画像クレジット:Sarah Rogers/MITTR | Getty
科学者たちは太陽光パネルの新材料を探している。新しい材料の耐久性を、どのように見極めようとしているのだろうか。
この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。
太陽光パネルの仕事というのは大変に違いない。太陽光パネルは常に太陽、熱、湿気にさらされており、現在設置されているパネルは30年以上長持ちするとされている。
しかし、新しい太陽光テクノロジーが時間の試練に耐えられるかどうかを、どうやって知ることができるのだろうか? この新しいテクノロジーの材料が、何十年にもわたる厳しい条件の中でどう持ちこたえるのかを予測する挑戦は、非常に興味深いものだ。特に「ペロブスカイト」という新興テクノロジーの場合は、予測がさらに難しい。ペロブスカイトは、変換効率が高くコストが低いため、太陽光パネルへの組み込みがますます期待されている材料の一種である。
問題は、このペロブスカイトが、高温、湿気、明るい光にさらされると劣化してしまうことだ。現実の世界で使用するには、これらすべてに耐える必要がある。そして、太陽光パネルの予想される寿命に合わせてさまざまな電池を現場でテストしながら、何十年も放置できるわけではない。気候変動は喫緊の問題なのだ。しかし、良いニュースもある。研究者たちはペロブスカイト材料の寿命を延ばすことと、どの材料が長期的に勝者になるかを予測する方法の開発において進歩を遂げているのだ。
現在、ペロブスカイト太陽電池材料が変換効率の記録を更新したというニュースがほぼ絶え間なく流れている。最新のニュースは、太陽光発電企業オックスフォードPV(Oxford PV)からのものだ。オックスフォードPVは今年1月に、パネルの1つが変換効率25%に達したと発表した。これは、パネルに照射される太陽エネルギーの4分の1が電気に変換されたことを意味している。これまで、ほとんどのハイエンドの商用パネルの変換効率は約20%で、一部のモデルが23%を超える程度だった。
改善は少しずつではあるが、確実に進んでいる。そして、それはすべてチームワークのおかげだ。オックスフォードPVとその他の企業は、タンデム太陽光テクノロジーを市場に投入することに取り組んでいる。このテクノロジーを使ったパネルは基本的に、シリコン(現在の太陽光市場を支配している材料)とペロブスカイトの層を組み合わせたサンドイッチ構造になっている。2つの材料は異なる波長の光を吸収するため、積み重ねることができ、より効率的な太陽電池材料となるのだ。
タンデム・テクノロジーは急速に進歩しているため、私たちは超高効率のタンデム太陽電池を2024年のブレークスルー・テクノロジーの1つとして挙げている。しかし、ペロブスカイトの劣化しやすいという厄介な性質が、現在大きな障壁となっている。
初期のペロブスカイト太陽電池はすぐに劣化してしまうもので、研究者は変換効率を測定するために研究室を駆け回らなければならないほどだった。太陽電池を製造した場所から試験装置が設置されている場所まで移動させている間に、ペロブスカイトは基本的に太陽光を吸収する能力を失ってしまうのだ。
現在のペロブスカイトの寿命はそれほど短くはないが、問題が完全に解決されたわけではない。
新しいペロブスカイト太陽電池材料の実際のテストがいくつか実施されているが、その結果はまちまちである。オックスフォードPVは詳細なデータを公表していないが、クリス・ケース最高技術責任者(CTO)が昨年、ネイチャー誌に語ったように、オックスフォードPVの屋外テストでは最良の電池の運転開始後1年間の効率の低下はわずか1%程度で、その後の低下率は鈍化していくという。
しかし、より厳しい条件で実施された別のテストでは、それほど肯定的な結果は得られなかった。ある学術研究では、高温多湿のサウジアラビアでのテストで、ペロブスカイト電池は1年間の稼働後に変換効率が20%低下したことが明らかになっている。
これらは、わずか1年のテスト結果だ。30年後に何が起こるかを、どうやって知ることができるのだろうか?
科学者が夢見るすべての新材料をテストする時間は何年もないため、研究者はしばしば研究室で特に過酷な条件下に太陽光パネルを置き、温度を上げたり、パネルに明るい光を当てたりして、どれくらいの速さで劣化するかを評価している。
この種のテストは、現在の商業用太陽光市場の90%以上を占めるシリコン太陽光パネルでは標準的なものである。しかし、ペロブスカイトのような新材料に対して、既知のテストとの相関性がどの程度あるのか、研究者たちはまだ解明している最中だ。
問題の1つは、光、湿気、熱のすべてがペロブスカイトの急速な劣化に寄与していることだ。しかし、太陽光パネルが実際の環境でどのような結果をもたらすかを測定するために、実験室でどの要素、あるいはどの要素を組み合わせるのが最適なのかについて、正確には明らかになっていない。
昨年、ネイチャー誌に掲載されたある研究では、現実の環境でのパフォーマンスを確実に予測する加速テストには、高温と照明の組み合わせが鍵となる可能性が示されていた。この研究グループは、わずか数百時間(数週間)継続した高温テストが、屋外テストでのほぼ6カ月のパフォーマンスに相当することを発見した。
オックスフォードPVは、早ければ今年中に新しい太陽電池材料を市場に投入すると述べている。 まもなくこれらのテストが、商業用太陽光パネルが必要とする過酷な作業に耐える新テクノロジーの能力をどれだけ正確に予測できるかが実際に明らかになり始めるだろう。私も注目するつもりだ。
MITテクノロジーレビューの関連記事
超高効率のタンデム太陽電池が、2024年のブレークスルー・テクノロジー10のリストに選ばれた理由について、詳しくはこちらを読んでほしい。
これらの次世代の太陽光テクノロジーを世界に普及させるための競争の様子を紹介しよう。
ペロブスカイトは何年もの間、太陽電池の注目の新材料として歓迎されてきた。では何が問題になっているのだろうか? 一言で言えば、とにかくその安定性である。
◆
気候変動関連の最近の話題
- ハリケーンがより強力になる時代に、現在の評価システムでは対応できないと言う科学者もいる。カテゴリー6を追加すると、極めて強力なハリケーンを示すのに役立つ可能性がある。(インサイド・クライメイト・ニュース)
→ ハリケーンと気候変動について分かっていることはこちら。(MITテクノロジーレビュー) - 地球の温度を下げるために、宇宙に巨大なサンシェードを設置するという突飛なアイデアが勢いを増している。それとも、私たちは化石燃料の燃焼を止められるのだろうか?(ニューヨーク・タイムズ )
- 水素を燃料とする列車が走り始めている。この列車が、水素燃料の最適な用途ではないかもしれないと専門家が言う理由はこうだ。(カナリー・メディア)
- 海綿動物によれば、私たちはすでに気候変動の目標を超えてしまっているらしい。硬海綿動物と呼ばれる生物の骨格を調査した科学者らは、人為的な気候変動により、19世紀後半から気温がおそらく1.7 °C上昇したと結論付けた。(ニューヨーク・タイムズ )
- 聞いたこともないような100年前の法律が、米国の洋上風力発電の勢いを鈍らせている。洋上風力発電産業が直面しているいくつかの問題の背後にあるのが、米国の海域では米国内で建造された船舶の使用を義務付ける「ジョーンズ法」だ。(ハカイ・マガジン)
→ 最初の米国建造船の進水時期など、洋上風力発電の今後についての記事はこちら。(MITテクノロジーレビュー) - リサイクルの分別は大変な仕事だが、AIが手を貸してくれるかもしれない。新しい分別システムは埋め立て地からより多くのプラスチックを回収できる可能性があるが、分別施設に新しいテクノロジーを導入するのは課題となるだろう。(ワシントンポスト)