産業技術総合研究所とNTTの共同研究チームは、シリコン量子ドットで電子を1粒ずつ精密に制御し、大きさの決まった微小電流を発生させることに成功した。素子の違いによらず複数のシリコン量子ドットにおいて、大きさのそろった一定の電流を発生できることを実証したのは世界で初めて。
産業技術総合研究所とNTTの共同研究チームは、シリコン量子ドットで電子を1粒ずつ精密に制御し、大きさの決まった微小電流を発生させることに成功した。素子の違いによらず複数のシリコン量子ドットにおいて、大きさのそろった一定の電流を発生できることを実証したのは世界で初めて。 電子を1粒ずつ閉じ込めて静電的に制御するための素子を「単一電子素子」と呼び、シリコン量子ドットはシリコンで作られた単一電子素子の一種である。研究チームは今回、ナノ加工によって作製した大きさが数十ナノメートル(ナノは1の10億分の1)程度の2つの異なるシリコン量子ドットを精密に制御し、それぞれ1秒間に10億個の電子を運んで微小電流を発生させた。 その結果、素子の違いによらず大きさのそろった一定の電流を発生させ、2つの電流値が電流全体の4×10-7以下の相対不確かさで一致している(各素子において1秒間に運ぶ10億個の電子のうち、素子間の相違が400個しかないことを意味する)ことを確認した。さらに、2つのシリコン量子ドットを並列に組み合わせることで、不確かさを同程度に保ったまま、2倍の電流を発生させることにも成功。量子電流標準として必要な電流の範囲の拡張技術を確立した。 今回の成果は、量子力学におけるオームの法則である「量子メトロロジートライアングル」 の検証に向けての技術課題をクリアするものであり、半導体微細加工や化学計測、放射線計測など電流計測の高精度化に貢献することが期待される。研究論文は、ナノレターズ(Nano Letters)に2023年12月19日付けで掲載された。(中條)