ロードスターの「990S」というグレードは、ロードスターの数あるグレードの中でも、最もサーキット走行に向いていないクルマです。でも、そんな「990S」を、しかもなんの改造もせずにサーキットに持ってくことにしました。
初心者向けの走行会イベントに参加
これまで、ロードスターでサーキット走行はかなり数多くこなしてきました。そのため、「過去に十分に走ったから、もうサーキットは走ることはないでしょ」と、990Sを購入したという経緯があります。ところが、突如メディア対抗4時間耐久レースに参加することになり、サーキットの練習が必要になったのです。
そこで、知り合いが「初心者向け走行会」を実施するというので、そこに混ぜてもらうことになりました。初心者向けということで、参加するクルマはスポーツカーだけでなく、普通のセダンやSUVまであります。しかも、みんなフルノーマル。そこで、僕の990Sもまったく何も手を付けず、フルノーマルで参加すること。
会場となったのは、福島県にあるエビスサーキットの西コース。アップダウンのある全長約2.1kmのコースです。過去に走った経験はありましたが、たぶん15年ぶりかそれ以上。「この先は、どっちに曲がるんだっけ」と、思い出しながらの走行となりました。
ノーマルの990Sでサーキットを走るときの不安
前述しましたが、ロードスター 990Sは、正直サーキット走行に向いていません。理由としてはまず、ダンパーの減衰力が非常に弱く設定されています。ですから、コーナーではすぐにフルボトムしますし、アクセルとブレーキのオン/オフで姿勢がすぐに変わってしまいます。そしてLSDが装着されていませんから、コーナーの立ち上がりでクルマが斜めになっていると、片輪に駆動力が逃げてしまいます。端的に言って、LSD付きよりも加速が悪いのです。
また、ブレーキはブレンボが装着されていますからまだマシですが、ブレーキパッド自体は街乗りを主眼とされたもの。過去にNAロードスターに乗っているとき、ノーマルのブレーキパッドで、仙台のスポーツランドSUGOを走行してみたら、1日の走行でパッドが一気に摩耗しきってしまい、帰り道にヒヤヒヤした経験があります。ノーマルのブレーキパッドでサーキットを走るのには、効き目というよりも、ライフが不安になります。同じようにタイヤもまったくのノーマルそのものですから、グリップ力が高くありませんし、ライフの方も心配です。
さらに、990Sは冷却系が強化されていません。サーキット走行を前提とするロードスターのNR-Aグレードは、サスペンション、ブレーキだけでなく、ラジエターも強化品に交換されています。990Sで長時間本気で走り続けると水温が上昇してしまう可能性もあるのです。
つまり、990Sでサーキットを走るのには、サスペンション、LSD、ブレーキ、そして冷却系に不安があるということ。
ということで、方針としては「あまり本気にならず、しかも連続走行は2周くらいまで」と決めて、クーリングラップを混ぜながら、クルマもドライバーの頭もあまり熱くならないように走ることとしました。テーマは「速くではなく、きれいに走る」です。スムーズで、タイヤ・グリップの限界を探るような走りを心がけました。
いざ走ってみれば、意外と問題なし!
気を使いながらと言いつつ、結局、数十周のサーキット走行をしました。タイムは計測していません。そして結果を言えば、意外と990Sでも普通に走れてしまうんですね。
まず、減衰力最低というサスペンションですけれど、実際のところそれほど気になりませんでした。もちろん、硬いスプリングと減衰を高めたダンパーを使った方がサーキットには向いているのでしょうけれど、純正のノーマルタイヤの、ほどほどのグリップ力であれば、減衰最低の990Sのサスペンションでも特に難しいことはありません。
ちなみに横滑り防止装置をONにしたまま走っても、ほとんど気になりません。コーナーの飛び込みや立ち上がりで姿勢を乱さなければ制御が介入してこないのです。また、横滑り防止装置をOFFにするとKPC(キネマティック・ポスチャー・コントロール、詳しくはこちらの記事で)も効かなくなります。するとロールが大きくなって、逆に運転しづらくなりました。つまり、横滑り防止装置ONのままでいいということです。
また、不安であったタイヤとブレーキの摩耗は、ほんのわずかなものでした。エンジンの水温も適正値内に納まったまま。無理をしなかったこともありますけれど、NA時代とは比べものにならないほど、クルマがタフになっているということでしょう。
そしてLSD。990SにはLSDがないので、コーナー進入時の安定度が低く、立ち上がりもクルマが真っ直ぐに方向を変えてからアクセルオンしなくてはなりません。これは他グレードよりも遅いはず。でも、タイムを気にしなければ、それはそれで問題はありません。
もちろんタイムを意識しながら、めいっぱい走る楽しみもあります。というか、過去にさんざんそうしたサーキット走行を楽しんできました。よりグリップの高いタイヤを履き、サスペンションとボディーを硬めます。そこでタイヤとクルマの性能を限界にまで引き出して走ることは、格別の楽しさと言えるでしょう。さらにライバルと競うレースとなれば、また別の面白みもあります。
そうしたスポーツ走行の魅力は深く広いものであり、ロードスターはそうした楽しみにとことん答えてくれる素材と言えるでしょう。そして990Sは、そうした楽しみの最初の一歩をノーマルそのものでも味あわせてくれるクルマだったのです。NDロードスターの実力、そして990Sの魅力を、改めて実感することができた1日となりました。
最後に後日談です。サーキット走行から1週間ほど後にオイル交換をしました。街中のカー用品店で、「カストロールEDGS 5W-40」を使ってのオイル交換です。この銘柄にしたのは、マツダのディーラーでも同じ銘柄が用意されていたから。
ところが聞いてみると、ディーラーで扱うのは「カストロールEDGE Professional」であり、カー用品店にある商品とは微妙に名前が違っていて、中身も違うとか。あらビックリ。とはいえ、もうサーキット走行をするわけでもないので、多少違っていても問題があるわけもありません。交換後は、普通にフィーリングがよくなって、気分も上々でした。
筆者紹介:鈴木ケンイチ
1966年9月15日生まれ。茨城県出身。国学院大学卒。大学卒業後に一般誌/女性誌/PR誌/書籍を制作する編集プロダクションに勤務。28歳で独立。徐々に自動車関連のフィールドへ。2003年にJAF公式戦ワンメイクレース(マツダ・ロードスター・パーティレース)に参戦。新車紹介から人物取材、メカニカルなレポートまで幅広く対応。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを“分かりやすく”“深く”説明することをモットーにする。
最近は新技術や環境関係に注目。年間3~4回の海外モーターショー取材を実施。毎月1回のSA/PAの食べ歩き取材を10年ほど継続中。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 自動車技術会会員 環境社会検定試験(ECO検定)。
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