名古屋大学、東京農工大学、浙江大学、佛山科学技術学院、中国科学院、ソーク研究所の共同研究チームは、樹木中に含まれる「リグニン」から、環境に優しい金属キレート剤を開発し、鉄欠乏土壌でも植物の生長を促進させることに成功した。
名古屋大学、東京農工大学、浙江大学、佛山科学技術学院、中国科学院、ソーク研究所の共同研究チームは、樹木中に含まれる「リグニン」から、環境に優しい金属キレート剤を開発し、鉄欠乏土壌でも植物の生長を促進させることに成功した。 世界の耕地の3分の1は鉄欠乏土壌であり、これによって作物の収量が減少し、品質が低下している問題が存在している。鉄不足を補うため、現在は土壌に化学合成品のキレート剤(金属に結合し、植物への吸収を促進する化合物)を添加する方法が取られているが、これらは生分解性がなく、環境に対する負荷が非常に大きいだけでなく、重金属汚染を引き起こす可能性も指摘されている。 研究チームは今回、樹木中に大量に(20-30%)含まれている天然のポリフェノール性高分子であるリグニンに着目。木質材料を硫酸で加水分解して単糖類を得る際に残渣として得られる硫酸リグニン(SAL)を、アルカリ水熱反応により水溶化することに成功した。水溶化した硫酸リグニン(HSAL)は、金属キレート能を持つことから、鉄欠乏条件下であっても、HSALを添加することでイネ、トウモロコシ、シロイヌナズナなどの単子葉および双子葉植物の生長を著しく促進できることを見い出した。 さらに、遺伝子分析やシロイヌナズナの変異体を用いた実験などにより、HSALによる成長促進メカニズムを解析。多くの植物に対してもHSALが優れた鉄キレート剤として働くことを証明した。研究論文は、ネイチャー・コミュニケーションズ(Nature Communications)に2023年8月11日付けで掲載された。(中條)