印南敦史の「ベストセラーを読む」 第4回
『言語の本質-ことばはどう生まれ、進化したか』(今井むつみ、秋田喜美 著、中公新書)を読む
AIに理解できない、ことば本来の意味
2023年09月14日 07時00分更新
写真はイメージ Mojahid Mottakin | Unsplash
『言語の本質-ことばはどう生まれ、進化したか』(今井むつみ、秋田喜美 著、中公新書)の冒頭には、「記号接地問題」という聞きなれないことばが登場する。それは、認知科学では未解決の大きな問題なのだそうだ。
私たち人間は当然ながら、自分が知っていることばが指す対象を知っている。単に「定義ができる」だけでなく、たとえば「メロン」と聞けば、全体の色や形状、模様、匂い、果肉の色や触感、味、舌触りなどさまざまな特徴を思い出すことができるわけだ。もちろん、写真で見ただけではなく、実際に食べたことがあれば、という前提を伴うわけだが。
では、実物を見たことも食べたこともない果物の場合はどうか? 「○○」という名前を教えられ、写真を見せてもらえれば、その果物の外見はわかり、名前も覚えられるだろう。「甘酸っぱくておいしい」という説明があれば、味を情報として記憶することも可能だ。
とはいえ、○○のビジュアルイメージを「甘酸っぱくておいしい」と記憶したからといって、○○を知ったことにはならない。甘酸っぱくておいしいのは○○だけではなく、たとえばイチゴなどにもあてはまることだからだ。
これが、記号接地問題である。
記号接地問題は、もともとは人工知能(AI)の問題として考えられたものであった。「○○」を、「甘酸っぱい」「おいしい」という別の記号(ことば)と結びつけたら、AIは○○を「知った」と言えるのだろうか?(「はじめに」より)
Image from Amazon.co.jp |
言語の本質-ことばはどう生まれ、進化したか (中公新書 2756) |
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