業務を変えるkintoneユーザー事例 第144回
情報共有はできているか? 書籍から得た思想とノウハウをいざ実践へ
課題がないことが課題!? 探り当てた3つの課題を新人エンジニアが“スケスケ化“で解決
2022年07月25日 11時00分更新
まずは、開発の状況を共有するための「ベロシティ」「スプリント」という2種類のアプリを作った。ベロシティは、チームの開発実績を個別で管理するアプリ。またスプリントは、各チームがベロシティアプリに入力した情報をタブ化して1つの画面で管理できるようにしたアプリで、タブの作成にはkintoneをカスタマイズするノーコードツールの「gusuku customine」を使っている。それまでアナログ作業で数えていた実績値の自動計算も実現した。
「こうした改善は、『kintone Signpost』という業務改善の書籍を参考にして進めた。最初は小さく始めて、使ってもらって不便なところをヒアリングし、その部分を修正して公開を繰り返していきながら、利用者に寄り添うアプリを作ることができた」(石川氏)
さらに、kintoneのグラフ機能で、さまざまな開発の実績値を可視化することができるようになった。この2つのアプリの導入で、3つの課題のうち、手作業の記録と開発部外への業務内容の開示という2つの課題を一気に解決できた。
エンジニアチームでありながら、あえてノーコードツールを使っている理由について、石川氏は「コードを書くことが私たちの仕事ではない。ツールを使えば効率化できるところは、積極的に利用すべきだと考えている」と話す。
小さく始めた「ほめるアプリ」が全社に拡大
残るテレワークの問題を解決するため、石川氏は「スケスケ化計画その2」を実行に移す。ポジティブな話題を共有する「ほめほめアプリ(ほめアプ)」と、逆にネガティブな話題を共有する「モヤモヤスレッド」の2つのアプリを作成したのだ。
特に、ネガティブな話題の共有が重要だと考えた。とかくネット上では「ステキ」「ナイス」「好きです」といった言葉がよく飛び交うが、それは心理的安全性が高いことはいえないと、石川氏は指摘する。「仲がよいだけでは、見せかけのチームワークになっている場合もある。むしろ、言いにくいことがスケスケに語り合える職場こそ、心理的安全性が高いと考えた」。ネガティブな話題は長文の議論が生まれがちだが、話し合いの活発化や他部署からのアドバイスを得られやすくするために、投稿内容を「スレッドアクション」で管理できるようにした。
このような思いを込めて作ったモヤモヤスレッドだったが、実際は社員の書き込みがなく、石川氏はどうしたものかと悩んだ。しかし、『kintone Signpost』に書かれていた「定期的な棚卸し」の実行を参考に、しばらくはそのまま残して、一定の時期が経ったところで判断することにした。「スレッド会話が盛り上がっているなら、モヤモヤではなくてもヨシと考えることにした」
一方のほめアプは、当初開発チーム内で小さく始め、フィードバックを繰り返しながら使い勝手を改善していった。同時に書き込む内容についてガイドラインを作成し、「ほめアプに書き込むことを『ほめ活』と呼んで、レコード登録時にカスタマイズした表示を入れるなど、また登録したいと思わせる仕掛けを組み込んだ」
このような施策によって、業務内容と社員の気持ちのスケスケ化が進んだと思った石川氏だったが、一部の社員はアプリの内容を見てくれていないことに気づく。対策を考えるうちに、サイボウズのオウンドメディア『サイボウズ式』の記事を見てヒントを得ることになる。「見せようとして、見てくれない人にフォーカスするのでなく、誰でも見られる状態に保つことが重要だということを知り、情報のスケスケ化を続けることが大事だとわかった」
その結果、今、チーム内では、kintoneで全社共有させたいときは、「これ、スケスケにしといて。」と言うことで伝わるまでになった。「最初はスケスケという言葉が少し恥ずかしかったが、今では他部署から開発チームのスレッドに書き込みが増えてきたり、スケスケの考え方が浸透してきたと感じている」(石川氏)
石川氏がCollaboflowチーム内で小さく始めた業務改善は、大きな広がりを見せている。しかし手を緩めようとはしない。今回のkintone hive nagoyaへの登壇によって、スケスケ化をさらに拡散し、社内勉強会も開催して理解を深めるように促していく。「目指すのは、社員全員が情報をオープンにしないといてもたってもいられなくなる『全社のスケスケ化』」だという。そしてそのとき、今はまだ実現していないネガティブな情報のスケスケ化も進んでいることを期待する。石川氏の挑戦は、これからも続く。
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