ディープラーニングの投資対効果が劇的に変わる
米IBMのアービンド・クリシュナ会長兼CEOは、かつて、IBMの研究部門を率いてきた経験を持つ。Thinkの基調講演のなかでは、その経験をもとに、テクノロジーについて語ってみせた。
クリシュナ会長兼CEOは、「テクノロジーは、競争優位の源泉へと変化してきた。ビジネスを拡大し、コストを削減し、生産性を高め、ビジネスをグローバルにスケールさせるには、テクノロジーの力が必要である。また、インフレや地政学的な問題、サプライチェーンの課題、サイバーセキュリティの課題の解決する際にも、テクノロジーが必要である」とし、「とくに、ハイブリッドクラウドとAIが、ビジネスの変革を促し、価値をもたらすことになる。ハイブリッドクラウドとAIの相乗効果こそが、ビジネスを変革させ、企業にとってのゲームチェンジャーになる」と語る。
ハイブリッドクラウドについては、「この4年間で、ハイブリッドクラウドは選択肢のひとつから、欠かせないアーキテクチャーのひとつになった。IBMは、Red Hat OpenShiftプラットフォームにより、コンテナをサポートし、ハイブリッドクラウド環境全体に柔軟性をもたらし、サイロ化されることがない環境を構築した」と語る。
その一方で、AIについては、「過去10年間のAIは、ディープラーニングの時代であったが、これを進化させ、実装していくには多くのコストが必要であり、投資に対する見返りがある領域にだけ利用されているにすぎなかった。それに対して、ここ数年で登場した大規模言語モデルによる生成AIは、より多くの人が利用でき、様々なタスクを実行できるようになる。ひとつしか処理できなかったタスクが、生成AIでは、基盤モデルに基づいて、何100や何1000のタスクを処理できるようになる。タイム・トゥ・バリューが驚くほど向上する。100倍も動作するということは、進化という表現よりも、革命に近いことが起こる」と語る。
その上で、「長年、私のようなテクノロジーの進化を見てきた人間にとっては、生成AIの登場は、Netscapeに出会った瞬間のような興奮がある。それによって、インターネットが生き生きしたものになり、インターネットが爆発的に普及することにつながった。10年後には、いま、この瞬間は、大きな変曲点であったと振り返ることができるだろう。貴重な瞬間のひとつであり、大きな技術的進歩の瞬間である」と語った。
さらに、量子コンピュータについても言及。「IBMには20台以上の量子コンピュータがあり、100社以上のパートナーが一緒になって、ユースケースを模索している。400量子ビットを超える量子コンピュータも発表しており、様々な課題解決に取り組むことができる。世界を驚かせるような問題解決が実現するのは、10年後ではなく、今後3~5年の話である」としたほか、「クラウドがなければAIの進化はもっと遅かった。そして、量子コンピュータもテクノロジーの進化に大きな役割を果たすひとになる。クラウドとAI、量子コンピュータが組み合わさったとき、私たちは信じられないような変曲点を見ることになる。この先10年は、私たちがこれまでに見てきた以上の爆発的なイノベーションが起こるだろう」と予測した。
生成AIは、大きなイノベーションを起こすことになる。これは多くの人に共通した認識だろう。クリシュナ会長兼CEOもそれを指摘し、「AIによって、企業の生産性が向上し、個人の生産性も向上する。生成AIは、企業に巨大な可能性をもたらすことなる」とする一方で、「問題は、これを企業にどう届けるかということである」と指摘。そして、「それを実現するのがwatsonxになる」と語る。
「企業向けAIは、不正確な答えを出すわけにはいかない。また、このモデルを訓練するために使用したデータを明確にし、データにバイアスがないことを証明し、ガバナンスを確保する必要がある。企業は信頼できるデータにより、精度の高い結果を必要としている」と語る。また、「AIが人をサポートする領域は幅広い。だが、企業にはそれぞれのやり方があるため、AIを活用するには、自分の環境に合わせて、どうカスタマイズするかを考えることが重要になる。IBMはパートナーと協力し、AIをより広く展開していくことになる」とした。
ここであげたのが、SAPの事例だ。SAPでは、Watsonを自社のクラウド製品に組み込み、自然言語によるインターフェースで、クラウドの活用を支援する仕組みを提供することを発表した。トレーニングの必要がなく、独自の言語をすべて理解する必要がなくなり、導入までのスピードが向上するというメリットが生まれる。このように、AIが企業同士の新たな協業を生むといったことが起こりはじめている。
IBM watsonxによって、あらゆる企業は、ツールやテクノロジー、インフラ、コンサルティングの専門知識の支援を通じて、自社のデータを活用し、独自のAIモデルを構築したり、既存のAIモデルをファインチューニングすることで業務に適応させたりし、ビジネスの成功につなげることができる。
具体的には、企業が顧客や従業員とのインタラクションと会話を実現できるほか、ビジネスワークフローと内部プロセスの自動化、IT プロセスの自動化、脅威からの保護、サステナビリティ目標への取り組みという5つのビジネス領域において、AIを活用できるとしている。
IBM watsonxは、AIで先行したWatsonの新製品と位置づけられている。その実績をもとに進化を遂げたIBM watsonxによって、企業が生成AIを活用できる環境構築に新たな一歩を踏み出したともいえる。
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