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国の受託事業をいかにネット企業らしくやるか?

衛星データプラットフォーム「Tellus」がVer.3.0へ 新たに3社の衛星データが追加

2021年10月26日 18時30分更新

文● 大谷イビサ 編集●ASCII

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 2021年10月26日、さくらインターネットは経済産業省の受託事業として運営している衛星データ利活用プラットフォーム「Tellus(テルース)」の最新版3.0の提供を発表した。また、Tellusで衛星データを販売する企業(衛星データプロバイダ)として、日本スペースイメージング(JSI)、日本地球観測衛星サービス(JEOSS)、パスコの3社が参画したことも発表された。

登録ユーザーはすでに2万4000人超え 新たに3社が衛星データを提供

 Tellusは経済産業省の「政府衛星データのオープンアンドフリー化・データ利活用促進事業」として、さくらインターネットが開発・運用に取り組んでいる日本発の衛星データプラットフォームになる。衛星データ利活用を促進するために、パートナーと組んで衛星データのみならず、気象、人流などの地上データを搭載するほか、ツールやアプリケーションの開発環境、コンピューターリソースまで提供する。

 また、衛星データ活用のためのトレーニング、衛星データコンテストなどの教育コンテンツ、衛星データを活用するためのドキュメントを提供するオウンドメディアなどの機能を有している。システムやデータのみならず、ユーザーを開拓するための基盤まで包括的に提供されているのがTellusの大きな特徴だ。

 2019年2月にリリースされた際は5871人だったTellusの登録者数は2021年10月時点で2万4099人となった。日本の宇宙産業に関わる人口は約1万人と言われているので、すでにその人数を倍以上上回っている。

Tellusの登録者数

 当初は開発も外注していたが、この1年は開発やマーケティングなどさくらインターネット自らが手がけているとのこと。今回のVer.3.0では衛星データの保存や検索、配布、販売が手軽に行なえる「Tellus Satellite Data Traveler」が新たに提供される。また、衛星データプロバイダとしてJSI、JEOSS、パスコの3社が参画することが発表された。

新バージョンの目玉

 JSIは30cmクラスの高い分解能と豊富なアーカイブをそろえる「Maxar」画像を同日から提供開始。来年度は小型多頻度のSAR衛星である「Capella」画像、小型多頻度の光学衛星である「BlackSky」画像の提供を予定している。

 JEOSSは親会社であるNECが所有する商用SAR衛星「ASNARO-2」のデータを同日から販売開始する。国内7都市(札幌、富山、名古屋、宇部、熊本、中津、鹿児島)を定期撮像した画像で、とっつきにくいイメージのあるSAR衛星画像の利活用を推進する。さらにパスコは自らプロジェクトに参画する「ASNARO-1」に加え、今年度打ち上げ予定の「ALOS-3」のデータの提供も予定している。

国の事業をいかにネット企業のようにできるか?

 発表会に登壇したさくらインターネット代表取締役社長の田中邦裕社長は、今回のVer.3.0について「ありきたりな言い方をすればこれからがスタート。Tellusはこれから価値の創造が始まっていく」とアピールする。

 Tellusの目的として、田中氏はネット企業のようなスキームで衛星ビジネスが拡大することを挙げる。「ソフトウェアも、データも、コピーしても原価があまりかからない。原価ゼロ、限界費用ゼロのものをマネタイズするのがネット企業だが、衛星業界でも同じことができないかと考えている」と田中氏は語る。

 これまで国の受託事業は、採択された事業者が開発を外部に委託し、仕様書に書かれた成果物が納品された段階で完了。ユーザーが使う頃にはすっかり陳腐化していることも珍しくなかった。しかし、受託事業でありながら納品という概念がないTellusは、つねにアップデートが行ない、価値を創出し続け、顧客を開拓する必要があった。そのため、さくらインターネットの社員や組織でも、この3年間で大きなマインドセットの変革が行なわれたという。

 今までプロ向けだった衛星データを民主化することで、多くのユーザーを取り込み、アプリやデータ分析によってマネタイズが進み、産業化していくのが、Tellusのプラットフォームとしての役割。「私の夢はマネタイズ化した末に、最終的にはTellus事業を独立させ、ユニコーンにすること。そうしたら、私はもう一度起業家人生を歩めると思っている」と田中氏は力説する。

 また、国土に対して海外線が長い日本が抱える課題は、アジアパシフィックの各国でも共通していると指摘。「課題のあるところにスタートアップは生まれ、成長する。宇宙のデータを使って、海の問題を解決していくところもでてくるはず。こういったところに日本の衛星が役立てるところは大きいのではないかと思っている」と語り、アジアパシフィックのプラットフォームとしても成長を目指していくと戦略を語った。

アジアのプラットフォームを目指すTellus

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