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山谷剛史の「アジアIT小話」 第202回

停滞感があった中華スマホだが、生成AIが盛り返しのきっかけになるかも

2024年02月17日 12時00分更新

文● 山谷剛史 編集● ASCII

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横並びの意識があるのも確かだが
ハイエンド機購入のきっかけとしての期待感も大きい

 各社がこぞって出しているのは「ライバル社が出しているから」という、過去に見た日本企業同士の競争のような背景も一因ではあるが、それ以上にスマホ、それもハイエンドスマホが売れるからという部分が大きい。

 というのも、中国では新機種に大きな変化が感じられないなどの理由で買い替えペースが鈍化し、しかも中国の消費者がコスパを重視し始めたのでミッドレンジモデルや一世代前のハイエンドモデルを安く購入する風潮が広がっている。ハイエンドモデルは安価なモデルと比べて利ざやは大きく、メーカーが稼ぐにはハイエンドモデルが人気になることが必要だ。しかし折りたみスマホも含めて、それほど売れていないという問題に直面し、次の打ち出の小槌としてAIスマホが期待されているわけだ。

停滞感があった中国スマホ市場だが、生成AIが盛り返しのきっかけになるかも

スマホのLLMでプログラムコーディングができる例も

 多くの機能においてスマホ本体による生成AIを使ってタスクを処理する(一部クラウドを使うものもある)。つまりユーザーはインターネットに接続することなくビジネス文書や個人の写真を処理できるので情報漏洩の心配が減るという。

 端末側で処理しなければならないので、当面はハイエンドモデルでのリリースとなる。なぜハイエンドだけ出すのかというと、小規模なLLMを処理するにも今のスマホの処理能力では非力だからだ。MediaTekによれば、130億パラメータのLLMには少なくとも13GBのメモリーと安定動作のための領域を6GB、さらにAndroid用の4GBメモリーが必要だという。つまり16GBのメモリを搭載したスマホでさえも、130億パラメータのLLMを実行することは難しい。現在はパラメータ数の少ないLLMをハイエンドモデルに、やっと入れられるという段階にある。

 メモリーサイズの問題だけにとどまらない。メモリー食いのLLMは実行するたびに電力を消費し、バッテリーを使っていく。したがって各社は最新のパーツを導入しながら、低電力消費技術を開発し、LLMの構造やアルゴリズムや推論プロセスをブラッシュアップしていかなくてはならない。スマートフォンメーカー各社だけでなくチップをはじめとした部品メーカーもハイエンドモデルのニーズにあやかれるので、LLM導入のトレンドにはいい反応をしているのが中国メディア各紙から読み取れる。

生成AI関連のスタートアップはすでに多数ある中国
各社はそこから技術を導入して、いち早く生成AIを取り込む

 スマートフォンメーカー各社がAIまわりを全て開発しなければいけないかというと、そこは中国。AIやチップのスタートアップは数多く誕生していて、ChatGPTが話題になって以降、生成AI関連の技術に絞ったスタートアップも爆速で誕生。一部企業は期待感から資本調達を経てユニコーン入りした。技術力が評価されている生成AI関連の有力企業に外注し、技術を導入することでかなり問題は解決できる。

 IDC中国は「3年はまだAIスマホを誰もが所有するにはハードルが高く、日常使用で劇的な変化は起こらないだろう」と分析している。ChatGPTのような文章代筆のほか、画像生成や写真の修正や選択、それに音声アシスタントが可能になることでマニア以外でもさまざまな機能を利用することが簡単になれば、中国人から見れば新たな製品の魅力となるだろう。

 そしてその魅力が日々中国で発信されクチコミで伝わっていくことで、買い替えに前向きになる消費者もでてくる。今後数年は折りたたみスマホ開発と並行してAIスマホの開発競争は続きそうで、文章関連はもちろん画像関連のAIに磨きをかけ機能を増やしていく。停滞感のあったと評された中華スマホが面白くなりそうだ。

山谷剛史(やまやたけし)

著者近影

著者近影

フリーランスライター。中国などアジア地域を中心とした海外IT事情に強い。統計に頼らず現地人の目線で取材する手法で、一般ユーザーにもわかりやすいルポが好評。書籍では「中国のインターネット史 ワールドワイドウェブからの独立」、「中国のITは新型コロナウイルスにどのように反撃したのか? 中国式災害対策技術読本」(星海社新書)、「中国S級B級論 発展途上と最先端が混在する国」(さくら舎)などを執筆。最新著作は「移民時代の異国飯」(星海社新書、Amazon.co.jpへのリンク

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