「変化の時代にビジネス成果を上げる」がテーマ、「Oracle CloudWorld Tour Tokyo」開催
トヨタ、イトーキ、デジタル庁が登壇、日本オラクル年次イベント基調講演
2023年04月17日 07時00分更新
日本オラクルは2023年4月14日、東京・赤坂のANAインターコンチネンタル東京において、プライベートカンファレンス「Oracle CloudWorld Tour Tokyo」を開催した。2022年10月に米国で開催した「Oracle CloudWorld 2022」を受けて、東京ほか世界5都市で展開する新たなイベント。日本オラクルが対面形式の大規模イベントを開催するのは約3年ぶりとなる。
午前中に行われた基調講演のテーマは「変化の激しい世界でビジネス成果を上げるために」。日本オラクル 社長の三澤智光氏が、トヨタ自動車、イトーキ、デジタル庁との対談を通じて、ITトランスフォーメーションやDXへの取り組み、ビジネスの挑戦などの現状について紹介した。さらに、米オラクル レベニュー・オペレーション担当EVPのジェイソン・メイナード氏が、オラクルの事業戦略について説明した。
テクノロジーにとどまらず「顧客のビジネス」にフォーカスするオラクル
メイナード氏はまず、オラクルの役割として「お客様のビジネスに必要な革新をサポートし、カスタマーサクセスにフォーカスして成功を支援すること、そのための新しい機能の導入や活用を支援すること、テクノロジー領域にとどまらずビジネスに対して有意義な変化を及ぼすこと」の3点を挙げ、それぞれについて説明した。
1つめの「カスタマーサクセス」については、オラクルの45年以上に及ぶ、21業界/40万社以上の顧客とのビジネス実績を挙げた。日本およびアジア太平洋地域(JAPAC)においても9万社の顧客を持ち、日本(東京、大阪)やオーストラリア、インド、韓国、シンガポールなど9つのリージョンを展開している。
「オラクルは、クラウドをゼロから抜本的に再構築し、高いパフォーマンスと手頃な価格で利用できるインフラの実現と、データ層とネットワーク層で機能し、AIによる自動化や機械学習などを簡単に活用できるようにした。そして、クラウドに簡単に移行できるようにビジネスの方法を提案しているのが特徴だ」(メイナード氏)
2つめの「新しい機能の導入と活用」については、業界向けアプリケーションをはじめ、ERPおよびHRアプリケーション、バックオフィスアプリケーション、データ開発者ツール、インフラといった幅広いポートフォリオを提供していることを紹介した。さらに、あらゆる製品におけるセキュリティの重視、ソブリンクラウドやマルチクラウドといったニーズへの対応といった特徴も挙げる。
「ワークロードやビジネスの種類に応じて、必要とするクラウドのかたちは異なる。“分散クラウド”のアイデアが採用されることもあれば、最高の機密性を持つクラウドでのワークロード処理が求められる場合もある。AIスタートアップならばスピードを重視するだろう。ChatGPTのような価値を企業にもたらすことに力を注いぐことも必要だろう。Oracle Cloudは、さまざまな要求に応えるために構築したクラウドだ。要求の厳しいワークロードに対応し、最高のセキュリティを実現し、パフォーマンスと効率性を追求している」(メイナード氏)
最後の「ビジネスの側面からの支援」については、「業務システムのサイロ化によって発生している複雑な問題を解決する必要がある」と指摘。さらにオラクルが持つ幅広い専門領域のベストプラクティスを示すために、プレイブックを作成して成果実現のためのロードマップを示していると述べた。
メイナード氏は、グローバルメーカートップ10社のうち7社、米国のトップ5銀行のうち4行、健康医療保険トップ10社のうち9社がオラクルを採用するなど、多くの大企業においてビジネスの成功を支援していると強調し、「われわれはお客様とともに課題に挑戦し、ビジネスの変革を支援していく。結果を生み出す方法を常に模索しており、みなさんの声に耳を傾け、アイデアを学び、それからより良いことを実現するために協力していきたい」と語った。
トヨタ自動車:レガシーシステム、プロセス変革の悩みも抱えつつDXを推進
日本オラクル 三澤氏との対談でまず登壇したのが、トヨタ自動車 情報システム本部IT変革担当CPLの岡村達也氏だ。
トヨタでは、2021年3月の労使協議会において当時社長(現会長)の豊田章男氏が、グループのデジタル化について「今後3年間で、世界トップの企業と肩を並べるレベルに一気にもって行きたい」と発言した。
「コロナ禍で新たな働き方が求められるなかで、(デジタル化について)なにかしらの言及はあると考えてはいたが、いきなり『世界トップ』という言葉を打ち出したことに、正直驚かされた。これはデジタル化によって情報格差をなくし、自動車に関わる550万人の仲間が同じ方向を向いて、仕事に打ち込める環境を整備するという宣言だった」(岡村氏)
豊田氏からは「デジタルネイティブの自由な発想でやらせてみたらいい」とのアドバイスもあり、新たなデジタル化推進組織の編成にあたってはメンバーの社内公募を行うことにした。岡村氏自身は「集まるかどうか不安もあった」というが、いざふたを開けてみると150人以上の応募があったという。
デジタル変革推進室の新設に加えて各部門にDXリーダーを配置し、現在はデジタル変革推進室、情報システム本部、そしてビジネス部門が連携してデジタル化を推進している。
「トヨタの強さはやはり現場にある。そこで市民開発(シチズンデベロップメント)にも力を入れてきた。現場を一番よく知る人がソフトを開発し、修正するのは“カイゼン文化”にもつながっている。一部の人間だけでなく、みんなでデジタル化を進めている」(岡村氏)
デジタル化の取り組み開始と同時期に、トヨタでは事務や技術の職場においても「トヨタ生産方式(TPS)」の思想を取り入れたプロセスの見直しも始めていた。2つの取り組み時期が合致したことで、各部署から「デジタル化で解決できる案件」を募集したところ、1600件以上の応募があったという。
こうした取り組みを行う一方で、歴史が長く規模も大きい企業であることから「組織、ルール、人材、プロセス、システムが鎖のようにつながり、阻害する力が強く、前に進まない」側面もあると、岡村氏は率直に明かす。
「トヨタのデジタル化は(順調に)進んでいるわけではない。積極的な部署とそうでない部署の温度差が広がり、日々の仕事はデジタル化されても全社的な改革にまでは至っていない。他部門に情報をオープンするのをためらったり、デジタル人材教育に時間を割くことに後ろ向きの上司もいたりする。旧態依然のプロセスを前提に構築したレガシーシステムの存在も問題視されている」(岡村氏)
岡村氏は、地道な改善の積み重ねだけでは「変革」には至らないことを認める。「2030年にトヨタがありたい姿を“北極星”として定め、そこからバックキャストして(逆算して)思い切ったテーマを考えることが必要。いまはそこに取り組んでいる」と語り、若手幹部が参加して、トヨタのプロセスとシステムをゼロベースで考える変革に取り組みはじめたと説明した。
「すでにDXに成功し、先を行っている企業がある一方で、トヨタはいまだにレガシーシステムに苦しみ、プロセスの変革に悩む、世に多くある会社のひとつだ。ただし、レガシーシステムがあるからこそ、年間1000万台の自動車を生産し、市場に届けることができるのも事実。これを単にクラウドに移行して『DXができた』とは言いたくない。レガシーの良さを残しつつシステムをモダナイズし、難しい課題に対して、オラクルをはじめとするパートナーとともに挑戦したい」(岡村氏)