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まったく新しい理論で作られた“8K SOUND”の神髄とは?

final、フラッグシップ完全ワイヤレス「ZE8000」をついに発売

2022年11月22日 19時00分更新

文● ASCII

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ZE8000

 finalは11月22日、完全ワイヤレスイヤホンのフラッグシップモデル「ZE8000」を正式発表。12月16日に発売する。価格はオープンプライスで、店頭での販売価格は3万6800円程度になる見込み。

 カラバリは白と黒の2色があり、質感の高いシボ塗装を採用している。バッテリーケースは大きめだが、これはカスタムのイヤピースを取り付けても充電できるようにするための配慮。一方で、ふたの開閉がしやすくするように、ワンアクションのスライド開閉機構を取り入れている。

 なお、final公式パートナー堀米雄斗さんの出演するスペシャルムービー「BE A GAME CHANGER」の公開も本日からスタート。東京を拠点にするクリエイティブチームPERIMETRONが制作を担当している。また、限定5台のZE8000が当たるフォロー&リツィートキャンペーンも同日20:00からスタートした(終了は11月30日)。

ZE8000が切り拓く“8K SOUND”とは?

 ZE8000は“8K SOUND”を標ぼうしている。業界で長い間リファレンスとされてきた特性とは“異なる物理特性”を発見したことで、音楽を高精細に聴かせられるという。8Kのネーミングは、8Kの高解像度映像に由来する。finalの代表を務める細尾氏によると、NHKの技術発表イベントで初めて8K映像を見たときに感じた「自分の知覚を超えるような新しい体験」にインスピレーションを得たネーミングだそうだ。

細尾氏

 いわく、「8K映像を目の当たりにすると、最初はどこにピントを合わせるべきか戸惑うところがある。しかし、どこに注目しても、情報量は豊かでどこまでも奥行きがある」。8K SOUNDもこれに近い特徴があるという。例えば、デジタルカメラも撮像素子の画素が低い時代は、輪郭線を強調し、シャープさを強調した画作りが主流だった。実はイヤホン開発でも、音圧や周波数特性を調整することでこれに近い加工ができる。具体的には、子音に相当する数kHzの帯域を少し持ち上げれば、セリフやボーカルが聞えやすくなり、解像感が高くなったように感じるといった具合だ。

 写真では被写体の印象を強くするため、見せたい部分の輪郭をはっきりとさせ、後ろはぼかすという手法も良く取られる。従来のイヤホンのチューニングはまさにこれで、一聴すると、「高解像度ふうの表現ではある」が、「本質的な意味の高解像度ではない」と細尾氏は語る。

 一方で、8K SOUNDは音域のどの部分に注意を向けても、細かな情報量が得られるサウンドであり、8K映像の衝撃と同じように「最初の5分、10分に困惑の時間があり、聴きこむことで様々な気づきが得られる」という。イヤホンのレビューではよく、高域が明瞭、低域が豊かといったキャラクターが紹介されるが、8K SOUNDのZE8000については、こうした言葉にしにくい感覚があるそうだ。社内でも異次元のものができたという感触を持っており、じっくりと聴きながらその特徴に気づいてほしいという。

 そして、ZE8000のこうしたサウンドは、これまで培ってきたfinalのノウハウがあるからできたとも言える。実現の背景には、finalが長年取り組んできた研究開発の蓄積があり、冒頭での述べた新しい物理特性は、教科書とは違うアプローチで音圧や周波数特性に取り組んだ結果だそうだ。時間応答なども含む様々なパラメーターが複合した結果、非常に小さいがとてもいいポイントがあることを発見したのだという。

 現状では具体的にそれが何かは示されていないが、finalでは4~5本の論文を通じてその概念について発表していく考えだという。論文執筆には、実験、エビデンスの抽出、統計的な処理などが必要になるため、費用と時間がかかるが、1~2年後には明らかにできるのではないかと細尾氏はコメントした。

ドライバーだけでもデジタル信号処理だけでもダメ

 ZE8000の音を実現するためには、デジタル信号処理とドライバー開発の両方が必要だった。デジタル信号処理は、ドライバー特性の補正や人工的なエフェクトのようなものと思われがちだが、これはドライバーユニットそのものの精度に限界があり、できることに制約があったためという側面があるそうだ。

f-CORE for 8K SOUND

 finalでは、既存のZE3000などでも採用してきたドライバーを「f-CORE for 8K SOUND」として刷新。直径は10mmで、振動板のコート、フィルム一体成型などに取り組んだ。一般的なイヤホン用のドライバーでは、振動板を磁力で動かすためのボイスコイルを接着している。接着剤の量、濃度、硬さなどはノウハウだ。しかし、そもそも論として、振動板に接着すると接着剤自体の重さによって振動板の軽さがスポイルされるという問題があった。そこで、ZE800のドライバーでは、ドライバーのエッジと振動板を別パーツに分け、射出成型で振動板を挟み込む工法を採用。接着剤を不要にした。これによって高い精度が得られるという。

デジタル信号処理に向けた開発ツール

 加えて配線材も新しく特殊なものを作った。切れにくさと軽さを両立し、さらに空中配線で端子まで運ぶ手を掛けたものになっている。最近のイヤホンでここまでやるメーカーは少なく、不良率が上がったり、断線しやすくなるといった問題も生じがちだが、何年かかけて実用化にこぎつけたという。そのために生産に使う機械から自社で製造したという。特徴としては100Hz以下の歪みが圧倒的に少ないこと。一般のイヤホン用と比べて、1/10以下の低ひずみとなっており、低域の音階なども明瞭だが、それ以上に細かに制御した信号処理に的確にこたえるために、このドライバー必要だったそうだ。

周波数特性。100KHz以下の低域のひずみの少なさに注目

 デジタル信号処理については、測定、シミュレーション、パラメーター調整ができる独自開発のソフトウェアを開発。何年もかけて作られたものだという。こうした製造から信号処理までの一貫した取り組みがZE8000の音を支えている。

珍しい外見だが、考えた末のデザイン

 こうした音へのこだわりに加え、使い勝手にも配慮している。例えば、特徴的な外観は装着性へのこだわりが反映されたもの。一見、奇妙な形に見えるが、理詰めで決めたデザインだという。より多くの人に合う形状にするなら、本体は小さいほうがいい。そこでドライバーユニットをいれる部分だけを飛び出させ、その周囲に電池を収納する部分、一番外側に長いアンテナを付けている。装着感の改善と音質の悪影響を減らすための試みだが、細尾氏によると、将来的な話にはなるが、電池交換できる完全ワイヤレスイヤホンの開発も目指したいという。

特徴的な外観

 ZE8000は、finalとして本格的にノイズキャンセル機能に取り組んだ製品でもある。外部の研究者の知見も取り入れ、低音のにじみなど音質面での影響や圧迫感の低減などに配慮。最大の売りである音に影響を与えないノイズキャンセルにした。アルゴリズムから自社開発しており、測定方法から考えたものになっている。

 また、風切音を防ぐ、ウィンドカットモードを設けている。ヒアスルーも2種類あり、外音と音楽を聴くための「ながら聞き」モードと、音楽の再生音量を下げて人の声(アナウンス)を聴きたい「ボイススルー」モードが用意している。

 使い勝手の面でも、回転しやすく、ちょっとしたひねり方で装着感を調整したり、稜線を付けて持ちやすく落としにくいするといった配慮を加えているという。マイクはビームフォーミング技術を採用。上部と下部に別々のマイクを持ち、距離の差を利用して狙った場所の音を拾う。ここも、「“ビームフォーミング定食”のモジュールではなく、外部企業からの協力を受けながら、final独自の取り組みを入れているそうだ。

 イヤーピースは5サイズを用意。final定番のEタイプとは異なる新しいもので、春までに出す予定のカスタムイヤーピースとも交換可能にする予定だという。カスタムイヤーピースはやわらかいタイプ、ハードで装着が強いものの2種類で検討中とのこと。これ以外にもfinalでは個人最適化の機能の導入も考えているという。

内部

 最大で96kHz/24bitの伝送ができる“SnapDragon Sound”にも対応。Bluetooth 5.2対応で、コーデックはSBC、AAC、aptX、aptX Adaptiveが利用できる。連続再生時間は5時間(ケース充電併用で最大15時間)、IPX4相当の防滴機能を持つ。アンプ部分は省電力なClass Dタイプではなく、敢えてAB級アンプを搭載。S/N感が高く、静寂から音が立ちあがる感じの再現ができるという。また、薄膜高分子積層コンデンサ搭載(ルビコン、PLMキャップ)している。音響用部品については、懐疑的な面もあり、部品が大きく選定後に公開した面もあったが、音の面での驚きがあったそうだ。

さすがfinal、かゆいところに届くアプリ機能

 細かいが使い勝手を向上させる機能もある。一つが細かな音量調節の機能。音楽を聴くうえで、音量は重要な要素だが、細かな調整ができる機種というのは意外に少ない。例えば、iPhoneの場合は16ステップ。人間の耳は少しの変化にも意外に敏感なので、ちょうどいい音量にできないシーンはかなり多い。

final CONNECT

 ZE8000用に開発した専用アプリ「final CONNECT」では、アプリの設定で自分が使いたい音量をまず指定し、その周辺を細かなステップで調節する機能を持つ。「社内でもなんで今までやらなかったのかと言われるほど、素敵な機能という評価」と細尾氏は言うが、屋外や静かな室内など状況に応じたちょうどいい音量が得やすく「不快感やストレスが軽減できる」という。

ボリュームステップの最適化機能

 final CONNECTには、このボリュームステップの最適化に加えて、PROイコライザーも搭載。昔からプロのマスタリングエンジニアが経験則として持っている、定番の帯域、使い方のエッセンスを取り入れることで、マイナス要素が少なく、効果的で好ましいサウンドを追求できるものにしたという。

 また、アプリからは“8K SOUND+”というモードも選べる。これはより高精度な信号処理をするためのモードで、電力消費が増え、バッテリー駆動時間が30分~1時間駆動短くなるが、演算能力を限界値まで高めることでより高音質化が図れるという。最後の最後まで悩んだ末、取り入れた機能とのことで、発売と同時にアップデートがあり、8K SOUND+のオン/オフ機能がアプリに追加される。「最後にやっぱりやりたいと考えた決断」だと細尾氏は語った。

 finalの8000シリーズは、これまでもヘッドホンや有線イヤホンでブランドのマイルストーンになるような技術を取り入れてきた。すでに述べたように8K SOUNDは、圧倒的な高解像度とそこから得られる新しい感覚を表現した言葉だが、8000シリーズの8Kでもあると個人的には思う。業界の流れに逆らいつつも、研究開発に力を入れ続けているfinalの技術に対する姿勢が強く表れた製品なのだ。

 発表会で細尾氏は「今回の研究成果をたくさんの人に感じてもらいたい。自分たちの考えや文化を体現している製品であり、利益を出すことよりも、これから先のアイデアを実現するための布石として売れてほしい」と感慨深く語った。finalとしても強い思い入れを持った製品に仕上がったようだ。

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