業務を変えるkintoneユーザー事例 第161回
自分で作ったアプリを押しつけても使ってもらえなかった時の処方箋
kintone導入担当の本当の役割は「現場がアプリを作りたくなる環境づくり」
2022年10月19日 09時00分更新
kintoneを導入してアプリを作り始めたら楽しくなってしまい、変化を求めていない現場との温度差に悩まされる。これはkintone導入にまつわるありがちな話題のひとつだ。ここを抜け出す方法は各社各様だが、後藤組が取ったのは、導入担当である笹原尚貴氏にアプリを作らせないという手だった。自身でアプリを作ることを封じられた笹原氏は、どのようにしてkintoneを全社に浸透させていったのか。kintone hive 2022 仙台における笹原氏のセッションレポートをお届けしよう。
kintoneアプリ作成にハマり、技術を磨いてたどり着いたのは「スキルモンスター」
米沢市に本社を置く後藤組は、創業が大正15年と長い歴史を持つ土木建設企業だ。同社に、笹原氏は新卒で入社し、営業などの仕事を担当していた。そんなある日、社長は笹原氏を呼び、「これからはデータドリブン経営を目指すことにした。担当は笹原さんだ」と告げた。
「経済学部出身だしPCにも強くないと言ったのですが、『分析が得意だからできるよね』と言われて、『イエスマイボス』と返事をしてしまいました」(笹原氏)
後藤組の社員構成は20代と50代が多く、30代と40代が少ない。中間世代が少ないので知識やスキルの断絶が起きており、経営に頼る経営からの転換が求められていた。そこで社長が打ち出したのがデータを元に経営判断するデータドリブン経営であり、データを元にすれば若手もベテランと同じ品質の仕事ができるようになると期待された。
しかし建設業の現場は完全にアナログな世界だ。デジタル化されていないから、データがない。データがなければデータドリブン経営もできない。業務のデジタル化から取り組む必要があった。
「アジャイル開発ですぐにアプリを作れること、データを蓄積して活用できることなどから、ツールにはkintoneを選びました。社長に直訴して導入してもらい、思いつくままたくさんのアプリを作成しました。最初の1ヵ月くらいは、私にとって楽しい時間でした」(笹原氏)
紙やホワイトボードにアイディアを書き出せば、kintoneですぐにアプリ化できる。いくつものアプリを作り、アプリに蓄積するデータを活用する仕組みも作った笹原氏は、「勝ったな」と確信した。用意したアプリを使ってもらえればデータもたまるし、データドリブン経営を実践できると信じていた。しかし、笹原氏が最初に作ったアプリ群はまったく使ってもらえなかった。
「ネットを検索すると、kintone導入でうまくいっているキラキラ企業がたくさんあります。私もあんな風にキラキラしたアプリを作れば、使ってもらえるはず。使ってもらえなかったのは、私のスキルが足りなかったせいだと、当時は考えていました」(笹原氏)
ここから笹原氏はJavaScriptを学び、kintoneアソシエイトの資格も取得し、kintoneエンジニアとして成長していった。こうして笹原氏は「スキルモンスター」になり、現場のアナログな人とはどんどん話が噛み合わなくなった。
現場がkintoneアプリを作りたいと思える環境を作り、それを後押しする
Kintone導入が空回りし、社内で孤立しかけていた頃、笹原氏は社長室に呼び出された。社長は笹原氏に、自分自身でアプリを作ろうとするのではなく、現場の人がアプリを作るような環境をつくれと諭した。
「ここで私は気づきました。私は、データを集めてデータドリブン経営をするためにkintoneを『使うべき』だと考えていたのです。しかし実際には、使う人が『便利になる』ようなメリットを与えなければならないのでした。そして現場がメリットを得られるアプリを作れるのは、課題を知っている現場です。社長はそう言っていたのでした」(笹原氏)
社長の意図を汲んだ笹原氏は、一度は社内で嫌われてしまったkintoneを好きになってもらうために、ひとつだけアプリを作った。シンプルな日報アプリだ。たったひとつのアプリでいいから、kintoneを使うことにまずはなじんでもらいたい。ひとつのアプリ、ひとつの部署でいいから成功実績が生まれれば、全社を巻き込めるはずだと笹原氏は考えていた。
「最初に失敗して孤立してしまった経験から、周囲を巻き込むことが大切だということにも気づいていました。理解ある幹部に、これまでのkintoneは忘れてくれていいので、日報アプリだけをとにかく使ってもらえるよう事前にネゴしました。ジャパニーズ NEMAWASHIです」(笹原氏)
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