今回は、フランスのVSORAが提供するTyrプロセッサーを取り上げたい。創業は2015年とやや古め。創業者はJulien Schmitt氏とTrung Dung Nguyen氏の2人だが、2人ともフランスのDiBcomという、TV向けのデジタルチップセットを製造するファブレスメーカーに勤務していた。
DiBcomは2011年にParrotというドローンメーカーに買収され、両氏ともそのままParrotに移籍している。最終的なポジションはSchmitt氏がDSP&ASIC group manager、Nguyen氏がSenior Signal Processing Engineerだったようだ。
もともとDiBcomは、高性能・低消費電力なDSPを核としており、これを利用して欧州で利用されているさまざまなデジタルTVの標準規格に向けたチップセットを提供していた。一方のParrotはドローンの製造にあたり、やはり高性能かつ低消費電力なプロセッサー技術を必要としており、なのでDiBcomの保有していた製品ポートフォリオというよりも核となるDSP技術を買収した、というのが正しいところだろう。
Schmitt氏とNguyen氏は2015年にParrotを辞してVSORAを設立する。ちなみにCEOには、DiBcomの創業者兼CTOであり、ParrotでもDigital Tuner部門のCTOだったKhaled Maalej氏が就いているが、なぜかMaalej氏はVSORAの創業者ではないらしい。
5G NRで通信可能な信号処理プロセッサー
そんなVSORAであるが、当初目指していたのはAIではなく信号処理の方向だった。創業から3年後の2018年9月、VSORAはLETI(フランス電子情報技術研究所)と共同で、3GPP Release 15の物理層をマルチコアDSPで実装したことを発表している。
この時VSORAはMPU-801というSingle Core DSP Processorと、これを4つ統合したMPU-3201というMulti Core DSP Processorの2つをラインナップしている。
VSORAは当時はまだ製品売りというよりもIP売りの会社であり、LETIとの共同発表もLETIのニーズに合わせてMPU-3201をカスタマイズしたものを提供し、これを実装(どうも発表を読んでいるとシリコンを製造したというよりはFPGAに実装したようだ)上で5G NRの物理層のアルゴリズムを搭載、これを利用した5G NRの通信実験に成功したようだ。
ちなみにこのMPU-801/3201の内部構造はさっぱり不明なままである。説明によれば以下の特徴を持っているそうだ。
- High processing-power eliminates the need for specific coprocessors and ensures greater flexibility
(高い処理性能により、特定のアクセラレーター類を必要とせず、高い柔軟性を確保する)
- Customizable DSP-processing power
(DSPの処理能力をカスタマイズ可能)
- Customizable Floating-point Arithmetic Logical Units
(FPUもカスタマイズ可能)
- Efficient low power instructions
(効率の高い低消費電力な命令セット)
- High level description of algorithms
(アルゴリズムを高レベル言語で記述可能)
- Mixing signal processing and embedded software
(信号処理を演算命令に混在可能)
- One code for data-link layer & physical layer
(データリンク層と物理層を1つのコードで記述可能)
- Separates automatically codes running on the DSP and on the CPU
(DSP上で動作するコードとCPU上で動作するコートを自動的に分離)
それをどうやって実現したのか? の説明は一切ない。もう少し詳細な説明が下の画像だが、これでも中身がさっぱりわからない。カスタマイズの自由度が高いことはわかるのだが、それだけである。とは言え、5G NRの基地局の処理ができる程度の性能がある(これもその基地局の規模次第なので、性能を一概に議論するのは難しいのだが)ことしかわからない。
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