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「映像DX」推進を目的に、物理セキュリティ/監視目的にとどまらないカメラ映像活用を可能に

キヤノンMJ、ハイブリッド型映像管理クラウド「VisualStage Pro」発表

2022年06月21日 11時20分更新

文● 大河原克行 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp

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 キヤノンマーケティングジャパン(キヤノンMJ)は2022年6月20日、キヤノングループ初となるハイブリッド型クラウド映像プラットフォーム「VisualStage Pro powered by Arcules(以下、VisualStage Pro)」を、7月1日から国内提供開始すると発表した。

 キヤノンも出資する米Arcules(アーキュリーズ)が開発し、キヤノンMJが国内独占販売権を取得したVisualStage Proは、「VSaaS(Video Surveillance as a Service)」と呼ばれる大規模向けのクラウド型録画サービス。キヤノンMJではすでにクラウド型録画サービスとして「VisualStage Type-S」などを製品化しているが、新サービスはVisualStageの上位エディションと位置づけ、国内への展開を進める。

 同サービスは6000機種以上のネットワークカメラに対応するほか、各種IoTデバイスや映像解析ソフトウェアなどと連携し、一元管理できるのが特徴。遠隔モニタリングを実現して企業内DXの推進をサポートするのに加えて、既存のNVR(ネットワークビデオレコーダー)を専用ゲートウェイに入れ替えるだけの簡単なクラウド移行を実現する。日々の危機管理業務や専任管理者も不要、最新機能へのアップデート作業も不要というクラウドサービスならではの特徴も持つ。

ハイブリッド型クラウド映像プラットフォーム「VisualStage Pro powered by Arcules」の特徴。6000機種以上のカメラと接続できるだけでなく、IoTデバイスや多様なシステムとの連携、映像解析なども可能にし、映像活用の幅を広げる

VisualStage Proの画面イメージ(画像は公式サイトより)

米Arcules APACセールスディレクターのエリック・フリース・モンドーフ氏、キヤノンマーケティングジャパン ソリューションディベロップメントセンター長 兼 NVS企画本部 担当本部長の寺久保朝昭氏、キヤノン 執行役員 イメージソリューション第一事業部長の甲谷英人氏

数千台、数万台のカメラ映像も複数拠点から活用可能

 米Arculesは、キヤノンが買収した映像管理ソフトウェアのMilestone Systemsから2017年にスピンオフし、キヤノンも出資して設立された企業。Milestone Systems のインキュベーション事業ユニットが母体となり、Arcusの社名でスタートしたが、2018年にArculesに社名変更した。米国市場を中心に事業を推進し、欧州にも展開している。

 ビデオメッセージを寄せた米Arcules CEOのアンドレアス・ペッタソン氏は、Arculesが提供するVSaaSの特徴について、「わずか数秒で映像の選択や保存期間の管理、監視カメラの追加ができ、ネットワークが不安定な状況であっても、低帯域幅であっても、高解像度の映像を扱うことができる」と説明する。キヤノンMJと連携して日本市場で展開を進めるうえでは「日本特有のニーズにも応えられるようにグローバルの経験を生かし、簡単で信頼性が高く、安全なVSaaSという特徴を生かしたい」と述べた。

 米Arcules APACセールスディレクターのエリック・フリース・モンドーフ氏は、ArculesのVaaSは数千種類のカメラに対応しており、簡単に導入できること、遠隔地から設定や管理、メンテナンスができることなどが特徴だと語る。オンプレミス型VMS(映像管理ソフトウェア)でトップシェアを持つ「Milestone XProtect」、サードパーティ製のPOSシステムや入退出システム、BIツールなどとも連携できると、拡張性の高さを強調した。

 「国内外を問わず、広く拠点を展開する企業に適している。導入済みの数千台のネットワークカメラも一元管理することができ、それらの映像データを管理、分析できる。エンタープライズレベルの信頼性を実現しており、多様なアクセス権限の設定も可能だ」(モンドーフ氏)

 海外では、1万台以上のカメラを世界数百カ所で運用している事例がすでにあるほか、新たに10万台以上のカメラを世界数千拠点で運用する企業への導入も決定したという。

オンプレミスのNVR「Milestone XProtect」や専用ゲートウェイとも接続が可能で、多様な導入形態に対応する

 「ハイブリッド型」をうたうとおり、VisualStage Proでは用途に応じて2つのサービス形態をラインアップする。すべての映像データをクラウドで録画/保存する「Pure Cloudモード」は、月額利用料金が1200円(録画保存期間7日間の場合、税抜)から。ユーザー拠点に設置された専用ゲートウェイに映像データを保存し、クラウド経由で閲覧可能にする「Edge Cloudモード」は月額1100円。専用ゲートウェイはオープン価格としている。

 キヤノンMJでは、まずは年間1万ライセンスの提供を目指すとしている。

柔軟なカメラ映像活用を可能にして「映像DX」実現を支援

 キヤノンMJ ソリューションディベロップメントセンター長 兼 NVS企画本部 担当本部長の寺久保朝昭氏は、キヤノンの「祖業」はカメラであり、現在は映像ソリューションをITソリューション事業における注力領域の1つと位置づけていることを紹介。単に監視映像を録る/見る物理セキュリティ領域にとどまらない、「映像で“不”を解決する『映像DX』領域に事業を拡大し、サービス型事業モデルでの展開を目指している」と語る。

 今回提供を開始するVisualStage Proについては、より多拠点/多台数のカメラ映像をクラウドで扱いたい、多様なベンダー製カメラやIoTデバイスを接続したいといったユーザーの声、サブスクリプションモデルでもビジネスのスケールにつなげられるサービスがほしいという販売パートナーからの声に応えるものだとする。

 キヤノンMJでは、同サービスの主要ターゲット分野として流通・小売業、製造業、医療介護、社会インフラ、ビルオフィスを掲げる。

 「小売業では、複数店舗に臨店するための移動時間がなくなり、売り場づくりの指導が効率化できる。優秀店舗の映像を共有し、各店舗の底上げを図ることも可能になる。さらに、店舗映像を活用して飲料メーカーが新製品の売れ行きや購入者の属性を確認したり、広告代理店や印刷会社が広告やPOPの効果を測定したり、損害保険会社が万引き保険の対象になるかどうかを検証したりと、多くのステークホルダーに共創機会を創出できる。これにより映像DXの進展を後押ししたい」(寺久保氏)

小売業におけるユースケースの例。映像を通じたステークホルダーとの共創拡大も期待していると語る

ネットワークカメラ事業は年率15%成長を目指す

 キヤノンでは2021年度から、それまでの製品別事業部制を産業別グループへと再編し、現在は「イメージング」「プリンティング」「メディカル」「産業機器」という4つのグループ体制としている。

 今回のVisualStage Proは、イメージンググループ内のネットワークカメラ事業の取り組みとして展開する。キヤノン 執行役員 イメージソリューション第一事業部長の甲谷英人氏は、ネットワークカメラ事業の戦略や期待を次のように語る。

 「ネットワークカメラは、安心安全のニーズに応え、社会インフラとしての役割を果たしている。それだけでなく、工場の生産性向上やマーケティング用途、新型コロナウイルスの感染防止のための遠隔モニタリング密集回避ソリューションなどにも利用されており、今後も大きな市場成長が見込まれる。キヤノンではこの分野における技術開発や企業買収により、事業拡大を進めている。カメラ本体に、映像管理ソフトウェアや映像解析ソフトウェア、クラウドサービスを組み合わせたトータルソリューションの強化により、市場全体の伸びを上回る年率15%の成長を目指している」(甲谷氏)

 キヤノンでは、これまでにもネットワークカメラのスウェーデンAXIS、映像管理ソフトウェアのデンマークMilestone Systems、映像解析ソフトウェアのイスラエルBriefCamを買収してきた。ネットワーク事業は、こうしたグループ企業との協力体制のもとで推進しており、映像データを活用した社会課題の解決に貢献するソリューションを提供していると述べる。

 「米Arculesは、世界で広く使われているMilestone Systemsの映像管理ソフトウェア『XProtect』の技術を活用しており、親和性が高いだけでなく、クラウドおよびサーバーのハイブリッドソリューションとしても提供できる。新サービスは日本市場における重要な一歩。キヤノングループ内でのシナジーを活かし、ネットワークカメラ事業の成長戦略を推進していく」(甲谷氏)

VisualStage Pro(Arcules)の位置づけと、ネットワークカメラ事業のビジネス目標

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