オムロン ソーシアルソリューションズ(以下、オムロン)が展開する「Toritoss(トリトス)」は、清掃、警備、案内の3つの作業を1台でこなす複合型サービスロボットだ。Toritossが生まれた背景、SORACOM採用の理由、安全性への拘り、導入状況などをオムロン ソーシアルソリューションズの澤村一輝氏に聞いた。
3つの機能をこなす複合型ロボットが生まれた背景
オムロングループのオムロン ソーシアルソリューションズは自動券売機や交通管制システム、決済端末など、幅広く社会インフラを支える製品を手がけている。同社の事業の根幹には「社会課題の解決」というテーマが横たわっている。オムロンがなぜToritossのようなロボットを手がけているのかも、当然ながらこの社会課題の解決がある。
Toritossのプロジェクトをリードする同社の澤村一輝氏は、「解決したい社会課題は人手不足。特に人材の足りていない清掃業と警備業にフォーカスしたロボットということで、プロジェクトを立ち上げました」と語る。過去、オムロン本社も製造業で用いられる工場向けのロボットやセンサーは開発していたが、こうした一般の方が訪れる施設向けのロボットは初めてだという。
澤村氏自身は、滋賀県にある同社の拠点で交通管制システムの開発を手がけていたが、新規事業としてToritossのプロジェクトを立ち上げるために、3年前に東京に移ってきた。ロボットの開発に関わるのも、企画、営業の経験もなく、勤務地も滋賀県から東京になったわけで、なにもかもが初めてだったという。
新たなロボットの製品化に向けて、複数の役割をこなす移動体ロボットというコンセプトは当初から決まっていたという。「清掃は、掃き掃除、モップがけ、ゴミの収集など複数の作業から成り立ちます。このうち掃き掃除だけロボットがやっても、投資対効果が出にくい。だから、掃き掃除に加えて、警備もできるようにすることで、清掃業務、警備業務でそれぞれ何時間か削減し、導入しやすく、投資対効果を出しやすくしようと考えました」と澤村氏は語る。
コンソールから発注、疎通、通信状態の確認までできるのが便利
こうして生まれたToritossは清掃、警備、案内の3つをこなすのがコンセプト。オムロン自身が工場で使っている産業用モバイルロボットを参考に、手押しでき、周囲の人の目にも触れやすい大きさとして現在のフォームファクターに落ち着いた。商業施設やスーパーで動作しても違和感のないよう曲面を多めにとり、いかめしくない外見となっている。
本体を手押しすることで地図とルートを覚え込ませることができ、清掃機能として掃き掃除、警備機能として防犯カメラと遠隔移動が可能。また、前面のディスプレイをサイネージとして活用できるほか、ロボットの正面にいる人とリモートで通話ができる。「ロボットの清掃や広告配信のスケジュールを組んだり、カメラの映像を見たり、地図上の場所まで動かすと行った操作が可能です」(澤村氏)。
Toritossの機能の多くは、他のモダンロボットと同じく、クラウドとの連携で動作している。ロボットの設定作成や動作履歴の確認をクラウドで実現しており、遠隔制御のためにも通信は必須となる。このToritossの通信部分に採用されたのがSORACOMになる。
現在Toritossで使っているのは、NTTドコモ回線を用いた大容量転送対応の「plan-DU」になる。「SORACOMのサービスには、とても満足しています。SIMの発注や疎通、通信状態の確認までコンソール上で行なえるので、組み立て工程では検査のときだけ通信するとか、保管時は寝かせておくといったことが柔軟にできます」(澤村氏)。
ソラコムとも定期的にコミュニケーションをとっており、要望もきちんと反映されているという。「3つの機能を持つToritossの使い方はお客様によって多種多様です。使い方で通信量に差が生じると収支計画が立てにくくなるため、極力平準化したいという要望に対して、新たな料金プランを提案・設定して頂きました」(澤村氏)。
安全性だけはすべてのお客さまに満足してもらえるように
Toritossの開発において最重要視したのは安全性だ。「Toritossはお子様やご年配の方を含めて様々な方々が訪れる施設での利用を想定していましたので、安全性だけは譲りませんでした。お客さまからはもっと早く走って欲しい、スロープや段差を乗り越えて欲しいといったご要望を頂くこともありましたが、全ての方々に対して安全であることを重視し、お客さまにもその設計思想をご理解して頂いています」と澤村氏は語る。
商業施設やスーパーでの利用を前提に、とにかくぶつからない、ぶつかっても怪我をさせず、安全に停止する。これを実現するため、Toritossではセンサーを数多く搭載している。壁や物体を幅広く認識するためのレーザーセンサー、鏡やガラスでも反応できる超音波センサー、万が一に当たっても停止するバンパーセンサー、段差を検知したら停止するセンサーを搭載している。人の歩行より若干遅い1.44km/hという最高速度も、万が一あたっても怪我をさせない安全性と、人が恐怖を感じないという点を考慮したものだという。
開発でもっとも苦労したのも、安定して動くという基本動作の部分だった。リリース時には、社内ではきちんと動くのに、ユーザーの施設だと止まってしまうこともあったため、そこはひたすら現地で検証。「社内のテスト環境では発生しなかった様々な挙動が現場で発生した。想定しきれていなかった障害物や人の動き、レイアウト変更に伴うマップの変化、これらを徹底的に現場で検証して徐々に完成度を高めてきました」(澤村氏)。
とはいえ、当初は開発側とのコミュニケーションに苦労した。滋賀県の開発チームと定例ミーティングを持っていたが、企画側が開発してほしい機能と開発部門が作った内容で、ミスマッチが生じていた。このミスマッチを解決するために、「これを作って欲しい」とリクエストはやめたという。「『これを作って』と言ってしまうと、開発の選択肢を狭めてしまう。『こういう背景と課題があるので、こういうことをしたい。なんか手段ある?』と聞くようにコミュニケーションを変えました」(澤村氏)。
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