デノンは6月20日、個人最適化技術を搭載したノイズキャンセリング対応の完全ワイヤレスイヤホン「AH-C15PL」と「AH-C10PL」を発表した。
“Denon PerL”(デノン・パール)という新しいシリーズ名で展開。PerLは“Personalize Listening”という意味を込めた略称だ。既存シリーズの上位モデルとなっており、AH-C15PLは個人最適化技術に加え、ハイレゾ伝送やロスレス伝送など最高の音を提供する“PerL Pro”、AH-C10PLは個人最適化技術搭載の標準モデル“PerL”として展開する。価格はともにオープンプライスで、予想実売価格はそれぞれ5万7200円/3万3000円。発売は7月1日を予定している。
自動計測で、自分の耳に合った再生音に調整
PerLは、米国の大手医療機器メーカーMasimoの技術を応用。人ごとに変わる聞こえに配慮したパーソナライズ機能“Masimo AAT”(AATはAdaptive Acoustic Technologyの略)を備えているのが特徴だ。
ちなみに、デノンやマランツブランドを展開する株式会社ディーアンドエムホールディングスは、Bowers & WilkinsやPolk Audioなど様々なオーディオブランドとともに、これまで米Sound Unitedの傘下にあった。しかしながら、2月にMasimoはSound Unitedを買収すると発表。これらのコンシューマーオーディオブランドは、今後Massimoが展開していくことになる。つまり、グループ内での技術リソースが融合して実現した製品がPerLだ。
Masimoはパルスオキシメーターなど、医療用計測器の開発で知られている。PerLは医療機器ではなく民生機器だが、搭載する自動測定機能は、新生児の難聴検査に用いる医療技術を応用したものとなる。「聞こえている/聞こえていない」を言葉で伝えることができない新生児の耳の聞こえを独自の計測技術で知るための技術を、コンシューマー機器に応用することで、正確でシンプルな使い勝手の個人最適化機能を搭載できた。
十人十色という表現があるが、音の聞えは“十人十音色”だとデノンは言う。PerLのパーソナライズ機能(Masimo AAT)は、アプリ操作で高域・中域・低域の聞えやすさを計測し、再生音を利用者の耳に合った特性に自動調整できる。
技術的なポイントをより深く知るためには、耳が外耳(外側から鼓膜まで)・中耳(鼓膜付近)・内耳(音を感じる神経がある蝸牛などがある場所)の3つの部分からなる点を理解する必要がある。外耳から耳に入った音は、鼓膜とそれにつながった耳小骨を振動させ、内耳の蝸牛に伝わる。
近年、個人の聞え方に合わせた調整ができるとうたうイヤホンは増えており、今年は大手メーカーの製品でアップデート対応するものも登場している。ただ、その機能には差もある。
最も多くプリミティブなものは、周波数が異なる信号音を聞いてユーザーが聞える/聞こえないをアプリなどでフィードバック。その結果に合わせて再生音を調整するというもの。また、外耳の形状をスマホのカメラで撮影したり、外耳内の反響音をイヤホンのマイクで計測したりして調整するタイプもある。後者は比較的新しいイヤホンが搭載する機能だが、多くは外耳の特性しか反映できない。
Masimo AATの個人最適化機能は、これらとは異なり、内耳の特性も含んだ計測と最適化ができる点が特徴だ。内耳の蝸牛で受け取った振動は、再度鼓膜に伝わり、外に放出される(耳音響反射)が、その微小な振動をマイクで計測することで、ユーザーの判断に任せたフィードバック操作や撮影などをせずに、聴覚の特性が分かるという。
Masimo AATを使うための測定はアプリを用いる。耳にイヤホンを装着した状態で、最適なイヤーチップが適切にフィットしているかを診断(適切に密閉できているかのチェック)。そのうえで、さまざまなテスト音源を使って、外耳の形状や中耳/内耳の特性を計測し、聞え方を調べる。結果は正円の上に視覚的にプロットされる。