“次の100年”に向けてアプリ、サービス、グループ共通デジタル基盤の構築を担う新組織
なぜ東急は内製化にこだわり「Urban Hacks」を立ち上げたのか
2022年10月03日 07時00分更新
東急では2021年7月、まちづくりDXを加速させるための特別組織として「Urban Hacks(アーバンハックス)」を設立し、それからの約1年間で30人の専門人材を採用した。その成果のひとつとして、このほど東急グループ3社のスマホアプリを内製で開発し、サービスの提供を開始した。自前でのソフトウェア開発経験がなかった同社の挑戦に注目が集まっている。
Urban Hacksは「東急グループの資産をハックして、より豊かな暮らしをつくる」をテーマに掲げ、顧客とのデジタル接点の拡充や高度化、各事業のデータを連携するためのデジタル共通基盤の構築、そしてデータの活用を通じた顧客行動のより深い理解や、リアルと連携したシームレスなサービス提供を目指している。
東急のリアルビジネスにデジタルを融合させていく
東急 デジタルプラットフォーム Urban Hacks VPoE プロジェクトオーナーの宮澤秀右氏は、「Urban Hacksは、東急グループの核となるデジタルプラットフォームを構築し、グループの各事業を横断したアプリやサービスを開発する組織として生まれた」と説明する。
東急グループの沿線には約500万人が住み、鉄道乗降客数は年間約9億人、グループ会社は200社以上に達するという。デジタルを活用し、沿線の街に住んでいる人、通勤で通っている人たちに新たなサービスや移動体験を提供することを目指すと、宮澤氏は語る。
東急グループは2022年9月に100周年を迎えた。だが、これまでの100年を振り返ると、交通や不動産、リテール、ホテル、エンターテイメント、電気、ガスなど、事業は多岐に渡るものの、ほぼすべてが“リアルビジネス”になっている。
「これからの100年も、東急グループはさまざまなことに挑戦する。だが今後は、デジタルテクノロジーを駆使し、リアルのサービスと融合することで、お客様にいままでにないサービスを展開していくことが大切になる。『リアルとデジタルの融合』こそが東急における重要な戦略であり、その推進を担う組織がUrban Hacks。顧客を起点にして、次世代の街づくりを進めていく」
Urban Hacksでは、デジタル共通基盤の構築やアプリ開発、サービスの提供のために、1年間で30人超のソフトウェア開発人材を採用した。職種は、プロダクトマネージャーやシステムプランニング、UI/UXデザイナー、サービスデザイナー、QAエンジニア、アーキテクチャーデザイン、モバイルアプリエンジニア、インフラエンジニア、サーバーサイドエンジニア、Webフロントエンジニアと幅広い。
「東急グループは、ソフトウェア開発からはかけ離れた存在であった。そのため、採用したいデザイナーやエンジニアに対して、企業のイメージを変え、それをどう伝えるかが重要だった。『人々の暮らしを豊かにするための街づくりのDX』というビジョンを、より具体的に真実味を持って伝えていくことが大切であり、それに対して、共感や賛同を得るとともに、デジタル人材が持つ自らの技術を社会に活かしたいという夢を実現できるイメージを作ることに努めてきた」
その狙いと取り組みは成功したと言える。
宮澤氏も「いいペースで人材が採用できた。人材獲得の競争が激しい領域において、IT企業ではなく、ソフトウェア開発を行ったことがない企業が(デジタル領域の)人材を獲得できた成果は大きい」と自信をみせる。
ちなみに、採用した人材の居住エリアは、「東急沿線」と「沿線外」とで半々だという。「自分が住んでいる場所を豊かにしたいというモチベーションで入社してくる社員もいる」という。
宮澤氏は「今後の人材拡大に向けた数値目標は設定していない」というが、その一方で「東急グループのサービスを支えるには30人では足りない」ことも強調する。
「目に見えるアプリの開発だけでなく、事業を越えたサービスを実現するには共通基盤の強化も必要になる。開発の規模やサービスの拡大を見積もり、そこから逆算している。今後も採用を続けていく必要があると考えている。採用が進めば、いいものをさらに早く提供できる」
また、中期的には社員のリスキリングを考えているほか、新卒の採用も検討していくという。「開発をし続けるためには採用を継続し、サステナブルな組織にする必要がある」と語った。
なぜ内製化にこだわったのか? 3つの視点
東急グループは、なぜUrban Hacksを組織化し、開発を内製化することにこだわったのか。宮澤氏はその理由を次のように語る。
「顧客体験や顧客接点にこだわり、社会の状況や様々な変化に応じてタイムリーにサービスや体験を提供したいと考えたことが起点にある。外部へ発注する開発では、出来上がるのは半年後や1年後になる。コロナ禍で世の中が一瞬にして変わってしまったようなことが起こるかもしれない時代のなかで、お客様に提供する価値は、内製化することで、タイムリーに時勢にあわせてつくっていきたいと考えた」
さらに、こうも語った。
「自分たちでやることによってお客様と直接つながり、自分たちのもとに利用データを蓄積できる。蓄積したリアルデータとデジタルデータを活かして、ほかのサービスにつなげ、これを繰り返すことで、東急グループの新たなデジタルサービスを進化させることができる。そのために内製化に踏み切り、顧客サービスを提供することにした」
内製化によって、各事業会社の情報システム部門との連携も強固なものになり、各領域のエキスパートの力も取り込んでより高い価値のサービスにつながるという。
「例えば、東急カードのアプリ開発には、Urban Hacksのメンバーとともに、東急カードのシステム開発者やビジネス担当者も参加して共同開発を行った。カード領域のドメインエキスパートと一緒に開発することで、既存システムとの連携や、事業会社の立場ではできなかったことにも取り込むことができる。カード決済のための重厚長大な仕組みや、それを管理する仕組みは内製化できない。だが、この仕組みを使って、サービスの価値を最大限に高めることができる」