ウォークマン? それともトリニトロンのテレビ?
初めて触れたソニー製品を覚えてますか?
子どものころ、はじめて触れた家電製品は何ですか? ソニー製品はなんですか?
自分自身(筆者)、小さな家電店に生まれたこともあって、いつも周りにコンポやテレビ、ビデオデッキ、といった家電がありました。幼少の頃より英才教育を受けた甲斐もあって、テレビはトリニトロン! ポータブルオーディオはウォークマン! ビデオデッキはベータマックス! ビデオカメラは8ミリ! といった具合に、ソニーを愛でるDNAを育んでいました。
その一方で、レコードの針を折ったり、スピーカーのコーンを潰したり、カセットテープを絡ませたり、ビデオデッキに小物を詰め込んで再起不能に陥れたりと、幼少期にやらかしてしまった事も多々あり、こっぴどく叱られた記憶があります。
当時の家電製品は、今からは想像もつかないほどに高価なもので、大人からすれば壊してしまうかもしれない子どもに触らせたくないのも理解できます。しかし、実際に触れて使ってみてはじめて、家電の楽しさや、ソニーの良さを知ることができたのも事実です。
子どもたちが最新技術に触れられる
「My First Sony」
そんなジレンマを解決すべく、子どもたちが楽しく遊べる本物の家電製品があったら? ソニー製品にふれるきっかけを生み出せないか? を具現化したのが「My First Sony (マイ・ファースト・ソニー)」。 1987年に、ソニー・アメリカのとあるセールスマンの想いから実現した子ども向けのソニー製品は、その翌年には日本でも販売されました。
「マイファーストソニー」シリーズで、最初に発売されたのは当時主流となっていたカセットテープレコーダーなどのオーディオ機器。内部の構造が見えるように透明なパネルを採用して、どういったふうに動くのだろう? と、子どもたちの興味をかきたてる設計になっているのが特徴です。ボタンも操作しやすいように大きく、安全を配慮したまるいデザインという、見た目だけではなく、もしも誤って口に入れてしまっても安心な素材を使うといった目に見えないところに気を配られていた製品です。
ウォークマンタイプには、快適音量スイッチを採用して、一定の音量以上では聴けない仕組みを入れるといった配慮もされていました。
見た目も子どもたちが好きそうなカラフルなカラーで、基本ベースは赤色に、機能を割り振った部品は青色、スピーカーには音の楽しさを表す黄色といった具合に、動作の仕組みを覚えやすいように配色されていました。そのビビットでかわいらしいデザインは、子どもだけでなく一部の大人たちの心もつかみました。
一般に子ども向けのおもちゃというと、仮にラジカセのカタチをしていても、見た目の雰囲気が近いだけで本来の機能はガッツリを削られてしまいがち。ところが、ソニーが作る子ども向け製品は決して妥協することはなく、ちゃんと巻戻しや早送りもできるし、録音機能もあって、電池残量をお知らせる電源ランプもあります。さらに、ラジオ用の同調インジケータランプもしっかり備わっています。子どもが雑に扱っても壊れないように頑丈に作らつつも、音質や性能は立派なソニークオリティーです。
好奇心や創造力をかきたてるというコンセプトどおり、カセットプレーヤーにリズムマシンが合体した「カセットコーダー」は、ドラムパッドをたたくと楽器の音のみならず、動物の鳴き声を出したり、付属のフレキシブルマイクで好きな音楽をかけながら歌を歌ったりと、まさに子どもたちが音楽に参加する楽しさを掻き立てる作りになっていました。
時代が早すぎた!?
ペンタブ風ガジェット
中でも話題となったのは、テレビに接続して絵が描ける「グラフィックコンピューター」です。手元において卓上でペンを走らせるとテレビ画面にそのまま文字や絵が描けるという、現代のペンタブレットのようなアイテムです。
12色のカラーを選べて、スタンプ機能を使えばグラフィックを追加できるだけでなく、自動的に絵を描いてくれるデモ機能や、音を鳴らせる機能などあって、親子で楽しめる仕掛けがたくさんありました。さすがAV機器メーカーのソニーというべきか、ビデオデッキに接続することで、作った絵を保存できるという導線まで用意されていたのです。
当時、これだけの機能をパソコンでやるには莫大な費用がかかるどころか、使うまでに難しいハードルがあった事を考えると、クオリティーは劣るものの1万8000円という価格でモニターに絵を描く体験ができてしまう「グラフィックコンピューター」は大人からみてもめちゃくちゃ魅力的だったのです。
テレビCMで、「テレビに書ける、絵を書ける、家のテレビに絵を書ける」といった子ども向けの知育玩具としてアピールしていましたが、結果として子どものみならず大人にも受けて、大きなヒットとなりました。
そのほかにも、免許のいらないトランシーバーのような「2ウォーキートーキー」や「液晶ポケットカラーテレビ」といった具合に、まさに子どものころに憧れたガジェットたちが「マイファーストソニー」としていくつもリリースされたのでした。
それでも当時は、社内でも子ども向けのAV機器を発売することに賛否があったようです。わざわざ子ども向けとしてリソースを割くわけですから当然といえば当然。果たして、幼いころからソニー製品に触れてもらって、それをきっかに科学や技術に興味を持ってほしい、あわよくばソニーユーザーになってほしいというこの戦略はうまくいったのか?
当時使っていた子どもたちが「マイファーストソニー」の事を覚えていれば成功だったと言えるかも知れなません。いや、仮に知らなくても、きっと少年期や青年期やどこかで、自分(筆者)のようにソニー製品に触れて好きになった人たちもたくさんいると思います。
イイモノを作れば、きっとこれからもソニーが大好きな「デジタル・ドリーム・キッズ」は増えていくと信じています。
筆者紹介───君国泰将
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