元ウォーカー総編集長・玉置泰紀の「チャレンジャー・インタビュー」第13回

格差を広げるネットが好きじゃない! 勝ち組だけが勝ち続ける時代に抗うブシロード木谷会長の思いとは?

文●土信田玲子/ASCII

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 トレーディングカードゲーム(TCG)に始まり、アプリゲーム、プロレス、アニメに声優、ライブやイベントなど、エンタメ業界の多ジャンルで注目を浴び続けるカリスマ、ブシロード会長の木谷高明氏。コロナ禍にも素早く対応し、我が道をばく進するオリジネーターは、アナログ感覚にも重きを置く人だった。

 密を成すことで何かと批判されるイベント開催の現状や、カードゲームとショップの進化、そして何より閉塞感に満ちている、この時代を乗り切るヒントを元ウォーカー編集長・玉置泰紀が聞いた。

今回のチャレンジャー/株式会社ブシロード 代表取締役会長・木谷高明

コロナ拡大前に先手を打ち、マスクを緊急確保

 2020年2月1日、ダイヤモンドプリンセス号が横浜港に寄港し、香港で下船した乗客の新型コロナウイルス陽性が確認された。2月3日、日本政府は入港したクルーズ船に対し乗員乗客の下船​​を許可せず、これ以降、国内でも得体の知れないウイルスについて大きく報じられるようになった。だが、木谷会長がコロナ対策を考え始めたのは、それより2週間も前だった。

――ブシロードは、非常に早い段階からイベントの中止や感染対策を始め、また逆に再開も早かったですね

木谷「コロナの影響を気にし始めたのは昨年1月のニュースからですね。まず、1月20日過ぎの役員会で『どんな理由を付けてもいいから、金を借りよう』と指示をしました」

――まだ日本では、誰も全然ビビっていない頃ですね

木谷「中国人社員に聞いたら、『日本も中国と同じことになると思います』と。それぞれの立場でどうしても楽観論が入るので、日本人からすれば『日本は大丈夫』って言いたいじゃないですか。でも日本にいる中国人なら、客観的かつ冷静に見られると考えました。

 日本も中国と同じようになる…、やっぱりそうだよね、ということで、とにかく大規模なイベントだけ早く終わってほしくて仕方なかったですよ。2月の頭に集中していたから。

 でも 2月の半ばには、いよいよこれはダメかなと思って、17日の朝礼で、僕は『This is War.』。もう戦争だと言って、2日間で在宅勤務と時差通勤の仕組みを整えてくれ、と。社員に現金を持たせて、秋葉原と新宿でノートパソコンを4~50台買いに行かせました」

――働き方のスタイルもすぐ切り替えた!さすがの行動力ですね

木谷「その週末の土曜かな、アメリカの現地法人に連絡して、とにかくAmazonでマスクを購入してもらいました。アメリカでは普通の店でマスクを売っていないから、まとめ買いで6万枚くらい。マスク代に糸目を付けるなって、1枚100円ぐらいでいっぱい買いましたよ。いろんな国から」

――マスク確保も速過ぎる!

木谷「社員用だけでなく 3月上旬には、取引先のカードゲームショップやアニメショップへも送らせて頂きました」

ライブ中止なら2億5000万円の赤字
ダメージ回避と感染対策、再開への道

木谷「初期の頃はそんなことをやりつつ、イベントも2月20日以降は中止。プロレスは一部続いていましたけれど、それ以外のライブやイベント出展も全部早いうちに。アニメジャパンも中止が発表される前に、出展を取りやめました。」

――あの時は中止になって驚きました

木谷「開催まで1ヵ月を切ると、イベントは準備にすごく手間ヒマとコストが掛かるようになる。だから早く決断することが本当に大事なんですよ。

 目前での中止は、ものすごくダメージが大きい。だからオリンピックも本当に直前の中止だけは止めて欲しいという思いでした。分からない時は、最悪の事態を考えて恐れるべきだし、その時に分かってきたことに沿って行動すべきです」

――再開するのも大変でしたね

木谷「最初の頃は、オンラインライブなどやっていたのですが、去年の夏、富士急ハイランド・コニファーフォレストでライブを3日間開催したのが大きかったですね。

2020年8月に富士急ハイランドで開催された「BanG Dream! 8th☆LIVE」夏の野外3DAYSでの感染対策

木谷「6月に、いろんなことを少しずつ始めて、お客さんを入れたのは7月12日、13日に大阪城ホールで開催した新日本プロレスの大会から。まずプロレスから始めて、8月からは有観客ライブも再開しました。

 感染者が増加していた時期だったので、『本気でやるんですか』『正気か?』なんてメールが来ましたよ。でも僕はもう、感染対策を最大限に準備して『やると言ったらやる!』と。

 ただこれも、直前に演者から感染者が出たら中止じゃないですか。そうなると3日間のライブで2億5000万円ぐらいの経費が掛かるから、それを丸損しちゃうリスクがあるんですよ。だからコロナ以降、大規模イベントを開催するのは本当にリスクが高かったです」

――あの時期に開催ということで、感染対策も相当しっかりされたのでは?

木谷「そうですね、まず大規模なものは野外にしています。野外ってことでひとつ感染対策になると思います。スペースが広いから、動線を作って、検温と消毒というオペレーションもしやすい。

 富士急では、そういった感染対策をキチンとやったから、感染者が出なかった。『BanG Dream! 8th☆LIVE』夏の野外3DAYSは、2020年夏の富士急ハイランド・コニファーフォレストで開催された、唯一のライブイベントだったんです。開催したことでお客さんが喜んでくれたのはもちろん、すごく嬉しかったのは、地元のタクシー運転手さんが、『ライブをやってくれてありがとう』と言ってくれたこと。これはやってよかった!と思いましたね」

――感染者のクラスターも出なくて幸いでした

木谷「実際、野外ライブではクラスターは起きづらいと思います。距離を置いて、マスクをして声を出さないなど、ルールに沿って開催すれば。

 先日の愛知県常滑市でのライブイベントの場合は、密なスペースで飲酒していたわけでしょ。それは感染者も出るだろうと。真面目に感染対策して必死に開催しているライブも沢山あるのだから、こういった行為は自重してほしいです」

――今年に入ってからはいかがでしょう?

木谷「この夏が一番厳しかった。まず『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』の舞台が、関係者から1人感染者が出たために、初日から4日間中止して残りの期間を開催しましたが、女子プロレスも『スターダム』から感染者が出て2週間中止。他にも中止になったイベント、ライブがあります」

――感染者が出ても濃厚接触者にならない工夫がされている

木谷「今年も新日本プロレスのG1が始まっていますが、AブロックとBブロックで出る選手が完全に違います。2グループに分け、興行が中止にならないようにして。そのあたりは、この1年でかなり学びました。ライブエンタテインメントは、全部ダメージを受けながらも進んでいますね」

緊急事態宣言解除後、10月からの新しい動きは?

――この10月から解除されたら、何がどう変わると思いますか? 自粛続きでお金を使いたい欲求も貯まっていると思いますが、エンタメ業界にもかつての第一次世界大戦後のような一大好景気がやってくる?

木谷「そうなってもらわないと困るんですけどね。やっぱりコロナが広がって、アナログの部分が減ってデジタルの部分が増えたから、強い者がより強くなる悪循環になっている。全ての分野において、いろんなジャンルで上位寡占がどんどん進んでいますよね。

 弱い者は差別化戦略で立ち向かうしかない。でも差別化ってゲリラ的な戦略じゃないですか。そういうことすら一切できないんです、コロナ禍では。だから本当に強い者だけがより強くなる。ここ2年間、その方向へみんな行っちゃってるから面白くない。

 先ほどのお金が貯まっているところで言うとね、先日、個人金融資産が過去最高をまた更新して1900兆円台と報道されている。この前、奥さんと温泉に行きたくて調べたら、いい部屋はコロナ前より高くなった。すごい値段が付いていますよ。でもそれは、いくら払ってでも行きたい人がいるからです」

――先ほどのデジタルの話でもありますが、例えばYouTubeや動画配信では、よく見られてるものが上に来るから、なかなか下まではスクロールして見てくれないですし

木谷「そうですね。すべてのジャンルで格差が広がっていますよね。勝ち組だけがさらに勝つ仕組みが出来上がってしまった。テレビの番組表を見ても視聴率は分からないけれど、配信サイトはどれが見られているか、分かっちゃうんですよね。だからエンタメでも新しいものを仕掛けるのがすごく難しくなっている」

――でもオリジナルが増えていかないと、真に盛り上がらないですね

木谷「オリジナルを作る時にも、ゲリラ的なことから徐々に火の手を広げていく、徐々にメジャーにしていくという手法があるけれども、その最初のところから出来ない、今は。

 例えば声優さんって、アフレコ現場で先輩たちの演技を見て学んでいくんです。でも今はコロナ禍なので、スタジオで一緒に演技できない。オーディションもアナログなので開催しにくい。だから現場を分かっている人、すでに有名な人ばかり使われますよね。だから新人、新しい才能に出会いづらい。こういう状況が、全てのジャンルで起こっていると思った方がいい」

――およそ10年前にTCGの『カードファイト‼ ヴァンガード』が始まった時、DAIGOさん出演のCM大量投下がすごかった。発売直後のカードゲームに、ここまで宣伝費使うのか、というぐらい使われたと思いますが、今はそういう手がやりにくくなった?

木谷「あの手法はもう使えないですね。テレビのいいところって受動的で、向こうから情報が飛び込んでくることだったけど、ネットは自分で取りに行く。オススメされるものはいつも見てるものとか、再生回数が多いもので、まったくゼロベースの新しい何かが出てくるわけではないんですよね。だから新しいコンテンツを立ち上げるのは非常に難しくて、特にキッズものは。難しい時代になったな、と」

――この流れは引きずりますかね? ある程度コロナが収まってきたらまた元に戻るのか、あるいは新しくなっていくのか

木谷「僕は戻る部分もかなりあると思っています。例えば、このオンライン取材に今4人の編集の方がいらっしゃいますけど、この4人の方がわざわざ当社まで来て、1時間インタビューしていくのは大変じゃないですか。

 でも、オンラインでなら簡単にインタビューできる。こういった便利な部分は残るんじゃないかな。アニメの製作委員会も、直には全然集まらなくなりましたけど、相談しながら、3回に1回は直接集まろうとか、そういう会話になりますね。会った方がいい部分もあるだろうし、会う必要がない部分もある。そこは使い分けが進んで、生産性自体はすごく上がっているんじゃないかなと思います。

 ただ初対面の人に何かを売り込むのに、直接会わないで売り込めるはずがない。だから、そういうメリハリがついた仕事スタイルが定着しつつあると思うので、これは良かったところかな、と」

――そうですね。今日は木谷さんに会えるはずだったのに、リモートで残念です…

木谷「こういう会話みたいなものは、オンラインで全く問題ないと思います(笑)。ただ、オンライン配信ライブの人気は落ち着いてしまっているんですよ。やっぱり一緒に騒ぎたいのもあるし、オンラインとリアルの何が違うのか、というと音圧を感じるかどうか。本当に文字通りの体感なんですよ、ライブというのは。

 だからそういった体感することの良さ、価値は、むしろコロナが終息してからの方が、以前よりもっと大きくなる可能性はありますよね」

今の時代に「プロレス頭」はすごく大事

――ブシロードは、木谷会長も度々おっしゃっているように、半分ライブエンタメの会社。9月14日のオンライン発表会でも、バイオリン演奏を取り入れたりしていましたが、やはりライブ感が重要でしょうか

木谷「発表会は1時間半ぐらいあるから、単純に発表だけしていくとつまんない。疲れるし、眠くなりますよね。だから合間にエンタメ性を入れろ、とバイオリンも僕が指示して。ヴァンガードの曲を聞いたらファンには喜んで頂けるし、逆にカードゲームファンにも、BanG Dream!のMorfonica(モルフォニカ)って、本当にバイオリン弾いてる人がいるんだ! ということを知らせることもできる。プラスしかないです、両者にとって」

BanG Dream!のMorfonica(モルフォニカ)

――エンタメ性がすごく大事になってきたんですね。BanG Dream!もまさにそうですが、声優さんがただ声を当てるだけより、実際に舞台で演奏したり、DJやMCをやったり。リアルな生身の人間なんだ、という見せ方がすごく楽しい

木谷「人が感動するのは、キャラクターとストーリーに対してなので。声優さんの生きざまも、ちょっと見えた方が、より楽しさをプラスすることができると思います」

――木谷会長がプロレスに関わられてもう長いわけですが、プロレス的なエキスがいい感じで、TCGやさまざまなコンテンツに再注入されています

木谷「やっぱりプロレスは重要でしたね。『プロレス頭』ってすごく大事だと僕は思っています。『プロレス頭』とは何かというと、ピンチもチャンスに変える。苦労もストーリーに、逆境もハッピーに変えてしまうようなところが、今の時代に必要なんじゃないかと」

――コロナで世の中大変な時に異世界での一発逆転劇が楽しい、みたいな気持ちの流れですね

木谷「ここのところ、日本だけじゃなく世界で受けている作品は、人が死ぬ作品か、異世界モノのどっちかですよね。何かを目指してみんなで頑張ろう的な、いわゆる成長ストーリーとか学園モノは全然ダメですよ。

 異世界モノが欧米や中国で受けるようになったのは、格差の影響だと思います」

――弊社KADOKAWAの実績を見ても、中国などでラノベが明らかに伸びていますね

木谷「あれは現実逃避かも。中国では住宅ひとつ買うにも、すごい値段です。普通のマンションで北京や上海だと2億円ぐらい」

TCG大会やライブもプロレス式巡業スタイルで地方のファンをしっかりケアしたい

――最近では、リアルでカードゲーム大会の開催はなかなか難しいですが、いわゆる地域活性化や地方創生に資すること、例えば、商店街あるいは学校を、ブシロードが支援する動きや地域展開について、どう考えられていますか?

木谷「地方では以前、6~8ヵ所で公式大会を行なっていたのですけど、コロナ禍ではこれをもっと細かく、なるべくイベントを小さくして今、12~14ヵ所でカードゲームの地区決勝を開催しています。予選はショップでの開催をお願いして、大人数で集まらないような形でやっています。

 将来的には、10ヵ所に広げたのはそのままにしておき、このなかの3~4つで、ここにゲストを呼んで、より規模の大きなイベントまで昇格させていこうかと。地方のファンはやっぱり嬉しいですよね。ゲストが来てくれたり、公式な大会があるということが。自分たちをしっかり見てくれているかどうかを、地方のファンほど意識するから」

――逆にブシロード的にはフィードバックがあったり、地域との関係性や社会創生として変わってくるようなところがありますか?

木谷「カードゲーム大会もそうですし、プロレスも地方を巡業するという珍しい興行スタイル。バスに選手たちを乗せて、町から町へ丸ごと移動する。このやり方は、東京から直接いちいち行くよりコストがすごく低いんですよね。

 これからは、この巡業スタイルで、ちゃんと地方もケアするってことをやっていきたい。カードゲームに関しては、先ほどお話しした、ショップとの協力で公式大会を大きなイベントにしていく。ライブも地方開催を増やしつつありますね」

――カードゲーム大会もプロレスのような巡業スタイルとは面白い

インターネットが格差社会を助長する

――昨今のデジタル世界の急速な変化についてはどうですか? 以前はあまり好きじゃないとおっしゃっていましたが、意外に近いVTuberとか、新しい動きもありますよね

木谷「根本的に僕は、インターネットは好きではないんですよ」

――そうなんですか!?

木谷「だってネットがあるから格差が広がるんです。情報が平等に行き渡れば渡るほど、もともとの地頭が良くて、ちょっとばかり度胸がある人間が有利なんですよ。要するに運の要素も強い麻雀の世界から、実力至上の囲碁将棋の世界になっちゃったんです、世の中が。本当にITを駆使している頭のいい人間は、働かなくていいのだから」

――巡業の世界からすると真逆に近いですね

木谷「人生というのは、ラッキーもあったりするから面白いのであって、ラッキーな人がどんどんいなくなって、実力だけで決まるようになり、それが親子2代3代まで連鎖するとなったら、世の中ひっくり返りますよ」

――現代の貴族みたいになっちゃうかも?

木谷「最近ね、日本でも上級国民とか階級社会とか、いろいろ言われるようになりましたけど、格差拡大のかなりの部分はネットが原因だと思っています」

カード相場の自動査定マシンも登場
カードゲームショップのすごい進化

――NFT(暗号資産の一種)など、作品をデジタル保証するという動きについては?

木谷「基本的には興味ないですが、取り組まざるを得ない部分はあるかもしれない。でも僕は、これは意外とダメじゃないかと。デジタルで価値を持つのは『情報』だと思うんですよ。そもそも所有欲の高い作品を、デジタルで所有して意味があるのか、よく分からない」

――デジタルだと形式、フォーマットが変わるたびに持っていたものが全部ゼロになることも…

木谷「ほとんど吹っ飛ぶ可能性もあるわけじゃないですか。もちろんアナログなモノでも破れたり燃えたりする可能性はあるけれども。複製できないというのも本当なのか? と。話は来ますけど、まだ本気で取り組んではいないですね」

――コロナになって、リアルのプレミアムカードをしゃかりきに集めるファンも多い

木谷「弊社では、TCG『ヴァイスシュヴァルツ』の声優さんの箔押しサインカードの価値が上がってますね」

――カードゲームのデジタル化については?

木谷「デジタルカードゲームで完結しているものに関しては、前にもトライしましたけど、ちょっと失敗しましたね。結局、もともとアナログでカードが存在するものは成功しやすいんです。やっぱりリアルのカードをベースに、というところですね」

――リアルのカードゲームショップは増えている? 減っている?

木谷「カードゲームショップは、今少しずつ増えていますね。ただ丸っきり新しい店舗よりも、昔からある本屋さんの一角で、というような形です。今ある業態がTCGに進出してきて、売るだけじゃなくテーブルを置くようになったり、中古販売までするようになった。カードゲームショップってやっぱり強いですね。

 カードゲーム単品だけしか売ってないし、しかも昔からのタイトルしかないのに、実はものすごく進化してるんですよ、単品管理能力とか。ユーザーのデータもどんどんビッグデータになってきている。結局、今強いショップチェーンは、昔からカードゲームを扱ってきたホビー系の店じゃなくて、いわゆるコンシューマーの中古ゲームを販売管理していたような情報を進化させたところ。

 どこまで正確か知りませんが、大阪の日本橋のショップで、機械にカードを入れると査定額が出るっていうんですよ」

――自動査定ですか!? すごい!

木谷「今までは店員さんが大変だったけど、査定する必要がなくなるわけですよ。そうするとファーストフードと同じように、店員はアルバイトでも、誰でもできるようになる。

 いわゆるオタクのマニアショップのなかでも、カードゲームショップは勝ち組になりつつあります。今、大変なのはアニメショップですね。単品管理システムがそこまで進化していないというのと、本やBlu-ray、CDの売り上げも落ちて、みんなグッズに流れたんですよね。

 ただグッズはブームのピークがあるから、在庫はどこかで解消するしかない。ブームの時に発注して、モノが届いた頃にはブームが終わっている。キャラクターによって人気の差があるからキレイに売り切ることは絶対不可能なんですよ。だからグッズもトレーディングものが多くなってきた。

 今、アニメショップ系で流行りなのは、期間限定の催事型にすること。イベントと称して、コーナーを構えて売るんですね。そうするとメリットは2つある。ひとつは在庫リスクの軽減。在庫リスクはメーカーもしくはライセンシーが持ってくれる。もうひとつは催事だから、メーカーが宣伝してくれるわけですよ」

――場所貸しですね

木谷「そうすると、間に入ってるライセンシーがキツいわけですよ。ライセンスを受けてグッズは作ったけど、仕入れてくれるところが少なくなり、リスクを取って催事をするしかない。 そこはもうカードゲームショップが、頭ひとつ抜けちゃってるんですよ、この段階を。だからカードゲーム業界はまだまだ大きくなるのじゃないかな」

――それは面白い

木谷「小売りが強い、すごく強い。ビッグデータを持っていると、そのうち別なことまでできちゃいますよ。特に関西が進んでいて、大阪の日本橋あたりは競争が激しいから、すごいところが生まれてくるんですよね」

ブシロードの新しい動向は

――10月からの新しい動き、ブシロードの楽しい取り組みについて教えてください

木谷「まず『カードファイト‼ ヴァンガードoverDress』に関しては、Season1でファイトシーンが少ないという意見もあったので、それはしっかり出されるようになっていますし、中盤以降は僕もシナリオ構成会議に参加して、今朝も副題を決めていました。僕が結構中に入ってやっている。面白く仕上がっていることを願います。

 先ほどVTuberの話が出ましたが、10月1日に『ヴァイスシュヴァルツ』の『ブースターパック ホロライブプロダクション』が発売になりまして、これが実は初回受注が過去最高規模」

――素晴らしい!

大反響の「ヴァイスシュヴァルツ」の「ブースターパック ホロライブプロダクション」

木谷「13年半の歴史で参戦したアニメやゲームは、120タイトルを超え、そして今『ヴァイスシュヴァルツ』は、過去最高規模の反響を頂いています。13年間支えて頂いたお客様と版元様に感謝しています」

――時代を象徴していますね

木谷「何人ものタレントさんが、YouTubeのチャンネル登録数100万を超えていますし、これからも伸び続けるのは間違いない。僕は、VTuberがこんなに成長するとは思っていなかったけど、それは大ハズレでした」

――でもブシロードグループ内では、実際いろいろ仕掛けていますよね

木谷「僕はタッチしてないです。でも、先ほどのNFTやVR、eスポーツとか、ここ数年IT系で出てきた中では、VTuberは成長しましたね」

史上最大のインバウンドがやってくる

――弊社会長の角川歴彦も「これからはライブだ」ということでレクリエーション局を作り、昨年はさくらタウンもオープンして、リアルに力を入れていこうと。そこで気になるのがリアルエンタメ、ライブエンタメの今後です。どう変化していくと思われますか?

木谷「まず世界中の人たちが行きたい国で一番に挙げているのは日本。コロナ禍で日本のアニメやドラマをずっと観ていたと思う。特に日本のアニメを観る人が海外で激増しているから。

 御社も出資されている『MyAnimeList』に話を聞いたら、21年の初めには月間利用者数が1800万人。去年の10月頃は1300万人だったので、たった3ヵ月で1800万人になった。Netflixで日本のアニメを観る人が非常に増えてるみたいなので。

 アニメだけ取ってもこれだから、世界中で日本に行きたい人はものすごく多いと思うんですよ。コロナ禍が明けたら、もう史上最大のインバウンドが起こるでしょうね」

――うれしい予言を頂きました

木谷「財政的に潰れそうな京都市も、何とか息を吹き返すんじゃないですか。もう大変ですから。京都に誘客してあげないとね」

――木谷会長は金沢ご出身ですよね

木谷「はい。金沢もオリンピック需要を当て込んで、ホテルをいっぱい作ったみたいです。例えば、バスケの会場がさいたまスーパーアリーナで、金沢駅前のホテルから新幹線で大宮まで行くプランもあったり。外国人からすれば2時間の移動なんて大したことないみたいで。

 コロナ前に金沢のホテルに泊まったんですけど、朝食を食べに行ったら、もう9割が外国人。しかもヨーロッパ系の人が多くて。金沢は徒歩で観光できるからいいらしいですね」

――2019年のラグビーワールドカップは、まれに見る成功でしたよね

木谷「だからね、あれを持ってきた森喜朗さんに感謝しなきゃいけないと思うんだけど。僕も1試合観に行ったんですが、大成功だったと思いますね」

――富裕層の方が世界中から来られて、やっぱりお金が落ちるんだなと

木谷「日本も観光立国になっていくしかないですね、特に地方は。いいところも多いし、海外から見た日本の物価は非常に安い。

 僕は以前、シンガポールに住んでいたのですが、食事は日本のように美味しい物もあるんですよ。ただ、値段に比例しますね、美味しさが。日本は安くても美味しいものがある、だから生産性が低い。安かったら不味くても仕方ないはずですよね。お金を出せば美味しいものが食べられるなら、みんなもお金出すじゃないですか。安くても美味しいのは、外国人から見たら『何て素晴らしい国だ』と思われますね」

――F1の時は、シンガポールはすごい物価になるとか

木谷「そうですね。F1は僕も2回行きましたけど、大規模なライブがあって楽しいですよ。でも、シンガポール人でF1を観ている人は意外と少ない。あんまり車に興味がないと思います。シンガポールでは、車を買うのに税金などが高過ぎる。所有するだけで700万、実際に乗るまでに1500万ぐらいかかる」

――そんなに税金が高いんですか

木谷「要するに国が小さいから、渋滞を起こさせないために、車の税金を無茶苦茶高くして、車の台数を調整してるんですね。自分で車を持ってない人って、やっぱり車に興味ないじゃないですか。だからF1を観に来ているのは外国人ばかりでしょう」

――外国人に向けてのアピールは、IRのマリーナベイに象徴されるように上手ですよね

木谷「そうそう。シンガポールは本当に合理的な国なので、僕は大好きですよ」

人間的な成長のカギは異なる何かとの摩擦を重ねること

――木谷会長は一時期、シンガポールを拠点に活動されていましたね

木谷「3年半いて、3分の1は日本に帰っていたので実質2年ですが、貴重な体験をしましたね。現地法人が12年ですかね。アジアのマーケットで本当に会社を育てたかったし、逆に日本にいる時間を短くして、僕がいなくても大丈夫なようにしたかった。日本側を育てたかったという理由です。3番目は息子の教育ですね。小学5年だったので、向こうでインターナショナルスクールに入れたかったんです。

 私自身、最初で最後の海外勤務。行って本当に良かったと思います」

――最後に、コロナ自粛で閉塞感を抱える若者たちに、元気が出るエールを頂けますか?

木谷「学生を中心とした若い人たちが、コロナ禍で2年も潰されたのは本当に怖いこと、有り得ないですよね。高校生や大学生、20代前半の若者の2年なんて、すごく大事じゃないですか。本当にかわいそうだと思います。成長するには、この多感な時期に異なるものとどれだけ摩擦するか。コロナ禍が明けたら、異国、異業種、異性、異人、異文化などいろいろ経験して成長してください。健闘を祈ります。

 例えば、異性と付き合ったり、自分の仕事と関わりのない異業種の人と話す、あとは異文化に触れたり。こういった異なる何かとの摩擦を経験して、人は成長していくと思うんですよね。でも今は外国には簡単に行けないし、日本でも摩擦が起きる機会、出会いがコロナ禍のせいですごく減っている。

 だからコロナ禍が収まって自由になったら、異なる何かとの摩擦を積極的に求めていってほしいですね」

 インターネットやSNSの普及が、万人にチャンスを与えるかと思いきや、「インターネットが格差社会を助長する」と、その決断力と行動力で、数々の苦難を乗り切ってきたエンタメ界のカリスマの考えは違っていた。情報の一方的な垂れ流しと批判されがちなテレビよりも、我々は一見、自由を謳うインターネットによって、知らず知らずに受け身な思考へ追い込まれていたのか。

 予言された“史上最大のインバウンド”で起死回生できるかは、時代をどう読むかにかかっている。現実や新しい潮流をいち早く受け止めながらも、旧態依然とも思えるアナログな手法で地方のファンや情報弱者も大切にケアし続ける。それこそが美徳かもしれない。ウィズコロナ、アフターコロナの生き方のヒントを、木谷会長が教えてくれたようだ。

木谷高明(きだに・たかあき)●1960年生まれ、石川県出身。大学を卒業後、山一證券勤務を経て、1994年に株式会社ブロッコリーを設立。2001年にJASDAQ上場を果たす。2007年ブロッコリーを退社し、株式会社ブシロードを設立、2019年に東京証券取引所マザーズ市場に上場。2014年からBushiroad South East Asia(現・Bushiroad International)のCEOを兼任し、シンガポールに駐在した。2017年10月に代表取締役を辞任、現在はデジタルコンテンツ事業および広報宣伝を管掌する代表取締役会長。コンテンツ開発の最前線に立つ。今年の自社株主総会にて、女子プロレスラーに顔面ビンタを浴びて眼鏡が吹き飛ぶなど、文字通り体を張って奮闘中。 

聞き手=玉置泰紀(たまき・やすのり)●1961年生まれ、大阪府出身。元ウォーカー総編集長、現KADOKAWA・2021年室エグゼクティブプロデューサー担当部長。日本型IRビジネスリポート編集委員ほか。座右の銘は「さよならだけが人生だ」。今回は「しっかりお話を聞きたかった木谷さんとの時間は宝石でした。インタビューの後、緊急事態宣言が解除されて徐々にリアルが戻る中、お聞きした言葉がより沁みてきます。僕も中の人で参加している『すみだメタ観光祭』のワークショップはやっぱり楽しかった」

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