いま注目される木造建築
── いま木造建築が注目されていますね。日本は戦後大量に植えられたスギを活用しなければいけないという社会課題もあると聞いたことがありますが、木造が注目される一番の理由は何だと思いますか?
和田工場長 内装としては、安らげる香りがあったり、視覚的な落ち着きがとれるような空間をしつらえることができたりという効果が大きいでしょうね。社会的には2010年に施行された木材利用促進法が大きかったと思います。それがあって東京五輪でも木を使おうという話になり、脱炭素化に向けて木造建築をたくさん建てようということで木がクローズアップされてきました。
── とはいえ木だけで高層建築というと厳しい部分もあり、新しい技術と組み合わせることになるかと思います。鉄筋やコンクリートであったり。
和田工場長 耐火性能については耐火基準が1時間、2時間、3時間と基準が分かれているんですが、木でも耐火被覆などをして燃えなくなる要件を満たせば、3時間の性能は可能なんですよ。
── へえーっ。木造でも鉄骨並みの耐火ができるということですか?
和田工場長 建築法規上は可能です。耐火材を使うことで芯材を燃やさないようにする技術がここ10年ほどですごく進んだということもありますね。たとえば木の芯材に石膏ボードと耐火シートを張りつけた上に無垢の化粧シートを張った「スリム耐火ウッド」は、外側が燃えても内部の荷重支持部を火災の熱から守ります。木は一気に燃えず、じわじわと炭化するという特徴もあり、逆に鉄骨などは熱が加わると一気に強度が落ちる傾向があります。ただ高層建築となると、耐火より地震や台風に影響される構造設計のほうが大きいファクターになってくるので、いかに鉄骨と木を使い分けて作るかということを各社がやっているところですね。
── そうなると鉄骨のほうが地震や台風に有利なのにあえて木を使っているということですか?
和田工場長 一概にそうとも言いきれません。木にすると建物が軽くなる部分もあるんですよ。地震力は重さにもかかってくるし、建物が重ければ杭も沢山打たないといけない。木にすれば多少軽くなるというメリットがあるんです。
── なるほど。最近になって木材に関する技術革新が重なったことも、木造建築が注目されるひとつの要因になったのかもしれないですね。
和田工場長 もうひとつ木材の特徴があるとしたら、集成できるということですね。先ほど見ていただいたベンチのように、薄い木材を作って継ぎ足すという加工技術があります。また、朽ちにくいという技術としては乾燥技術もありますね。木から水分や養分を抜くと、外部に出しても朽ちにくいんです。外に無垢を使いたいが、朽ちないようにしたいというときにはそういう提案もしています。木材の加工技術、乾燥技術、接着技術。そういった技術革新が固まってイノベーションにつながったのかもしれません。
── 加工技術といえばCNC加工機やロボットです。
和田工場長 ロボットを入れてよかったのは、CNCを使える社員にロボットを見せたときに目が輝いていたことですね。「プログラムを組めばこんな複雑な形ができるんだ!」と、モチベーションが上がっていたのが僕らの喜びでした。手だけじゃないんですよ、職人は。ロボットでいかに難しいものを作りきるかということがあるんです。手だけで作れば時間も手間もかかるし、体力も落ちていく。その点、機械は作り続けてくれるので。
── あくまでも加工機械は職人の道具であると。
和田工場長 技を磨く、なんてカッコいいことを言ってますが(笑)、技能五輪や技能グランプリという木工技術を競う大会があり、出場した社員がメダルを獲っているんです。なぜ競技大会に出てほしいのかというと、CNCやロボットを扱う社員は手加工をしっかり分かっている必要があるからなんです。
和田工場長 ロボットはボタンを押したら勝手に作ってくれるかというとそんなことはなく、ボタンを押すまでのプログラミングが一番大事なんです。この形をどう切ったら早いか、どう切ったら美しくなるかということが分かっていなければいけない。木が硬い、軟らかい、濡れている、含水率がある・ない、木目の方向はどちらか、などという条件を知っていなければいけない。CNC加工機で穴を掘るにしても、太いルーターで掘るとトルクがかかりすぎてしまい、細いルーターを使うとたくさん掘れない。どの機具をどの順番で取り、どのくらいのトルクをかけるということを熟知していなければプログラムはできないんです。
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