なぜトヨタはGRヤリスに力を入れるのか?
ではさらに一歩踏み込んで、なぜトヨタがここまで熱心にGRヤリスを速くしようとするのか? それはトヨタがワークス参戦している全日本ラリーの現状に由来していると考えます。
トヨタのワークスチームは全日本ラリーで少し苦戦しています。GRヤリスでJN1という最高峰クラスに参戦していますが、同じクラスのライバルにFIAのグループR車両であるシュコダ「ファビアR5」が参戦しているからです。GRヤリスはJAFのRJ車両という昔のFIA グループN車両に準拠した改造範囲のラリーカーです。一方のFIAグループR車両は、2WDのNAから4WDターボ化なども可能な、改造範囲が広いレーシングカーです。
ラリーは公道を走るモータースポーツなのでこれまでナンバー付きが基本でしたが、グループR車両はレーシングカーなので国内ではナンバーがつけられません。これにより、グループR車両を参戦させるため全日本ラリー主催者はラリー競技専用の仮ナンバーを申請するという、新たなルールも生まれました。国内では新たな試みでしたが、海外ではもう10年くらい前からこのグループR車両がラリーの主流になっています。
この大きな差がある2カテゴリーの車両が、全日本ラリーでは同クラスで戦っているのです。ファビアR5に勝利するためにも、GRヤリスのエントラントを増やすためにも、トヨタはGRヤリスの競争力を底上げする必要があるのです。
余談ですが、なぜ世界はグループR車両が主流になっているかにも触れておきます。もちろんラリーベースとなるスポーツ4WDを市販車設定している自動車メーカーがほぼない、という理由もあります。しかし一番の理由は、日本でも進んでいる「サポカー」など先進安全運転支援技術の普及です。
昨年の11月以降の新車種から自動ブレーキ(衝突被害軽減ブレーキ)などが義務化されました。交通事故の不幸な被害者を減らすためにも、今後の社会に先進安全運転支援技術は必要不可欠です。しかしモータースポーツでの使用に限定すれば、逆に危険な状況の原因にもなり得ます。たとえばラリーの現場でも、SSを全開走行をしていると車線逸脱防止装置が働きエラーが発生する、といったことが実際にあります。
統合制御された先進安全運転支援技術は、小規模のモータースポーツショップやチューニングショップレベルでは手に負えません。市販車を購入し、ラリーカーに改造し、ラリーに参戦することが難しくなっています。
こうした問題を解決にするため、海外メーカーはモータースポーツ専用車両をメーカーラインナップとして設定しています。それがレースにおけるGT3やGT4、TCR。ラリーではグループR車両のRally2やRally4などです。市販車を改造してモータースポーツせず、モータースポーツ専用車でモータースポーツしましょう、が世界的な流れなのです。
それに対する反発が、ヒストリックカーラリー人気が高まっている理由のひとつだと予想しています。

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