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「イノベーションセンターDAY」レポート

コクヨが、アパート経営やIoTを始めたワケ

2023年12月08日 19時00分更新

文● ASCII

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大企業が立ち上げる新規事業の難しさ

 大企業が新規事業を立ち上げる際、ボトルネックになりやすいのは「大企業であること」かもしれない。

 大企業は、資金を含め、スタートアップ企業には用意することが難しいリソースを備えている。その代わりに、アイディアやコンセプトを事業の形に変えていく際に、長い歴史の中で培われてきた習慣と規律からの影響を避けることが難しい。習慣と規律を無視すれば、企業のアイデンティティも失われてしまうからだ。

 ところが三浦洋介氏は「老舗の総合文具、事務職メーカーから脱却したい」と話す。「大企業の枠の中で新規事業を立ち上げる」というよりも、「社内の新規事業をスケールアップさせて、企業の存在意義そのものを作り替えていこうとする」と表現した方が、同社の新規事業に関する姿勢をよく表しているだろう。

後半では、新規事業家の守屋実氏を招いたトークセッションも披露された。「(新規事業を)生む環境が、生みやすい環境じゃないと、(新規事業は)生めない」と守屋実氏。「(新規事業のアイディアとしての)点を打って、そこを掘っていくのも、拡げていくのも、会社側が認めてあげないといけない」

 三浦洋介氏も、大企業の新規事業立ち上げについて「潤沢な資産を浪費して、インパクトを残せない」という現象が起こりがちであると言及。「潤沢な資産を活用して、インパクトを残す」のが理想形であると話した。

 同社では、この「インパクト」という言葉を、「経済価値(売り上げ、利益、成長率など)」と「社会価値(社会課題の解決、持続可能な発展に寄与など)」と定義。既存事業を起点に何かを開発するのではなく、未来に発生するニーズを先回りして読み取り、実験を繰り返すことで、新たなビジネスモデルを生み出すことが肝要であり、その姿勢を元に、コクヨの「ありたい姿」を実現させていきたいと話した。

重要なのはフォアキャスト、サポート、リズム

 そんな同社が、新規事業を進める中で得た3つの気づきを紹介しよう。それは「フォアキャスト」「サポート」「リズム」というものだ。

 これは「バックキャスト」「強いリーダー」「粘り強く追求」という、コクヨの新規事業開発における基本姿勢へ対応したワード。それぞれ「未来の理想形から逆算してプロセスを決めるだけではなく、同時に現状を分析し、多角的にプロセスを重ねていくこと」「強力なリーダーによるトップダウン体制でなく、リーダーがいるチームと、サポート体制と、知見を持った外部の有識者がひとつのチームになっている状態」「ひとつのテーマを漫然と追求し続けるのではなく、期間を区切って、生まれたリズムの中で、規則性を持って追求していくこと」を指している。

他社との協業や、プロトタイプの実証実験を重ねるオープンな開発環境の中で新規事業を立ち上げようとする試みを重ねている

 同社では、こうした考えに基づいて新規事業に関わる運営体制を整えていて、新規事業を生み出すためのリソースの配置に気を配っていることがわかる。

 まとめれば、同社は“老舗の文房具企業”が培ってきた歴史と、歴史の中で醸成されたリソースの一部をリアレンジし、新たに生まれた構造を起点に、“老舗の文房具企業”という殻を突き破って変革しようとしているようだ。

 前述した3つの新規事業からは、“コクヨっぽい”匂いが漂っているものの、「コクヨがやっている」と言われなければ、そうとは気付かない、固有の特徴もそれぞれが持っている。「コクヨ=文房具」のイメージが覆される日も、それほど遠くないのかもしれない。

セミナーや勉強会を開催できるホール機能を持った空間も併設している

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