横浜には江戸時代、3つの宿場「神奈川宿」「保土ケ谷宿」「戸塚宿」があり、多くの旅人でにぎわいました。旧東海道沿いには、今も神社仏閣や建物などの数多くの歴史資産が残されています。この連載では、横浜旧東海道の歴史にまつわるエピソードや見どころをご紹介していきます!
今回は、東海道五十三次のひとつで、日本橋から3番目の宿場「神奈川宿」をご紹介します。今後は、保土ケ谷宿や戸塚宿もご紹介していくのでぜひチェックしてみてください!
神奈川宿は江戸時代、東海道の宿場として旅人たちで賑わうとともに横浜開港当初の数年間、外国の領事や宣教師たちが暮らす場にもなりました。開港場の場所をめぐっては、既に宿場があり栄えていた神奈川(現在の神奈川区)を開港場にと主張する外国側に対し、半農半漁の小さな村だった横浜(現在の関内周辺)を主張する幕府側で意見が対立しました。結果として、外国側の主張をはねのけ、幕府は横浜に開港場を建設し、それに対抗する形で外国側は神奈川に領事館を置いたのです。
神奈川宿に暮らしていた人々にとっては、突然外国人が身近に生活するようになり、異文化交流がはじまったようなものかもしれません。
では、当時の人々からみた外国人たちの暮らしはどのようなものだったのでしょうか。今回は、当時神奈川宿に住んだ人物が残した記録「金川(かながわ)日記」から、その一端を見てみたいと思います。
「金川日記」は、武蔵国都筑郡久保村(現横浜市緑区三保町)出身の医師、佐藤汶栖(ぶんせい)の日記です。汶栖が嘉永2年(1849)に隠居して神奈川宿に住んだ記事からはじまり、万延元年(1860)までの12年間にわたって、さまざまな出来事が記されています。
安政6年(1859)6月2日の横浜開港直後、神奈川宿内の本覚寺はアメリカ領事館となりました。「金川日記」には、本覚寺の住職から聞いたアメリカ人の様子が次のように書き留められています。
食事の時は、前に長さ4尺(およそ1.2m)ばかりの高足の膳を置いて、その上へ羅紗(らしゃ:厚手の紡毛織物の一種)のような、模様のついた布を敷いて、ガラスの器に酒食を盛り並べてたいへん贅沢な様子だ。浴槽は縦6尺(およそ1.8m)余、横3尺4~5寸(およそ1m余)で、ひじをかける棚がついており、湯に入る時は仰向けになって、両ひじをかけて休息しているようだ。その湯へは、自分以外は1人も入らないとのことだ。しかしながら、飼っている狆(ちん)を、自分が入浴した後に自らこれを洗っている…(安政6年8月22日の記事より抜粋、口語訳)
テーブルクロスをかけたテーブル、浴槽に一人で手足を伸ばして入浴する様子、浴室でペットの小型犬を洗う様子など、当時の人々にとってはとても珍しく、新鮮に映ったのでしょう。むしろ現代の私たちのほうが想像しやすい光景かもしれませんね。
また汶栖は、とある著名な外国人ともかかわりがあったようです。
高尾という人物が病気のため、「邊暮論」から数か月治療を受けたが効果がなく、汶栖に灸での治療を求めてきた。汶栖が診察したところ、灸での治療は難しかったため、断った。しかしながら「邊暮論」は、必ず有効だからと切に願い求めてきたので、やむを得ず灸による治療を行った(万延元年8月10日の記事より抜粋、口語訳)
ここに登場する「邊暮論」、「ヘボロン」と読みます。実はこの人物、日本初の和英辞書編纂や聖書の翻訳、ヘボン式ローマ字の考案などで知られる、宣教医ヘボンなのです。ヘボンは安政6年10月に来日し、成仏寺(じょうぶつじ)に住みました。ちなみに汶栖はこの時成仏寺門前に住んでいました。汶栖にとって、ヘボンは最も身近に暮らす外国人だったのです。そしてこの記事からは、ヘボンと汶栖の間に交流があり、しかも、お互いに医師として認めあっていることも読み取れます。
「金川日記」には、このように神奈川宿の外国人たちの様子が、生き生きと詳しく記されています。それだけ汶栖が、外国人やその文化に関心を寄せていたということでしょう。当時の神奈川宿の人々がみな汶栖と同じ考えだったかどうかはわかりませんが、日常的に外国人が身近に存在するようになった、開港直後の神奈川宿の情景が目に浮かぶようですね。
※年月日は和暦を用いています
今回の記事でご紹介した神奈川宿で楽しいイベントが開催中です!
アメリカ領事館が置かれた本覚寺やヘボンが暮らした成仏寺など神奈川宿の神社やお寺をぜひ巡ってみてください。
<イベント開催情報>
「旧東海道神奈川宿ウォーク2022~旧東海道神奈川宿を歩いて、巡って、楽しもう!~」
3月14日まで開催中!
コース上の9つのクイズスポットを巡り、正解した方にはオリジナル景品をプレゼントします。魅力スポット満載の歴史探訪をぜひお楽しみください♪
次回は、保土ケ谷宿と戸塚宿を順番にご紹介する予定です。お楽しみに!
★楽しく分かるヨコハマ3万年★
「横浜に生きた人々の歴史」をテーマに、横浜市域の原始から近現代の歴史を展示する常設展、年数回開催される多彩な企画展、国指定史跡「大塚・歳勝土遺跡」を中心とした遺跡公園をお楽しみいただけます。