「世界通貨」になりうるとまで、高い注目を集めた仮想通貨(暗号資産)Diem(旧Libra)構想の幕引きはあっけないものだった。
Diem構想は2019年6月、フェイスブック(現Meta)を中心に、ビザ、マスターカード、ウーバーなど世界的な企業が参加して立ち上げられただけに絶大な注目を集めた。
しかし、米国の規制当局や議会などが新しいステーブルコインに対して厳しい視線を向け、参加企業の離脱が相次ぐなど、構想実現へのハードルが次々に現れた。
さらに追い打ちをかけたのは、Facebookを運営するメタ・プラットフォームズの業績の低迷だ。
メタが2022年2月2日に発表した決算は、市場の予想を大幅に下回る減益となり、同社の株価は下落した。
Diem構想を進めてきたディエム協会(The Diem Association)は、決済ネットワークを売却する。
新しい仮想通貨の構想が発表された当初、ディエム協会(当時はリブラ協会)は、銀行口座を持たない開発途上国の人々に、金融へのアクセスを届けたいと大きな夢を語っていた。
しかし、規制当局や議会といった「法定通貨勢」からの激しい抵抗と業績の低迷で、メタは現実路線に舵を切らざるを得なくなったと見るのが妥当だろうか。
「カリフォルニアの小さい銀行」への資産売却
ディエム協会が1月31日に公開した声明によれば、決済ネットワークや関連する知的財産などの資産をシルバーゲート・キャピタル(Silvergate Capital)に売却する。
1月26日付の米ウォール・ストリート・ジャーナルは、売却価格を約2億米ドル(約229億円)と報じている。
シルバーゲート・キャピタルは傘下にシルバーゲート銀行がある。この銀行は、仮想通貨、ブロックチェーン関連のビジネスに注力する金融機関として業界では知られた存在だ。
ディエム協会のスチュワート・リービ-CEOは声明の中で「シルバーゲートは、ビジョンを前に進めていくのによい場所だ」と述べている。
一方で、同日付のウォール・ストリート・ジャーナルは、「カリフォルニアの小さい銀行」という突き放した表現でシルバーゲートを紹介している。
カリフォルニアはITや仮想通貨の中心地ではあるが、米国の金融の中心と言えばやはりニューヨークだ。
同紙の書きぶりは、ニューヨークに拠点を置く米国の巨大金融機関が売却先にならなかったことを暗に示したものとも考えられる。
Libra構想の紆余曲折
Diem構想は、立ち上げ当初から、様々な紆余曲折を経てきた。
開発中のステーブルコインは当初Libraと呼ばれていたが、ビザ、マスターカード、ペイパルなどのグローバル企業が多数参加したことで、世界中を驚かせた。
しかし間もなく、米国の議会などから激しい反発を受ける。
フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOが議会の公聴会に呼ばれ、一部の有力議員が、Libra構想への参加をやめるよう、各企業に手紙を送った。当時の米中央銀行のパウエル議長も「懸念」を表明している。
その後、構想に参加したパートナー企業が次々に離脱した。2020年12月には、Libraという名前そのものを捨て、Diemに名称変更することで再出発を図っていた。
規定当局への対応に手間取り、法務コストがふくらむ中で、Diem協会が保有する技術資産や知的財産も、事実上、時間とともに下落していったのではないか。
結果、「カリフォルニアの小さい銀行」への200億円規模の地味な資産売却に落ち着いた。
フェイスブックの業績低迷
もう一点、Diemからの撤退の背景にあると考えられるのは、メタ・プラットフォームズの業績低迷だ。
同社が2日に発表した四半期決算は、アルファベット(グーグル)やアップルが過去最高益を記録する中で、メタは2年半ぶりの減益だった。巨大IT企業が好決算を発表する一方で、メタは一人負けと言っていい状況だ。
市場の予想を大幅に下回る決算で、メタの株式は売られた。日本時間2月4日朝には、ロイターがメタの株価が20%以上下落したと速報で報じた。
Diem協会が資産売却と解散を発表したのは、メタが厳しい四半期決算を発表する2日前のことだ。
メタ側の立場で想像すると、厳しい内容の決算発表を前に、見通しの立たない新規事業からの撤退を発表することで、少しでもダメージをコントロールしたいと考えたのではないか。
メタバースでのステーブルコインの展開はどうなる?
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