業務を変えるkintoneユーザー事例 第196回
着実に根付きつつある内製化 他部門への普及もゆっくりと
広島県の農林水産局がアプリを内製化 現場ならではのアイデアを形に
2023年09月01日 09時00分更新
空中散布計画の提出・実績管理や病害虫の診断などをアプリ化
具体的なアプリの例としては、西部農業技術指導所 植物防疫チームの事例が挙げられた。同チームは、昨年の夏にWeb動画の研修を受講した結果、チーム全員がkintoneのアカウントを取得。その後、業務課題を3つ挙げ、各3~4人のチームでアプリを作成し、チーム会議で意見交換や改善を重ねた結果、今年の4月から2つのアプリが運用開始されている。
1つ目は無人ヘリによる農薬の空中散布計画・実績の管理システムだ。システム導入前、空中散布の計画や実績の提出は郵送やFAXでの提出しかなく、データ化に時間がかかり、市町や国など関係機関への共有にも手間がかかっていた。しかし、今年度からはFormBridge経由でExcelファイルを提出することが可能になった。広島県 西部農業技術指導所 植物防疫チーム技師の金光 世利香氏は、「データ提出が苦手な農家さんもいますので、紙の提出も残しましたが、8割はデータ提出に移行しました」と語る。
また、kViewerを用いることで、周辺住民も個人情報を抜いた散布計画情報をWebサイトでいち早く閲覧できるようになった。問い合わせ受け付けも用意しているので、植物防疫チームが間に入って、連絡先を仲介できる。また、関係機関に対しても提出後に即時公開。kViewerの閲覧制限機能を使って、それぞれの部門が権限を持つデータのみ閲覧できるようにしている。金光氏は「7月は、ちょうど散布計画が集まる時期なのですが、去年は1つ1つ手入力していましたが、今年はこうした作業がなくなり、入力ミスもなくなったので、便利になったことを実感しています」と振り返る。
2つ目は病害虫診断アプリとデータベースになる。植物防疫チームは、農業者からの依頼に基づいて害虫診断を行なっており、県内に3箇所ある農業技術指導所の普及指導チームは、Wordで依頼書を作成し、植物防疫チームにメールで提出していた。しかし、Wordの様式が決まっていたので、入力漏れや記載量の制限が生じていた。また、過去の診断書に関してはほぼ共有できておらず、過去の診断表から必要なファイルを探すのも大変だった。
kintone導入後は同じくFormBridge経由で依頼できるようになったので、診断に必要な情報を取得し漏らすことはなくなったという。「必須項目を設定することで、記入漏れを防ぐこともできるようになり、文字数やサイズも考えずに入力できるようになりました」(金光氏)。写真に関しても、サイズの調整や貼り付けサイズの指定なしにそのままアップロードできるので、拡大して細部を確認することも可能になった。
また、担当者ではなく、組織メールに作業依頼が飛ぶようになったので、チーム内での割り振りが可能になった。さらに、診断情報もkViewerで即時共有できるようになり、ワードや絞り込みなどさまざまな検索が可能になったため、事例の検索もスピードアップし、診断スキルも上がった。PrintCreatorを用いて従来の診断表をPDF出力することも可能だ。
加えて、処理の迅速化のため、診断依頼や回答などのアクションがあった場合に、植物防疫チームや依頼者などにメールが通知されるようになった。金光氏は、「従来の紙ベースではできなかった各アクションの通知と共有を実現したことで、見える化と診断の高速化が可能になりました」と振り返る。
大事なのは1人でやらないこと ゆっくり根付く内製化の取り組み
どのアプリも既存の紙やファイルの提出・管理をクラウド化したもので、作りは非常にシンプル。しかし、現場の業務課題にきちんと対応するもので、なにしろ職員のお手製である。愛着もあり、手直しも自らやっているので、手触りもよい。チームにジョインしたらすでにkintone環境だったという藤岡氏は、以前の苦労がわからないという。「紙の保存はなくなり、検索もすぐできるようになっているので、以前に比べて苦労してないんだろうと思いながら作業しています」と利用者としての感想を語る。
ユーザーの利用浸透も基本的なスムーズだったという。食品表示担当のアプリを引き継いだ福永健太氏は、「研修やイベントなどで周知を図った結果、利用も増えた印象です。外部の事業者ではなく、職員が入力するので、抵抗みたいなことはありませんでした」と語る。植物防疫チームでも、JAや無人ヘリ協議会などに取り組みを説明した結果、利便性の高いデジタルでの提出が増えたという。
成功のポイントは、みんなでやること。「相談会も1人ではなく、グループリーダーといっしょに来てもらうよう働きかけています。1人だとやはり孤立しますし、せっかくいいものを作っても、周りに理解してもらえないと思います」と佐々木氏は語る。
出庁が自粛となったサミット期間中の5月18日には、オンラインで開発アプリの発表会を開催した。会議出席者の集計アプリなど、すぐに活用できる事例から、業務全体を見直したことで実現したアプリまでを幅広く事例で披露し、250名以上が視聴したという。「みんなでアカウントを取得し、アイデアを出しながら、グループで取り組んでいる。僕も驚くようなインターフェイスの作り方とか出ていますね」と佐々木氏は語る。
課題はプラグインが周知されていない点。現状、kintoneシステムは利用する所属の事務費で十分まかなえており、プラグインを含めて開発環境としてはなかなか充実しているが、ユーザーはまだよく理解していないという。「Gusuku Customine(アールスリーインスティテュート)やkrewシリーズ(グレープシティ)などの有用なプラグインが用意されているにもかかわらず、あまり使われていません。もっと周知すれば、よりよい開発につながるのではと考えています」と佐々木氏は語る。
また、現業が忙しすぎて、アプリ開発にまで手が回らないという課もある。農業技術課のように内製化に積極的なチームもあるが、外部ベンダーに開発を依頼するチームもあり、ここらへんはケースバイケース。トップからのリードではなく、それぞれのチームややる気に合わせ、ゆっくり草の根でアプリを育てていくのがここでの流儀のようだ。
2023年7月初旬の状況ではユーザー数は292で、テスト含めてアプリは450以上あるという。一方、テストや申請を経て本運用に至っているのは125アプリ。農林水産局が2/3以上の88だが、局外のアプリも37にまで増えているという。佐々木氏は、「着実に内製化の取り組みが根付いている。今では、農林水産局以外からの問い合わせも増えている」と語る。
今年度はkintoneの認知度の向上と横展開を行なっていくほか、技術相談窓口を設置するなど開発支援を強化。さらにkintone内に溜まってきたデータをAIで分析する試みをスタートするという。
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