を用いて、細胞内の全遺伝子の翻訳状況を詳細に解析。その結果、標的とした遺伝子の翻訳活動のみが低下し、他の遺伝子への影響は最小限に抑えられることが確認された。 また、この手法が様々なタイプのmRNAの翻訳を抑制できるかどうかも検証され、ウイルス感染や神経変性疾患など、さまざまな生物学的プロセスや病気に関連する遺伝子の翻訳を効果的に抑制できることが示された。 研究成果は3月11日、ネイチャー・コミュニケーションズ(Nature Communications)誌にオンライン掲載された。(笹田)