相手の心理を利用する詐欺はマジックと似た面がある
筆者の職業はマジシャン。「人をだますこと」が仕事で、たくさんの人をあざむいてきました。誤解がないように補足すれば「楽しく、幸せにだますこと」が仕事です。
一方、ネットを使った詐欺が世間を騒がし続け、社会問題になっているのも、ご存知の通りです。
今回は、だましのプロだからできる、2023年版の最新の詐欺メールと、「なぜ、だまされてしまうのか」を心理から解説していきます。コラムの最後には、詐欺にだまされないポイントと秘訣も紹介しますのでお見逃しなく!
「Uberからの承認番号を伝える偽ショートメール」
その手口は「不意打ち」
SMSは、メールに比べ、その短さとスピードから「すぐに手続きをする」タイプのやりとりに利用されることが多くなりました。そんなSMSの性質を利用した詐欺があります。
たとえば、こんな手口です。「お客様のUberコードは6407です。お心当たりがない場合、Reply STOP to +X XXX-XXX-XXX to unsubscribe.」(Xには電話番号が入ります)というSMSが、突然入ってきます。
本物なら、電話番号の部分に企業のドメインやURLが入りますが、番号の場合は偽メッセージであることがほとんど。このメッセージに返信すると、個人情報を入力するように誘導されます。
なぜ、この手の詐欺にだまされてしまうのでしょう? 意外にも、こうした詐欺にだまされやすいのは、即断即決をするタイプの人や、集中力の緩急(仕事モードとプライベートの切り替え)が苦手な人かもしれません。
その理由は、即断即決モードで「次はこのメッセージが来ないよう、すぐ配信停止をしよう」や「プライベートな時間帯に何度も送られるのが、もう嫌だから……」と偽のサイトに返信させることが、この詐欺の目的だからです。
マジックで例えるなら、一瞬で猛獣を舞台に出現させ、不思議に思わせる以上に観客を驚かせることに似ています。分類するなら、スピードによる「不意打ち」パターンでしょうか。スピード感で、見る人を油断させる方法です。
「セキュリティを更新するからログインして」
その手口は「味方のふり」
「この度、弊社サイトでは新たなセキュリティを導入するため……ログインが必要です」などのメールを送り、フィッシングサイトに誘導する偽メールを送る詐欺があります。
今年に入ってから、「えきねっと」など交通サービス、楽天、TS CUBIC(トヨタファイナンス)を語る詐欺メールが報告されています。
「ユーザー(あなた)の安全を守るためだから、手続きをしてください」と安心させ、味方のふりをする手口です。そこがだまされてしまうポイントです。
マジックでも、同じやり方があります。マジシャンにとって大切なのは、観客に信頼感を持ってもらうこと。たとえば「どうぞ、トランプを調べてください」とトランプを観客に渡すのです。観客は、「観客に調べさせるということは、仕掛けがないはず」と思ってしまう……。
「セキュリティを更新するからログインして」という詐欺は、「信頼感を持ってもらう」ことを悪用しているのです。
「お客様は規制されました」
その手口は「緊張させる」
これは、オリコ、アメリカン・エキスプレス・カード、NHKプラスをかたるメールとして報告されている手口です。「第三者による不正使用の可能性があるので、利用を一時的に停止する。解除したいならログインを」という内容の文面で、フィッシングサイトに誘導し、ログインさせることでIDやパスワードを窃取するのが目的です。
マジックに例えるなら、ショーのクライマックスにドラムロールが鳴るシーンをご存知でしょうか。ドラムロールの音は、聞く人を緊張させ、マジック以外では「受賞者発表シーン」などによく使われます。緊張→受賞者発表→サプライズは、緊張と緩和で人に高揚感や安心感をあたえる流れです。
こうした緊張を与えてだます詐欺の場合、「規制されてしまった」という緊張、「手続きが終わった」という緩和が生まれます。この心理を突いているのです。手続きが終わった安心と高揚感から、だまされたことに気が付きにくいという面もあります。
「不正利用されたかモニタリング調査に協力して」
その手口は「人間は自分が役に立つことを願う心理」
最近では、「不正利用されたかモニタリング調査に協力して」という文面で、アマゾン、エスポカード、セゾンカードなどをかたる詐欺メールが報告されています。
有名な企業から「協力してほしい」という申し出は自尊心をくすぐりますし、誠実な人には社会貢献ともいえる行為かもしれません。そんな善意を利用する手口です。
マジックに例えるまでもなく、「助けてほしい」と家族のふりをする振り込め詐欺など、大きな被害を生む手口なので注意が必要です。
「ハックしたからビットコインを払え」
手口は「わかっているふり」
アダルトサイトを見ていないのに、「オマエの恥ずかしい行いをバラまくぞ」という脅しのメールを送って、ビットコインなどを振り込ませる手口があります。最近は、筆者の仕事用のPCとアドレスにさえ届くようになりました。
日常でも「カマをかける/かけられた」という表現があるように、「知られているのかも……」という不安を突く手口です。あなたのことはわかっている……というふりをするわけです。
マジシャンが封筒を取り出し、「中に予言をしておきました」というシーンを見たことはないでしょうか。もちろん、マジシャンでも未来を知ることはできません。少しだけタネを明かすと「わかっている」という演出にすぎないのです。
詐欺にだまされないためには……
ほかにも、「住所情報が欠落していて宅配便が届きません」という“ありがちなミスを再現”した手口や、「メルカリポイントが3000円もらえる!」というような、やっぱり自分は運がいい……と誤解させる詐欺メールも今年に入って猛威をふるっています。
これらの詐欺の特徴は「すぐに」「24時間以内に」など、必ず手続きを焦らせること。判断力を鈍らせる常套手段です。そうした内容のメールを受け取ったときは「怪しい」と思うスイッチをオンにすることを忘れない。それだけでも、だまされる確率は下がります。
これらの対策すべきポイントは、今回紹介してきたメール/SMSを悪用した詐欺にもあてはまります。あわてずに、メールのヘッダ情報から「どのドメインからメールが発信されたか?」を調べたり、メールのリンクからではなく、自分がブックマークしている企業サイトからログインしてみたりする……。
そんな習慣をつけておけば、予備知識がなくても、詐欺メールに引っかかりにくくなります。
冷静に考えてみれば、詐欺メールの「今すぐに対処して」という手続きは、どれも後で対応できることがほとんど。たとえば宅配便の営業所が荷物を持て余していれば、トラックドライバーや営業所から電話がかかってきますし、ネットで買い物した荷物が届かなければ、ユーザーがショッピングサイトから問い合わせれば対応してもらえます。
ただし、電話を利用した詐欺もありますので、「誰からの発送ですか?」と必ず質問し、心当たりがなければ「こちらからサービス窓口に連絡します」とかけ直すことも忘れないでください。
「急がせるメール=怪しいメール」と考え、ゆっくりと冷静に、落ち着いて対応するだけで、詐欺に引っかかる確率は低くなります。人をだますプロのマジシャンが言うので、ぜひ試してみてくださいね。
前田知洋(まえだ ともひろ)
東京電機大学卒。卒業論文は人工知能(エキスパートシステム)。少人数の観客に対して至近距離で演じる“クロースアップ・マジシャン”の一人者。プライムタイムの特別番組をはじめ、100以上のテレビ番組やTVCMに出演。LVMH(モエ ヘネシー・ルイヴィトン)グループ企業から、ブランド・アンバサダーに任命されたほか、歴代の総理大臣をはじめ、各国大使、財界人にマジックを披露。海外での出演も多く、チャールズ英国王もメンバーである The Magic Circle Londonのゴールドスターメンバー。
著書に『知的な距離感』(かんき出版)、『人を動かす秘密のことば』(日本実業出版社)、『芸術を創る脳』(共著、東京大学出版会)、『新入社員に贈る一冊』(共著、日本経団連出版)ほかがある。
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