新横浜ラーメン博物館のウラ話 第18回

ラー博にまつわるエトセトラ Vol.13

札幌ブラックの先駆者 札幌「名人の味 爐(いろり)」

文●中野正博

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 みなさんこんにちは。2024年の3月に迎える30周年に向けて、これまで実施してきましたさまざまなプロジェクトが、どのように誕生したかというプロセスを、ご紹介していく「ラー博にまつわるエトセトラ」。

 2022年7月より、過去にご出店いただいた約40店舗の銘店を2年間かけて、3週間のリレー形式で出店していただく「あの銘店をもう一度」がスタートしました。3月が過ぎましたが、おかげさまで大変多くのお客様にお越しいただいております。

前回の記事はこちら:
知る人ぞ知るご当地ラーメン 岡山・笠岡「中華そば坂本」

過去の連載はこちら:新横浜ラーメン博物館のウラ話

 第7弾は札幌ブラックの草分け的存在である「名人の味 爐」さんが、26年ぶりにラー博に帰ってきます! 出店期間は2022年11月4日(金)~11月24日(木)

「名人の味爐」のスペシャルらーめん

 札幌と言えば味噌というイメージが定着しておりますが、味噌が誕生する前は醤油ラーメンがメインの味で、なおかつ、地元の方々は味噌よりも醤油を好むという特徴があります。その後味噌ラーメンは全国を席捲し、札幌=味噌というのが定着しました。そしてこの15年位は、札幌も多様化して、味噌がメイン問お店は徐々に少なくなっています。

 では爐さんの歴史から紹介していきます。

 1951(昭和26)年、創業者・大関十一郎氏は、北海道大学の恵迪寮(けいてきりょう)の近くで店舗を構えました。当時、店内に囲炉裏があったことが、現在の屋号の由来となっています。

 1962(昭和37)年、大関十一郎氏の兄である2代目・大関鉄三氏が、十一郎氏の誘いで「爐」をすすき野(南4条、西5条)にオープンさせました。また親戚筋も苗穂駅前に店を構え、3店舗を構えることとなりました。その後、鉄三氏の戦友からいい場所があると紹介を受け移転したのが、北4西5(現在のアスティ45ビル付近)の店舗でした。

駅前店(北4西5)の外観。 1967(昭和42)年頃

 1987(昭和62)年、北4西5の駅前店が再開発となり、その年に竣工した札幌センタービルからのラブコールを受け移転。鉄三氏の長男である3代目・大関徹史氏は、この頃からお店を手伝うようになり、2013年に発寒南に移転。現在も70年を超える爐の看板を守っています。

現在の店舗

 新横浜ラーメン博物館が開館して2年後、喜多方「大安食堂」が卒業する事となりました。この時、「レギュラー店以外に期間限定店を設けて、より活着なサイクルで多くのお店を紹介出来ないか」との思いから始まったのが、「新横浜着 全国ラーメン紀行」プロジェクトです。切り口は「ご当地」はもちろん、個性、話題性なども加味して、日本全国の多彩なラーメン文化を柔軟に紹介して行く企画でした。

 その記念すべき第1弾としてご出店いただいたのが「爐」さんでした。

新横浜着 全国 ラーメン紀行のメインビジュアル

 当時、既にレギュラー店に札幌「すみれ」さんがあったにもかかわらず、敢えて同じ札幌の「爐」さんを誘致したのは、同じ札幌でも幅広いバリエーションがある事を紹介したかった為でした。それほど独特な味わいだったのです。その味が26年の歳月を経てラー博に復活いたします。

 はじめて見た人は「イカ墨?」と思う方も多くいらっしゃいますが、イカ墨は全く使用しておりません。その秘密は野菜+魚介類の旨味がたっぷり含まれた特製焦がしラードにあります。

 この特製焦がしラードは、自家製ラードに野菜やイカ、ホタテ貝、つぶ貝、あさり等をいれ強火で焼いたものです。強火で焼く理由は、せっかくの濃厚スープが野菜や魚介類などの水分によって薄まってしまうのを防ぐためです。こうして培われてきた技術こそが「名人の味」の所以なのです。

 本店では、このスペシャルらーめんを注文する人が約7割を占めるほどの人気となっています。

 中華鍋を使いラーメンを作り上げていきます。特製の焦がしラードを完成させたのちに、豚骨を強火で炊いた白湯スープを加え、タレを入れスープが完成します。

 麺は札幌ラーメンの歴史を変えた西山製麺の多加水熟成ちぢれ麺。力強いスープに負けない弾力とコシを兼ね備えています。

西山製麺の多加水熟成ちぢれ麺

 具材は「らーめん」にはチャーシュー、もやし、メンマ、そして「スペシャルらーめん」には挽肉、魚介類(ツブ貝、ホタテ貝、あさり、イカ等)とボリュームたっぷりです。

 もちろん「らーめん」にも野菜の旨味が詰まった特製焦がしラードが入り、独特な味わいで癖になります。

「らーめん」 スペシャルと比べ焦がしラードの色合いがこげ茶色です。

  「スペシャルらーめん」が黒に対して「らーめん」はこげ茶色で、スペシャルと比べややあっさりとした味わいに仕上がっております。二人で来られた時は是非食べ比べてみるとその違いがよくわかります。

 連綿と受け継がれた70余年の味を、是非皆様の舌でお確かめください。

 次回は11月7日(月)からスタートする「あの銘店をもう一度”94年組”についてです。

1994年、先例のない未知の事業に対して決断した創業8店舗によってラー博はスタートしました。94年組はレジェンド7店(出店中のこむらさきを除く)が3ヶ月前後のリレー形式でご出店する新たな店舗です。お楽しみに!!

 新横浜ラーメン博物館公式HP
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文/中野正博

プロフィール
1974年生まれ。海外留学をきっかけに日本の食文化を海外に発信する仕事に就きたいと思い、1998年に新横浜ラーメン博物館に入社。日本の食文化としてのラーメンを世界に広げるべく、将来の夢は五大陸にラーメン博物館を立ち上げること。