「SCL6」が動き出した。
SCL6とはイギリスのMQAが制定したワイヤレス向けのコーデックで、同社が開発したオーディオ技術「MQA」の拡張版とも言えるものだ。日本でもワイヤレス機器向けの"Hi-Res Audio Wirelss"ロゴ認証を取得できるコーデックのひとつに認定されたことは本連載でもレポートした。一般的には「MQair」という名称で展開されていく予定だ。
SCL6はMQAの特徴である「人間がハイレゾの音を聞く際の決定的要素である時間軸に焦点を当てた」点を受け継ぎながら、Bluetooth、Wi-Fi、UWBなど、さまざまな方式で搬送されうることを想定している。データレートを可変的にカバーできる点がワイヤレスに向いていると言われるゆえんだ。電波の状況に合わせられる、いわゆるアダプティブ方式のコーデックである。
SCL6に対応したヘッドホンも開発中
2月末には、このSCL6技術を搭載した初のヘッドホンを、NAD傘下のオーディオブランドPSB Speakersが開発しているというアナウンスがあった。
このリリースではヘッドホンの詳細については述べられていないが、興味深いのは単なるハイレゾ対応というだけではなく、このヘッドホン製品を「新しいカテゴリーのヘッドホン」と称していることだ。これはMQAとの共同開発だけではなく、Sonicalとも開発提携しているからだと思われる。
Sonicalは、本連載でも以前にレポートしたように「Headphone 3.0」というコンセプトを提唱し、ヘッドホン向けのOSを開発しているブランドだ。これは「CosmOS」と呼ばれるもので、アプリをダウンロードして機能を追加できる、スマートフォンのようなヘッドホンである。OSを搭載しているという点からおそらく、コーデックや通信プロトコルの搭載においてもかなり柔軟な能力を有していると考えられる。
このヘッドホンについてもうひとつ考えられることは、UWBを搭載するのではないかということだ。UWBは現在では精密な位置測定に用いられるが、データ通信に採用してもBluetoothに比べて高速である。また、SCL6がUWBで搬送可能であるという点からも、あらたなワイヤレスヘッドホンの通信規格として、UWBが台頭してくる可能性も考えられる。
海外記者が体験したSCL6の音とは?
製品化の可能性が浮上してくると、SCL6自体の音質はどうなのだろうかということが気になってくるだろう。最近イギリスの「What Hi-Fi?」にSCL6の開発版を試聴したレポートが掲載されていたので、内容を紹介する。この記事は記者がハンティンドンにあるMQAの本社を訪れ、MQAのボブ・スチュアート氏から話を聞き、デモ機を試したものだ。
記事ではボブ・スチュアート氏がリファレンスにしているという、 Shelby Lynneの96kHz/24bit音源を使用している。当初4.6Mbpsで再生していた曲を660kbpsに落としたところ、残響音のような細かなところの再現も、音の躍動感もあまり違いが出なかったので驚いたとある。さらにボブ・スチュアート氏は、そのデータレートの差で失った音の差分を聴かせてくれたが、ほとんど聞き取れないくらいのものだったという。
次に44.1kHz/16bitのCD品質の楽曲をMP3に落とした際、同様の差分がどうなるかを聞いてみたところ、こちらは聴いてすぐにわかるくらいの違いがあったということだ。同じ曲を330kbpsのSCL6で聞いた場合、その差は分かるがMP3ほどではなかったという。このことからSCL6においては、音楽の重要な部分が削られていないのではないか、と筆者は書いている。
また、別の曲でデータレートを可変させながら聞いても、やはり差は分かるけれども、音楽の良さは損なわれないとも書いている。
これらの記述から、SCL6ではMP3のような既存のコーデックよりも「上手に」より低いデータレートに落とし込んでいて、同じ状況でも音質というよりも、音楽の本質的なエッセンスである躍動感や質感は損なわれにくいということがうかがえる。しかし、330kbpsでも圧縮音源としては十分に高いデータレートなので、さらに低いデータレートではどうなるかはわからない。
またSCL6が競合するのは、従来のMP3やBluetooth Classic(SBC)ではなく、LDACやaptX HD、あるいは最新コーデックであるLE AudioのLC3なので、(ここで筆者も書いているが)SCL6がベストであるという結論はまだ早計ではあるかもしれない。
いずれにせよ、MQAが新たな方向に向かって動き出したことは注目に値することだと言える。
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