今回のひとこと
「昭和の経営者とは違う発想をする新たな世代の経営者が生まれている。日本経済の展望が開け、潮目が変わってきた。長いトンネルを抜け出す絶好のチャンスだが、これを生かさないと、またトンネルに戻ってしまう」
日本IBMの年次イベント「Think Japan 2023」において、「テクノロジーによる価値創造への挑戦」と題し、日本IBMの山口明夫社長と、INCJの志賀俊之会長による対談が行われた。
志賀会長は、日産自動車の最高執行責任者(COO)や副会長、産業革新機構の会長を歴任。2018年9月から、官民ファンドであるINCJの代表取締役会長を務めている。今回の対談では、志賀会長の企業経営と産業革新の経験をもとに、日本の経済の現状について言及するとともに、大手企業が抱える課題や、新たなテクノロジーの活用に向けた課題などについても触れ、会場で聴講した経営者たちにとっても、新たな時代に向けた経営のヒントを得る機会になったようだ。
昭和の経営者とは違う発想をしている、潮目が変わってきた
日本IBMの山口社長は、「1980年代は、ジャパン・アズ・ナンバーワンと言われたように、日本企業が世界を席巻した。だが、それ以降の日本の企業は、技術を持っていながらも、株価が低迷し、デフレが継続し、平均賃金があがらないという状況に陥った。そこにコロナが発生し、世界の分断が始まり、サプライチェーンの見直しを迫られている。さらに、日本では、労働人口の減少という課題も加わり、変革はまったなしの状況のなかにある」と指摘しながらも、「日本はマイナスのなかにいるように感じるが、そうではない。経済が低迷していても、アニメやゲームといった文化は世界的に受け入れられている。素材や化学製品ではトップシェアの企業がたくさんあり、政府によるDXやGXも推進されている。外的要因からの危機感が発端だが、いままでとは違い、大きく変わる期待感も大きいのではないか」と述べた。
一方、志賀会長も異口同音に、「私が管理職になったのは、バブルが崩壊したときであり、設備の過剰、人の過剰、借金の過剰の3つの過剰を、いかに減らすかが課題となっていた。コストを下げ、人件費を下げ、工場を畳んだ役員が誉められて、出世していく状況だった。だが、投資が減り、新たな技術が生まれず、人的投資が減り、人が育たず、その結果、30年もの長期間に渡る悪循環に入っていった」と前置きしながらも、「だが、これを反面教師のように見ていた新たな世代が、いま、経営者になりはじめ、人的投資や技術投資に力を入れ始めた。昭和の経営者とは違う発想をしている。日本経済の展望が開け、潮目が変わってきたと感じている」とする。
その上で、「いまは、長いトンネルを抜ける絶好のチャンスである。これを生かさないと、またトンネルに戻ってしまう。失われた60年になってしまったら、もはや取り戻せない。そのためには、いまこそ経営者が、リスクを取り、積極的に挑戦していくことが大事である。過去の成功体験にしがみついていたり、現状維持のままであったりしてはいけない」と警鐘を鳴らした。
日本の企業の弱みは多様性である、戦力として生かし切れていない
志賀会長は、「日本の企業の強みは人であり、それが組織となって力を最大化できる点にあった」と定義する。
だが、こうも語る。
「その力は、同質の文化のなかで生まれてきた。全員が日本人、全員が男性、全員が同じような学校を卒業してきた。もはやそれでは通用しない。日本の企業の弱みは多様性である。多様性を戦力として生かし切れていない。いまは、多様性によって、化学反応が起き、個人が成長する。多様性によって、個の力を伸ばすことができる」。
これを受けて、日本IBMの山口社長は、ここ数年間で、野球やサッカー、ラグビー、バスケットボールなどのスポーツにおいても、世界に通じる活躍が目立ってきたことに触れ、日本の選手が海外で活躍したり、海外の選手が日本のチームに所属したり、あるいは日本代表チームのなかにも多様性が生まれていることが、日本のスポーツを強くしている要因になっていると指摘した。
しかし、山口社長は、自らの経験をもとに赤裸々にこんなエピソードを語りはじめた。
「外国籍の役員が入ってくると、あうんの呼吸では通じず、丁寧に説明しないといけないことが多い。最初は、相容れないことが多かった」とする。そして、「ところが、しっかりと説明して、理解をしあうと、お互いにひとつのチームとして新たな視点が生まれ、仕事にも楽しみが出てきた。それが個人と企業の成長につながっている」という。
同質に慣れた日本の企業が多様性によるメリットを享受するには越えなくてはならないハードルがあるというのが、実体験をもとにした山口社長の見解だ。、
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