印南敦史の「ベストセラーを読む」 第28回
『BLANK PAGE 空っぽを満たす旅』(内田也哉子 著、文藝春秋)を読む
樹木希林さんが亡くなった後、内田也哉子さんが考えたこと
2024年03月07日 07時00分更新
樹木希林さん 撮影:Andriy Makukha
うわのそら。この言葉が今、最も自分の心の有り様を表している。9月に母が他界してからというもの、不思議なくらい、哀しみも、歓びも、焦りも、怒りも、あらゆる感情が靄に包まれ、どこか意識から離れたところで浮遊している感覚なのだ。厄介なのは、それらの感情が消えたわけではなく、確かに浮遊しているということ。そこに在るのに、手触りがない。得体の知れないものが渦巻いているのに、無意識のうちに知らんぷりしている自分がいる。(8ページより)
『BLANK PAGE 空っぽを満たす旅』(内田也哉子 著、文藝春秋)の冒頭に出てくるこの文章は、私のなかにふたつの相反する感情を生み出すことになった。
まずひとつは、揺るぎない肯定感である。著者の母親である樹木希林さんは、まったく面識のなかった私にとっても、女優という以前にひとりの人間として共感できることの多い存在だった。価値観や考え方――たとえば本の読み方や自家用車の選び方など――を知るにつけ、「素敵な人だったんだな」と感じずにはいられなかったからだ。
そしてもうひとつ拭えないのは、自分自身の問題である。きわめて個人的な話なので多くを語る必要もないが、最後まで母との間に“一般的な親子のような関係性”を築くことができなかった私の場合、母が亡くなってそろそろ1年になろうとしている現在も「うわのそら」になること自体ができないのだ。
だから、ここまで純粋に母親のことを思える人のことを素敵だなと感じるし、自分にはなにか大切なものが欠けているのではないかというような、モヤモヤとした中途半端な思いを拭えないのである。
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BLANK PAGE 空っぽを満たす旅 |
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