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東京2020オリンピック バスケ女子銀メダル獲得の裏に分析あり

2022年07月05日 06時00分更新

文● 末岡洋子 編集●岩瀬ASCII STARTUP編集部

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 2021年に開催された、東京2020オリンピック。数々のドラマが生まれたが、その1つが女子バスケットボールだろう。決勝ではアメリカに敗れたものの、堂々の銀メダルを獲得した。その活躍を支えたひとりが、当時アシスタントコーチを務めていた恩塚亨氏だ。

 2022年4月2日に一般社団法人日本スポーツアナリスト協会(JSAA)が東京のリアル会場とオンラインのハイブリッド開催した年次イベント「スポーツアナリティクスジャパン2022(SAJ2022)」の基調講演で、恩塚氏とJSAAの代表理事の渡辺啓太氏が対談した。

 恩塚氏は高校の教員として女子バスケ部のコーチを務めた後、新設の東京医療保険大学に企画書を持ち込み、女子バスケ部の創部を経験。発足間もないチームを11年目にしてインカレで初優勝に導いた。現在ヘッドコーチとして、2022年まで5連覇を続けている。

 平行して、日本バスケットボール協会にアナリストとして志願。テクニカルスーパーバイザー、チームリーダーを経てアシスタントコーチとなった。その後ヘッドコーチに就任し、パリ五輪に向けての歩みを開始した。

アナリスト経験からつかんだ戦略

 アナリストからヘッドコーチというキャリアについて、恩塚氏はアナリストの経験が生かされていることが2つあるという。1点目は「競技を構造的に見ること」、2点目は「ワクワクのマインドセット」だ。

 1点目については、「構造的に見ることで流れをつかみ、それに対して妨げる要因をクリアする ことがパフォーマンスを上げる鍵であると説明する。2点目の「ワクワクのマインドセット」は、ロジカル追求で正確な予想が可能となった反面、選手が楽しそうにプレーできなかったことから生まれた。

 恩塚氏は「トム・ホーバス(Tom Hovasse)ヘッドコーチが金メダルを取ると選手に伝え、自分を差し引くことなく理想を引っ張る心の状態に導いたことが大きかった」と語る。 それまでは、身長差や「過去にメダルを取ったことがない」など「できない理由」に目を向け、やらなければという義務感に追い立てられていた。

 そこで日本代表チームは、「脳は必要な情報を優先的に取得する」というメカニズムを活用。できる理由が自然に目に入り、自分はできるという状態を作っていった。

 さらに重要視したのが、「高いアジリティで強みを発揮し続けること」だ。 恩塚氏が考える「アジリティ」とは、「目まぐるしく状況が変化する中で、最良の選択を素早く行い、行動できる能力の高さ」だ。気持ちの切り替えの速さも含まれるという。

 これにより、うまくいかないときにチャンスへ目が向かなくなる状態をリセットし、「ワクワクしながら足も頭も軽やかに動かし続けることができる」と考えた。この「ワクワクのマインドセット」に加え、「原則の遂行」も重視する。何をすべきか明確化し、チーム全体で共有することで、調和したプレーができる。そのうえで、規律と即興が生まれるという狙いだ。

課題解決のカギ

 しかし、その後課題も出てきた。その場ではできてもつながりが読めていないので、後手になってしまうのだ。今どんな流れなのか、どんな方向に向かっているのかの流れを把握する「文脈認知力」を養う必要があると恩塚氏はいう。

 スキルや原則が「点」であるのに対し、文脈認知力は「線」となる。流れを把握することにより、 余裕が生まれる。「余裕を持ってプレーするからパフォーマンスも上がり、スキルも発揮できる」と説明した。

 現在チームでは、「アジアカップ優勝」、「W杯優勝」、「オリンピック金メダル」と目標を立てているが、重要なのは、それらの目標の先にある目的だ。常に「どんな存在になりたいか」と選手に問いかける。

「人が最も輝くのは、たくさんの人に夢を与えているとき。最高のパフォーマンスを出すカギは、個人のためにやるよりも、人に夢を与えているときだ」恩塚氏は心の持ち方を選手に投げているという。

勝利へと導くアナリストの役割

 アナリストの役割は重要だ。特定のプレーについての成功や失敗を追いかけるのではなく、プレーについての現象を説明し、どうアプローチすればチームを強化できるかまで提案できるかで、アナリストとしての資質と能力が問われる、と恩塚氏は語る。それができれば、チームや選手のパフォーマンスに変化を与えることができる。

 目的に対する最高のシナリオを「戦略」。戦略を実現させるための手段やオペレーションを「戦術」と定義しながら、「戦略を定める情報を出すことが素晴らしいアナリストだと考えている」という。恩塚氏はヘッドコーチとなった現在、うまくいかない現象だけでなく、その理由も追求する。

「どうやって(How)」を説明するのが「データ」であるのに対し、戦略の部分で「何を(What)」を説明するのが「インテリジェンス」とし、「情報をデータからインテリジェンスに昇華させることがアナリストには重要」と述べた。

 恩塚氏が女子バスケの分析で心がけているのは、「何があったか」という現象よりも相手の戦略を読むところだ。数字だけではなく、ベンチでの指示やコミュニケーションまで分析しないと読み解けない、という。

 日の丸をつけてバスケットをし、貢献したいという思いからスタートしたという恩塚氏。当時はビデオの編集すらままならなかった 状態から、手探りでここまでこぎ着けた。その間、優秀なアナリストが増え、分析は当たり前と なった。アナリストについても「なぜそれが起きているのかを見つめて掘り下げ、議論することが大切」と助言し、対談を締めくくった。

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