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業界人の《ことば》から 第482回

シャープの新CEOは44歳の若さ、健康、世界戦略、そしてHITO

2022年04月25日 09時00分更新

文● 大河原克行 編集●ASCII

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今回のひとこと

「健康・医療・介護分野は、シャープの強みを存分に活かすことができる領域である。私は、デジタルヘルス事業を、スマートホームやスマートオフィスに並ぶ、SHARPブランドの新たな顔に育てていきたい」

(シャープの呉柏勲CEO)

1977年7月生まれで44歳

 2022年4月1日付で、シャープのCEOに就任した呉柏勲(ロバート・ウー)氏は、1977年7月生まれの44歳という若さが武器だ。台湾の家電販売店を営む家庭に生まれ、子供の頃から家電業界に慣れ親しんできたという。「当時、日本の家電ブランドに憧れのようなものを抱いていたことを、いまでも覚えている」という。

シャープの新CEO呉柏勲氏

 2001年6月に国立台湾科技大学大学院経営情報システム学を卒業後、同年7月に鴻海精密工業に入社。2010年にFoxconnスロバキアの経営管理担当マネージングディレクターを経て、2012年に堺ディスプレイプロダクト(SDP)に移籍し、経営企画担当参事に就任。2015年には同社非常勤取締役に就任した。

 2017年には、Sharp Thaiの社長に就任し、その後、Sharp Electronics(Malaysia)の社長を兼務。2019年にはシャープの常務に昇格し、アジア・オセアニア副代表に就任。シャープのASEANでの事業拡大を推進した。2021年には、海外ブランド商品事業推進本部長と、米州代表を兼務。米州事業や海外テレビ事業の責任者として、シャープブランドのグローバル拡大に取り組んできた。

 鴻海およびFoxconnで10年、シャープおよびSDPで10年の経験を持っている。「製造や営業、マーケティングなど、様々な経験を積み、企業経営の基礎を身につけてきた」と語る。

 前任の戴正呉会長は、瀕死の状態だったシャープを立て直した経営手腕が高く評価されているが、後継者探しには時間を要した。後継者の条件として、「環境変化への機敏な対応」「リーダーシップ」「将来のシャープの主力となる事業の経験」「ステークホルダーからの信頼」「グローバル経営スキル」の5つの能力を求め、日本人からの選出にこだわっていた時期もあった。だが、それに合致する人材が、日本人のなかにはいなかったようだ。

 呉CEOは、「後任のCEOに指名されたことを非常に光栄に思っている」としながらも、「私自身は、CEOとして、足らざる点がたくさんある。引き続き、自身の能力向上に努めるとともに、全力で職務に当たる所存である。社員の皆さんにも絶大なる支援と協力をお願いしたい」と、社内メッセージを通じて呼びかけた。

3つの観点でシャープを発展させ、成長させる

 では、呉CEOは、どんな経営をするのだろうか。

 戴会長は、シャープの創業の精神である「誠意と創意」を継承しなのがら、強いブランド企業“SHARP”の基盤を構築することに力を注いできた。

 呉CEOは、「創業の精神は不変のものとして、これからも継承し、経営基本方針もしっかりと引き継ぎ、実践、発展させる」と語る一方で、「3つの観点からシャープをさらに発展させ、社員一人ひとりが、より誇りを持てる会社にし、次の世代の人々の憧れとなる会社に成長させていく」と宣言した。掲げた3つのポイントは「健康関連事業のさらなる強化」「真のグローバル企業へ」「人(HITO)を活かす経営」である。

健康はいまのシャープを象徴する大きなキーワードである

 ひとつめの「健康関連事業のさらなる強化」では、デジタルヘルスという切り口から取り組み姿勢をみせる。

 呉CEOは、「シャープが取り組む8つの重点事業分野のなかでも、足元のコロナ禍や、高齢化などの動きを捉えると、健康・医療・介護分野に大きな可能性を感じている。今後、より多面的な取り組みを展開していきたい」と語る。

 プラズマクラスターやヘルシオといった白物家電が、人々の健康的な生活に貢献していることを示しながら、「今後も、空気、水、食を中心に、独自の商品やサービスの開発を強化し、健康価値の向上に取り組んでいく」とする。

 また、テレビやモバイル端末、オフィス機器など、顧客と接点を持つ商品がシャープには多いことをあげ、「こうした商品の強みを活かし、日々の健康管理や健康づくりに寄与するサービス提案などにも力を入れる」と述べた。

 そして、100年を超える歴史のなかで培ってきた映像技術やIT技術、センシング技術、小型化技術といったシャープの独自技術が、これから成長が期待されるデジタルヘルスの領域においても応用が可能であることを指摘した。

 デジタルヘルスの事例としては、昨年発売した耳あな型補聴器「メディカルリスニングプラグ」をあげてみせた。この補聴器は、製品そのものの性能だけでなく、シャープの通信事業やクラウドサービス事業で培ったノウハウを生かし、フィッティング調整をリモートで行うなど、これまでの補聴器にはない新たな仕組みが特徴だ。

耳あな型補聴器「メディカルリスニングプラグ」

 このように、健康・医療・介護分野では、健康的な空気や食、水を提供し、家庭で毎日の健康管理を行い、さらに産学連携や健康教育の推進によって、デジタルヘルスを展開。今後も新たな事業の創出に、積極的に挑戦するという。

 「健康・医療・介護分野は、シャープの強みを存分に活かすことができる領域であり、私はこの健康関連事業を、スマートホームやスマートオフィスに並ぶ、SHARPブランドの新たな顔に育てていきたい」と意欲をみせる。

その姿勢を証明するように、シャープのスマートライフグループ傘下に、デジタルヘルス事業推進室を新設し、同事業を加速することも発表している。

シャープの海外事業にはまだまだ発展の余地がある

 2つめの「真のグローバル企業へ」という方針では、呉CEO自らが、過去5年間に渡って、シャープのグローバル事業の拡大に取り組んできた経験から、「シャープの海外事業には、拡大の余地が、まだまだある」と指摘。さらに、「いまのシャープは、事業の考え方やリソース配分が日本中心になっている。組織体制や機能、人材配置の見直しなどにより、グローバル視点での経営改革にも積極的に取り組んでいく」と述べた。

 そして、「シャープを、『真のグローバル企業』、『輝けるグローバルブランド』 へと成長させていくことが、CEOとしての私の使命である。これに向け、今後も様々な改革に全力をあげて挑戦していく」と強い意思をみせている。

 3つめの「人(HITO)を活かす経営」では、HITOという文字に意味を込めている。

 HITOには「複数の専門性を持つHybrid人材の育成」「Innovationが生まれる環境や風土づくり」「社員の才能(Talent)を十分に活かす適材適所の人材配置」「優秀人材への成長機会(Opportunity)の提供」の意味があり、ここに重点的に取り組んでいくことになる。

 「テリー創業者(郭台銘氏)や、戴会長をはじめとした幹部に、いくつもの挑戦や学びの機会をもらい、日々の業務でも、多大なサポートや指導をしてもらっていた。それが、いまの私につながっている」として、「私自身も、社員の成長を全力で後押ししたい」との考えを示した。

 これまで通り、信賞必罰のポリシーを維持し、成果をあげた人にはしっかりと処遇していく方針を維持。さらに、若手社員とのランチミーティングを実施するなど、社員とのコミュニケーションを強化し、現場の声を経営に活かすとともに、社員のモチベーション向上につなげたいという。

不透明なグローバル環境、決心とスピードの経営に若さは好奏するか

 米中貿易摩擦の深刻化やロシアによるウクライナ侵攻、円安の進展など、取り巻く環境は不透明だ。

 「私は、激しい環境変化のなかのなかでも強いリーダーシップを発揮し、先頭に立って、シャープの成長を牽引していく覚悟をした。どんな厳しい環境下にあっても、持続的な成長ができる会社にしていきたい」と語る。

 そして、「これまでの経験をもとに、シャープを『真のグローバル企業』へと導くことが私の使命。目標達成や困難に立ち向かう『強い決心』を持ち、『スピード』をもって変革に取り組んでいく」と宣言する。

 シャープの経営トップは大幅な若返りを図ることになった。戴会長は65歳のときに、シャープの社長に就任し、その経験によって、シャープを復活させた。44歳の呉CEOが若い力によってシャープの新たな成長戦略をどう描くのかに注目したい。

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