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富士24時間レースでクラス優勝したデミオのチームを密着レポート!

2022年07月02日 15時00分更新

文● 写真 松永和浩 編集●ASCII

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2020年の富士24時間クラス優勝チーム
「TEAM NOPRO」に密着!

 スーパー耐久の富士24時間レースとしては2022年で5回目ですが、それ以前の十勝24時間レースが終了して以降、最長のレース時間は必ず富士スピードウェイ戦でした。

DXLワコーズNOPROデミオ

 2012年にスーパー耐久シリーズにDE型マツダ・デミオで初参戦したTEAM NOPROがその翌年、2013年の富士7時間レースで優勝します。この優勝はマツダ車がロータリーエンジン以外のいわゆるレシプロエンジンで、史上初めて国内主要耐久レースに優勝した記念すべきものです。その時のマシンが今回の富士24時間レースで37号車として参戦するDXLワコーズNOPROデミオです。

DXLアラゴスタNOPROデミオ

TEAM NOPROのメカニックやスタッフ

 2015年からTEAM NOPROはディーゼルエンジンのマツダ デミオ SKYACTIV-Dでスーパー耐久を戦うこととなります。この時、世界的に見ればアウディがルマン24時間レースでディーゼルエンジンのレーシングマシンを走らせていましたが、日本国内のスーパー耐久でのディーゼルエンジンは史上初めてでエントリーもたった1台。国内すべてのサーキットレースを見渡しても、富士チャンピオンレースに違うチームから1台がエントリーしているだけという状態。誰も手を付けていなかったディーゼルエンジンによる耐久レースチャレンジはまさに孤高の存在となっていました。

スターティンググリッドでのDXLアラゴスタNOPROデミオとドライバー

 キワモノと噂されながらも2016年には鈴鹿戦で優勝。その後も表彰台に度々登壇するようになります。そして2020年の富士24時間レースでマツダ ロードスターやホンダ フィットなどと戦い、見事に優勝を手にします。

DXLアラゴスタNOPROデミオの吉岡一成選手とレースクイーンの霧島聖子さん、そしてスーパー耐久キャラクター「スパーク」の特大ぬいぐるみ、通称「おやびん」

 ディーゼルマシンでの耐久レースの戦い方は、予選はあまりタイムが上がらずに中盤の位置からスタートし、一定のタイムを淡々と刻みながらの走行をしながら燃費の良さからくる少ないピット回数とタイミングで上位にあがっていくというパターンでした。しかし、今回の富士24時間レースでは熟成の高まったエンジンやマシンを、予選を担当した大谷飛雄選手と吉岡一成選手が好タイムで駆け抜け、なんと並みいるロードスター勢を抑えて3番手グリッドにつけることに成功! ここは早々に上位を狙える位置となり、スタートドライバーの大谷選手も熱が入ります。

Gr.1のスタート

 そして6月4日の15時にフォーメーションラップからのレーススタートとなりました。まずST-X、ST-Z、ST-TCR、ST-QからENDLESS AMG GT4、Nissan Z Racing Conceptが2台、ST-1、ST-2で編成されたグループ1からスタートしていきます。

Gr.2のスタート

 続いてST-3クラス、ST-4クラス、ST-5クラス、ST-Qクラスから水素エンジンの「ORC ROOKIE GR Corolla H2 concept」、CNFの「ORC ROOKIE GR86 CNF Concept」、CNFの「Team SDA Engineering BRZ CNF Concept」、バイオディーゼルの「MAZDA SPIRIT RACING MAZDA2 Bio concept」がスタートします。

ST-5クラスのスタート

 トップスピードが200km/h以上になるほかのクラスと比べて、200km/hで頭打ちになってしまうST-5クラスはGr.2のスタート列から少し遅れてコカ・コーラーコーナーへ現れます。このコカ・コーラコーナーの進入で大谷選手のDXLアラゴスタNOPROデミオは予選2番手のLOVEDRIVE ロードスターをアウト側からパスしていきます。

2位に浮上するDXLアラゴスタNOPROデミオ

2周目以降、トップのTHE BRIDE FITにプレッシャーをかけまくるDXLアラゴスタNOPROデミオ

 2位に浮上してからはトップのTHE BRIDE FITとのバトルとなります。ここ最近の傾向からしてもバトルでトップをもぎ取るような場面はめったになく、このような接近戦バトルが展開できるようになったのはマシンの熟成が進み、またドライバーも成長著しいからでしょう。

レース開始45分後にトップとなったDXLアラゴスタNOPROデミオ

 最初のスティントでTHE BRIDE FITに競り勝ち、開始後45分でトップに立ったDXLアラゴスタNOPROデミオ。もうここからは逃げ切るしかありません。その逃げ切るポイントの一つにピット作業があります。

ドライバー交代の様子

 富士24時間レースではローカルルールとして、作業を伴うピットインをした場合は滞在時間が2分以上と決められています。もしこれに満たないままコースに戻ると、その差がペナルティストップとして課せられてしまうのです。なので比較的ゆっくりと正確に作業ができるのです。

給油の様子

TEAM NOPROはガソリンと軽油を使い分けるためにタンクにも色分けや目印を施します

 スーパー耐久ではST-XからST-4クラスまではSUPRE GTのような給油タワーが必要となりますが、ST-5クラスではスーパー耐久専用の20リットル給油タンクが使われます。3時間フォーマットでは1回の給油で1缶、5時間と24時間では2缶の給油が可能となります。ガソリン車だと給油1缶で50分程度、ディーゼル車だと1時間10分弱の走行が可能なようです。

 またピット義務としてはピットガレージ内で10分間のメンテナンスタイムがレース時間が22時間が過ぎるまでに1回が課せられ、もしピット滞在時間が足りなかった場合はこれも残時間がペナルティストップに充てられてしまいます。

日没後はナイトセッションとなり灯火類と自光式ゼッケンが光ります

 18時56分に日没を迎えるとレースはナイトセッションとなります。各車とも灯火類と自光式ゼッケンが光ります。ヘッドライトだけでは暗いということで補助灯をつけるマシンも多いのですが、それ以上にピットから車両の判別がつきにくくなるため、様々な箇所へLEDテープで目印をつけていきます。

19時45分から20時までの花火が終わるとナイトセッションもメインタイム

 19時45分からヘアピンADVANコーナーの奥で花火が上がります。鈴鹿サーキットでもSUZUKA10Hやバイクの鈴鹿8耐のゴール後に花火が上がりますが、富士スピードウェイの場合はADVANコーナーアウト側の斜面やパドックからは見下ろす感じで花火を見ることができ、またその花火の下をマシンが駆け抜けていく様は新鮮な感覚です。

ダンロップコーナーの進入時にフロントブレーキが赤く光る

 夜のとばりがどっぷりと降りてくるとスーパー耐久の参戦マシンが幻想的な姿に変化していきます。TGRコーナーやダンロップコーナーへの進入では減速度が大きくなるためにブレーキローターが真っ赤に光るところを見られます。ブレーキは摩擦エネルギーを熱エネルギーに変換してその熱を放出して減速するんだなぁ、という物理の授業で習うようなことが目視できるのもナイトセッションならではと言えます。

 しかし、ナイトセッションは様々なトラブルが出てくる時間帯でもあります。

DXLワコーズNOPROデミオ

 23時ころにDXLワコーズNOPROデミオと全薬工業withTEAM G/MOTION'インテグラが接触。左フロントフェンダーを破損してしまったDXLワコーズNOPROデミオは緊急ピットインしガムテープで修復。ドライバーを野上達也選手にチェンジしてレースに復帰します。そして日付が変わる午前0時ころに、先ほどの接触が原因かどうかは定かではありませんがピット出口付近でスピンし、観客席側の芝生エリアでマシンを止めてしまいます。

 それ以外にも様々なチームで諸々のトラブルが出てくることもあって、日付が変わるあたりで10分間のメンテナンスストップをとるチームはかなり多かったようです。

夜明けが近くなりうっすらと明るくなってくる午前4時過ぎ

 2020年はコロナ禍の影響で9月開催となった富士24時間レースですが、通常は5月末か6月初頭というスケジュールで開催されます。この時期は日の時間が長くなりながら梅雨入り前のギリギリの季節ということとなり、今年の富士24時間レースも6月5日の日の出が4時30分という時間となっていました。

曇りながらも朝の日をうっすらと浴びる富士山

 晴れの日の日の出であれば富士山自体が朝日を浴びてピンク色に染まるのですが、この日の日の出は曇りのためにそこまでハッキリと色に染まることはありませんでした。しかし、朝の富士山を背景に走るマシンを見ることができるのはこの富士24時間レースだけ。神々しい気分にさせてくれます。

日の出直後も危険な時間帯

 そんな神々しい気分にさせてくれる朝の光ですが、実は魔の時間帯でもあります。周囲が明るくなってくると急に各車のペースも上がってきます。これにより接触やコースアウトなども増えてきます。また、明るくなってきたことで急に気が緩む場合もあり、作業ミスが起きやすい時間でもあります。今回の富士24時間レースでも朝5時ころにアクシデントが発生、FCY(フルコースイエロー)が提示されました。

最終スティントに臨むDXLアラゴスタNOPROデミオ

 盟友37号車のDXLワコーズNOPROデミオや同門の55号車 MAZDA SPIRIT RACING MAZDA2 Bio conceptがアクシデントでリタイヤする中、まったくのノートラブルで22時間以上もトップを走り続けたディーゼルエンジンの17号車 DXLアラゴスタNOPROデミオ。23時間の時点で2位に3周差以上をつけた状態で最後のドライバー、チーム代表の野上敏彦選手にチェンジします。

残り25分でFCY提示

 ところが残り時間25分のところでFCYが提示されるとチーム内がどよめきます。もしこれがSCに変更となれば3周差あるアドヴァンテージが2周となってしまいます。ましてや2位につけるヒロマツデミオ2のドライバーはニュル24時間帰りでイケイケの佐々木孝太選手。もしかすると、という悪い予感もよぎりましたが、ここはFCYのままレースが再開されます。

残り10分で優勝を予感したのか? 感無量の大谷選手

まだ早いよ、と時計を見せる給油のずらやん鈴木さんと茶化しを入れる吉岡選手

 FCYを何事もなく過ごしたDXLアラゴスタNOPROデミオ。このままゴールへと突き進むだけという状態となった際の残り10分。大谷飛雄選手の目からは涙が。実は大谷選手は2020年にTEAM NOPROが富士24時間レースで優勝した際に、ST-2クラスのアクセラディーゼルを担当していたために優勝を経験していませんでした。大谷選手自身のキャリアの中で初めてのスーパー耐久、そして富士24時間レース優勝となったのです。

ファイナルラップでマシンを迎えるドライバーやスタッフ

見事ST‐5クラス優勝!

 24時間を経過したのちに総合トップのマシンがチェッカーを受けるとレースが終了となるのですが、この時の総合トップはST-XクラスのHELM MOTORSPORTS GTR GT3が残時間20秒でもう1周に突入。ここからファイナルラップとなります。

 ファイナルラップとなるとフェンス越しにマシンを出迎えるために、各チームのスタッフやドライバーがピットのプラットフォームに集まます。

 そしてチェッカーフラッグ! 総合優勝はST-XクラスのHELM MOTORSPORTS GTR GT3、ST-5クラス優勝はTEAM NOPROの17号車 DXLアラゴスタNOPROデミオとなりました。

チェッカー後はパルクフェルメまでピットロードを逆走してのパレードとなります。総合優勝はST-XクラスのHELM MOTORSPORTS GTR GT3

ST-5クラス優勝の17号車 DXLアラゴスタNOPROデミオ

水素エンジンカローラはフィニッシュドライバーもMORIZO選手

 チェッカーフラッグを通過した後のマシンはピットロードを逆走してパルクフェルメ(車両保管場所)へのパレードとなります。この時ドライバーは片手を出して沿道の様々なチームスタッフからタッチの祝福を受けるのです。また優勝チームは自チームの前で待ち構えるドライバー全員がマシンに乗り込み、優勝をアピールします。上限6名で優勝したチームともなると何人かはボンネットに乗ったりも。

 こんなお祭り騒ぎのパレードでは、水素エンジンカローラのMORIZO選手こと豊田章男社長も手を出してタッチの祝福を受けています。

スーパー耐久マスコットキャラクター「すぱーく」も表彰式で祝福

総合優勝はST-XクラスのHELM MOTORSPORTS GTR GT3は優勝トロフィーと賞金100万円、そしてST-Xクラス優勝でも賞金100万円を獲得

ST-5クラス優勝の17号車 DXLアラゴスタNOPROデミオの表彰式

 富士24時間レースではどんな成績であっても、完走した際にはドライバーやメカニックの方々はやり切った、という感覚に包まれるそうです。だからこそ来年も出たくなるという魅力がエントラントをひきつけるとのこと。しかし同じことは見ている観客や取材するメディアにも言えます。そしてレースクイーンの方々にも。すべての人々の「やり切った」という感覚が来年も富士24時間レースに向かわせるのかもしれません。

 ただしスーパー耐久シリーズはすぐに次戦がやってきます。次戦は7月9~10日のスポーツランドSUGOでの3時間レース。24時間に比べればスプリントレースのような耐久レース。しかしそこにまた難しさがあるようです。

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