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夜空を暗くする照明という逆転の発想。“星空の世界遺産”をつくったパナソニックのあかり

2023年09月29日 07時00分更新

文● 盛田 諒(RyoMorita) 編集● ASCII

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南六呂師の星空 撮影者:hiroaki2410 大野市

 道路を明るく照らす道路灯や防犯灯。そのなかに、夜空を“暗くする”ためにつくられたあかりがあることを知っていますか。

 福井県大野市は2004年から2年連続、環境省の「日本一星空が美しい町」に選ばれたまち。ライトダウン時には市内からも肉眼で天の川が見られてしまうほど。

 なかでも山間の南六呂師エリアは暗い自然の夜空を保護・保存する取り組みを進め、“星空の世界遺産”とも呼ばれる「星空保護区」に認定されました。

大野市役所に掲示された「広報おおの」号外版

 南六呂師高原では、芝生に並べたハンモックに寝そべり、オリジナルコーヒーを飲みながら、星のソムリエというガイドに解説をしてもらう「星空ハンモック」という企画を実施。星空ハンモックをめあてとした団体ツアーも開催されていて、今年度だけで1500人以上が体験しているそうです。

「星空ハンモック」は地元の福井新聞に紹介された

 “日本一”の星空をより美しく見られるようにするため、大野市が導入を進めてきたのが夜空を暗くするためのあかり。夜空の暗さを邪魔しない「DarkSky認証」取得品を含むパナソニックの照明でした。大野市で導入した防犯灯58台、道路灯36台、その他の照明約260台はすべてパナソニック製です。

 「明るくしないといけない場所を暗くしないといけない」という、ある種の矛盾をはらんだニーズはどのように満たされたのか。9月27日、パナソニック エレクトリックワークス社の取材協力を得て、現地を取材しました。

9割を森林に囲まれた歴史のまち

 福井県東部に872.43平方キロメートルの広大な面積を持つ大野市は、その約90%を森林に覆われています。日本百名山「荒島岳」を始めとした山々に囲まれて、豊かな自然と清らかな水に恵まれた土地でもあります。

南六呂師の山並み

 市街地は400年以上前に築かれた城下町。金森長近が建設したとされる大野城を中心とした碁盤目状の街並みは「北陸の小京都」とも呼ばれ、古い風情を残します。雲海に包まれた大野城は「天空の城 越前大野城」としても知られています。

武家屋敷 旧田村家

 市は「清水(しょうず)」と呼ばれる名水にも恵まれ、名水百選「御清水」や平成の名水百選「本願清水」を含む多くの湧水があり、「水の郷百選」にも選定されています。

名水百選「御清水」

 そんななか、今年3月からの中部縦貫自動車道(大野油坂道路)延伸に伴い、星空を活用した観光の魅力向上をはかっているのが南六呂師エリア。「日本一の星空」認定をきっかけに、星空のまちとして売り出しを進めています。

 ハンモックで星空を鑑賞する「星空ハンモック」の取り組みに加え、本場のランタンを使ったイベント「星降るランタンナイト」、星空仕様の観光バスなどの工夫をしています。石山志保大野市長は「大野市にいわゆる国宝や世界遺産はないが、四季折々の美しい景観を活かして観光客に訴求したい」と話していました。

大野市 石山志保市長

 その星空観光の鍵となるのが「星空保護区」。地元の業者、大学研究者、そしてパナソニックの3者が連携し、認定取得のために活動を続けてきました。しかし、星空保護区に認定されるまでには、関係者たちの苦労もありました。

“にぎわい”と“暗さ”の両立に苦労

 福井工業大学の下川勇教授によれば、福井県と大野市から観光地開発の相談を受けたのは2017年。自然と人間が共生する環境を重視した方向で計画を進めることを提案しました。プロジェクトでは自然を保護し、人工物を最小限に抑え、地域の生態系を健康に保ちながら美しい星空を鑑賞できる場所を作ることを目標とするなか、鍵としたのが星空保護区の認証です。

福井工業大学 下川勇教授

 星空保護区とは、ダークスカイ・インターナショナル(旧・国際ダークスカイ協会)が2001年に開始した認定制度。照明による景観への悪影響「光害」がない、暗い自然の夜空を保護・保存する取り組みを評価しています。認定基準には厳格な屋外照明基準と光害教育・啓発活動が含まれて、多くのステークホルダーの協力が必要となります。

 認定取得に向けて計画を進めるなか、悩まされたのは“暗さ”を求めるむずかしさでした。

 本来、観光や教育などの目的で人や子どもが集まる場所は、安全性の観点もあって照明を明るくしなければいけないところ。その一方で、夜空を暗くすることが目的となるという、ある種矛盾したニーズに悩まされました。このギャップを埋めるため、公共施設の運営者らと連携しつつ、安全を確保しつつ“暗くする”照明計画をひとつひとつ作っていきました。

 結果、道路灯、防犯灯、公共施設の照明は軒並み改修されることになりました。たとえば露天風呂の照明は滑りやすい床を考慮し、強い光を斜めに設置していましたが、それを直下のスポットライトに変更。各施設の屋外照明も交換されました。ただし予算には限りもあり、「あまり使われない施設の照明を残すかどうか」という難しい選択も迫られたそうです。

 さらに、認定までの時間を縮めるため、星空保護推進機構とコミュニケーションをとりながら認定を受けるための計画書を作成するという工夫もしました。通常、認定プロセスは8〜9ヵ月かかりますが、事前に計画の概要を確認してもらうことで、4ヵ月という異例の早さで認定を受けられたということです。

 こうして関係者らが努力を重ねた結果、今年8月21日、ついに「アーバン・ナイトスカイプレイス」部門でアジア初となる認定を取得。令和5年度の「星空の街・あおぞらの街」全国大会に間に合わせることができました。

夜空は暗いが、道路は暗くない

 南六呂師エリアに導入されたパナソニックの照明を実際に見てみました。

 代表的なのは2020年2月に発表した上方光束比0%のLED照明。星空に優しい照明に対してダークスカイ・インターナショナルから与えられる「DarkSky認証」を国内メーカーとして初めて取得した製品です。同年10月から岡山県伊原市美星町で導入が開始され、南六呂師でも導入されることになりました。

 DarkSky認証取得の防犯灯は既存の防犯灯と異なり、地面に対して水平に設置されているため、空への光の漏れがありません。色温度は電球色と呼ばれる3000K以下に設定されていて、光の明るさ(ルーメン数)はそのままに光が拡散しないよう工夫されています。

DarkSky認証取得の防犯灯 パナソニック エレクトリックワークス 村越滋幸氏

光が漏れないように“羽”がついている 同 野中厚志氏

 「星空ハンモック」を実施している六呂師高原内ミルク工房奥越前の駐車場付近には、DarkSky認証を取得した道路灯と防犯灯が設置されていました。

六呂師高原内の「ミルク工房奥越前」

防犯灯

道路灯

 当日の夜は残念ながら雨模様で星空を見ることはできませんでしたが、いずれの照明も光がしっかりと下を向き、光の漏れがないことを確認できました。

 意外だったのは、3000K以下と言ってもそれほど暗く見えなかったこと。電球色と言われると暗そうなイメージがありましたが、光量が十分確保されているためか不安に感じるところはありませんでした。あたたかみがあり、既製品に比べて演色性も高いということで、自然な色合いを感じられます。

 もう一箇所見たのは福井県立奥越高原青少年自然の家。

福井県立奥越高原青少年自然の家

 軒下はもともと普通の蛍光灯が煌々と照らしていましたが、これを光が漏れない光害対策用のLED照明に変更。ダウンライト型シーリングライトやスポットライトも導入し、光が上に漏れないよう工夫されていました。

環境と観光の両立、今後のテーマに

 大野市とパナソニックなどが取り組んできた、“星空の世界遺産”への挑戦。印象に残ったのは、環境と観光を両立させる可能性でした。

 大野市は脱炭素への取り組みも進めていますが、広大な森林はCO2吸収源として期待できます。CO2吸収源にカウント可能な森林は、間伐等の適切な整備が施されたものや保安林に指定された天然林。今後、星空観察のために南六呂師の森林整備が進めば、環境にも観光にも良い一石二鳥の取り組みになりそうです。

 登山大国の台湾などではいま日本の山人気が高まっています。アウトドアブームも手伝い、豊かな自然そのものを活かした観光は大きなトレンドになりました。一方で、増えすぎた登山客が問題になった富士山などもそうですが、環境と観光の両立はこれからますます重要かつ難しいテーマになる予感もあります。大野市の取り組みは今後、目立った事例のひとつとして参照されることになるでしょう。

 これまで福井というと恐竜やカニのイメージしか持っていませんでしたが、古き良き街並み、おいしい空気と水、そして美しい星空をもつ大野市の魅力を知り、がぜん興味がわいてきました。いつか子どもたちとともにふたたびあの高原を訪れたい、そして満天の星空の下、美しい夜空を守るために奮闘した人々の物語を話してあげたいと思います。

 

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