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印南敦史の「ベストセラーを読む」 第19回

『めざせ! ムショラン三ツ星 刑務所栄養士、今日も受刑者とクサくないメシ作ります』(黒栁桂子 著、朝日新聞出版)を読む

「コロッケが爆発しました」刑務所の受刑者たち、“クサくないメシ”作りに奮闘

2024年01月04日 07時00分更新

文● 印南敦史 編集●ASCII

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「コロッケが爆発しました」

 とはいえ、決して楽な仕事ではないだろう。調理にあたる7〜9人の受刑者は近隣の拘置所の分も含めて約110人分の給食を用意しているというが、そもそも彼らはみな調理経験などない素人なのだから。

 ましてや刑務所なので、作業中に受刑者は「にんじん入れます!」「しょう油入れます!」といちいち報告し、それに対して刑務官が「ヨシ!」といちいち指さし確認するのだという。やはり、独特な世界ではあるようだ。

 だから、ときには事故が起こることも……。

 たとえば、炊場の担当刑務官から著者のもとに連絡が入ったという場面はなかなかスリリング、というよりも味わい深い。

「どうしました?」
「コロッケが爆発しました」
 彼の声色から、焦っている様子が手に取るようにわかった。受話器を置き、すぐに炊場に向かう。(中略)
 到着すると、彼はうかない顔で爆発したコロッケの残骸を見せてくれた。
「あ〜、はいはい。一度にたくさん揚げたんでしょ」(116ページより)

 冷凍食品を揚げる場合には、揚げる量に気をつけなければならない。揚げ油にたくさん放り込むと油の温度が急激に下がり、衣が揚がって固まらないうちに、内部の水蒸気がふくらんで皮を突き破り爆発するのだ。

 ともあれ、こうした受刑者たちの不器用さと純粋さには、なんだか愛しささえ感じる。メロンの切り方が下手な受刑者たちに代わり、著者が切ってみせたときのリアクションにしてもそうだ。

私はボート状に切られた一つを取って、斜めに包丁を入れて半分に切った。すると、
「おぉ〜!」
と歓声が上がった。ふふっ。この瞬間がたまらない……。何も特別な技を披露しているわけではない。それなのにこの賞賛の声。ほくそ笑みながらも、彼らにそれを悟られまいと振る舞う。(91〜92ページより)

 無垢な反応に心が癒される思いだが、それを「たまらない」と表現してしまう著者の柔軟さもなかなかのものだ。だから本書を読んでいると、刑務所内の話であるにもかかわらず、ついつい笑ってしまうのだった。

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