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印南敦史の「ベストセラーを読む」 第25回

「カイジだったらこんなときどうする?」絶望的な状況を乗り越える“漫画思考”の仕事術

2024年02月15日 07時00分更新

文● 印南敦史 編集●ASCII

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「失望しなきゃ立ち上がらない……そんな救い……!」

 たとえば絶望的な状況を乗り越えるためのテキストとしては、かの有名な『カイジ』が紹介されている。ご存知のとおり同作は「人間のクズ」が華麗な復活劇を遂げる物語なので、そこにビジネスパーソンのあり方を投影されることには抵抗を感じる方もいらっしゃるかもしれない。

 たしかに主人公のカイジは、怠惰な日常を送るニートのような人物だ。ストレス解消のため道端の高級車に傷をつけてみたり、性格もよろしくない。そんな男が決死のギャンブルで起死回生に臨むという、現実にはあり得そうもないストーリー。だがカイジは騙されて絶望の淵に沈んでも、幾度となく圧倒的な復活を遂げる。そのあり方が見どころだと著者は指摘するのである。

 知恵と智略を駆使して、カイジは何度となく浮上しますが、彼の凄みは、その奇抜な発想力や実行力だけではありません。
 絶望の淵に沈んだ際、それでも人生を投げ出さず、かすかに見える光明を探し、必死に蜘蛛の糸を手繰り寄せようとするその姿勢こそ、我々が見習うべきなのです。(104〜105ページより)

 そこにあるのは、「絶望こそが本当のチャンス」であるという考え方。あらゆる場面でのカイジの逆転劇は、そのプロセスをありありと描いたものだということだ。たしかにそれは、ビジネスの現場にもあてはまることでもあるだろう。

 たとえば、それまでの努力を全否定され、大きな絶望感に苛まれるようなことは日常においても決して少なくない。しかしそんなときには、「垂直的成長=新しい視点」を得る、つまり「一発逆転する大チャンスが訪れたのだ」と、あえて前向きに考えてみるべきなのだという。

 なぜならそれは、従来の価値観を捨て、新たな視点でチャレンジしていくべき転換点が訪れたということだからだ。いいかえれば、「一巻の終わりは本当の始まり」だという発想である。

 重要なのは、諦めないこと。
 絶望の最中でも、「これこそがチャンスなんだ!!」と捉えて、前を向くこと。
 そこで視線を上げてみたら、新たな解決策、望むゴールに向かう道が見つかることがあります。8巻第88話「魔道」からの一連の流れはまさにそれで、カイジは次のように表現しました。

 「見えない道……! つまり……一度 失望しなきゃ立ち上がらない……そんな救い……! 希望……!」(107ページより)

 ここからわかるのは、挫折経験がある人ほど、多様な視点を持つことができ、バランス感覚を身につけられるということ。そしてそれは『カイジ』に描かれている極端な世界だけではなく、私たちの日常にもあてはまるということだ。

漫画には処世術が詰まっている

 もちろん『カイジ』は一例に過ぎないが、本書では他にも多くの漫画をモチーフとした「処世術」が紹介されている。それらのいくつかは、自身を悩ませる問題を解決するために役立ってくれるかもしれない。

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筆者紹介:印南敦史

作家、書評家。株式会社アンビエンス代表取締役。
1962年、東京都生まれ。
「ライフハッカー[日本版]」「ニューズウィーク日本版」「東洋経済オンライン」「サライ.jp」「マイナビニュース」などで書評欄を担当し、年間700冊以上の読書量を誇る。
著書に『遅読家のための読書術』(PHP文庫)、『いま自分に必要なビジネススキルが1テーマ3冊で身につく本』(日本実業出版社)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)、『読書する家族のつくりかた 親子で本好きになる25のゲームメソッド』『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(以上、星海社新書)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、などのほか、音楽関連の書籍やエッセイなども多数。

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