ザッカーバーグ氏は「より民主的な精神を持ったものを作りたい」。メタとの違いが明白に
メタバースやVRと言われて思い浮かぶのは当然メタです。Quest 2の延長線上にあるQuest 3とはまったく違うコンセプトでVision Proが出てきたことで、メタも戦略を考え直さないといけなくなってくるんじゃないかなと。メタがこれまでメタバースのゴールとして考えてきたオフィス展開という意図の上では強力なライバルですからね。
もともと「AR空間で仕事をする」というのは、メタが立てていたコンセプトでした。他社が作ったコンセプトをキレイな形にまとめあげて圧倒するというのがアップルの戦略ですが、Vision Proはメタが作りたくても作れなかったものをはるかに凌駕する形で出してきました。メタのマーク・ザッカーバーグ氏は悔しいと思いますよ。
実際、WWDCを見たあとに「Quest Pro」をあらためて試してみましたが、何をどうすれば動くのかというところのUXが混乱していてイライラしてしまうんですよね。思ったように入力ができないし、仕事をするためにオフィスルームを起動する方法も、AR表示に切り替える方法もわかりにくい。対応キーボードも限られているし、キーボード自体も使いにくい……。Quest Proをオフィス利用として日常的に使っている人は、まずいないんじゃないかと思うほど、使いものにならない状態のまま、大きなアップデートもされていません。
ただ、6月9日に、ザッカーバーグ氏は、科学研究者レックス・フリードマン氏のポッドキャストのロングインタビューに答えています。ザッカーバーグ氏は、アップルの参入はユーザーの理解を増すことになるのでVR/AR市場が広がると思うとした上で、「アップルはハイエンドなものを作ることに重点を置いてきたと思いますが、我々はより民主的な精神を持ったものを作りたいと考えています」としていました。そして、価格的な優位性から「人々は当面(Quest 2やQuest 3を)主に使用し続けるだろう」とも話しています。
また、ソーシャル的な交流やコミュニケーションなど、「もっとアクティブになることを重点に置いている」(ザッカーバーグ氏)と違いを強調していました。Vision Proは座って文字を読んだり、映画を見たりすることに重点が置かれていると。ヘッドマウントディスプレー内で文字を読めるようにするために、コスト上昇が起きているのだろうと。それは、ゲーム的な動きを実現するコントローラーをつけないという判断とトレードオフになると。これも興味深い発言で、両社のヘッドマウントディスプレイの設計思想の違いは、今後さらに明確になってきそうです。
ただ、その他のヘッドマウントディスプレイメーカーにとっては、ビジネス用途を前提としたハイエンドモデルは、Vision Proと1000ドル程度しか変わらないことが多く、相当厳しい立場に追い込まれるのではと思います。非常に強力な製品が出てきた中、メタを筆頭とした他社がどういうアプローチで戦っていくのかは注目ですね。
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