活躍中のパラeスポーツプレイヤーにインタビュー
「音」を頼りに鉄拳をプレイ(なおや氏)
ePARAによるeスポーツチームに「Fortia」があるが、このチームに所属している「なおや氏」と「たま氏」に、気になるところを色々と質問してみた。
なお、「Fortia」には全盲プレイヤーが中心となっている「Blind Fortia」、FPSを中心に活動している「FPS Fortia」の2つのチームがあり、なおや氏がBlind Fortia、たま氏がFPS Fortiaに所属している。
「ePARAを知ったキッカケは、現在チームのマネージメントをしている人から声をかけてもらったことです。以前から知り合いだったのですが、ある日突然「ねえねえ、ゲーム好き?」と聞かれまして。ゲームめっちゃやってますよ、と答えたところ、「ePARAってところがあって、視覚障害者がどういう風にゲームをやっているのかという話をするんだけど、とりあえずミーティング来ない?」と誘われたのが始まりでした」(なおや氏)
最初は、ゲームをどう楽しんでいるのかを話すだけというところから始まり、直接eスポーツ選手として誘われたわけではなかった。
これが大きく変わったのが、昨年11月に開催された「ePARA Championship」だったという。
「それから半年くらい経ち、全盲のプレイヤーとして「鉄拳7」のチームに入ってくれないかといわれ、出場しました。その時の成績はもう散々で、3ラウンド先取で2試合戦ったのですが、1ラウンドすら取れなくて……散々にも程があるだろうと。その後も鉄拳を続けていたら、あれよあれよという間に、オープンイベントで披露するような立場になっていました」(なおや氏)
変化があったのは自身の立場だけではない。ePARA Championshipに出場したことを記事にして公開したところ、多くの人達に読んでもらえ、一般の鉄拳プレイヤーとも繋がるようになったそうだ。また、障害者同士での会話でも、ゲームの話題が増えたという変化もあった。
最も気になるのが、全盲なのにどうやってプレイしているのかという点だろう。なにか専用の機器……画面情報を音にするソフトみたいなものを使っているのかと思いきや、使っているのは一般的な読み上げソフトくらいで、特殊なものは一切使っていないとのこと。操作もごく普通のゲームパッドだ。
ではどうやって画面情報を把握しているのかといえば、「音」だけだ。
「鉄拳は攻撃が当たった音とか、ガードした音とかが結構ハッキリ違うので、その音で相手がどんな状態か想像して戦っています。今、相手の攻撃をガードできたってことは相手が近くにいるはずだから、このタイミングでパンチが当たるかな……という感じですね」(なおや氏)
相手との距離がまずわからないときは、ダッシュして攻撃が当たるかを試すこともあるとのこと。ただ、最初の頃は全く分からず、チームメイトに「離れているからダッシュしたほうがいいよ」と教えてもらっても、どう動いていいのかわからず逆に混乱することもあったという。
音を頼るスタイルで戦うのは「慣れですかね」と簡単に言っていたが、ひたすらやり込んだ上での話だ。ちなみにプレイ時間を聞いてみたところ、大体370時間くらいだとのことだった。
「現在はコロナ禍の影響もあって、ほぼオンラインでの活動になっているため「音」でプレイしています。今後、対面で集まれるようになってきたら、背中を叩く位置で距離感を教えてもらうといった二人協力プレイもできるんじゃないか、といったことは考えています」(なおや氏)
Any%CAFEでは、初のオフラインイベントに参加。全盲でどうやってプレイしているのか、というのを実際に見てもらうことで、色々とポジティブな感想をもらうことができたそうだ。
相手の位置を把握するのに、サラウンドヘッドセットは使用しますかと質問したところ、鉄拳は元々モノラル音声なので厳しそうだとのことだった。
ただし、「タイトルによっては効果がある」と言っていたのがたま氏だ。
「試してみないとわからないところもありますが、鉄拳では音にそこまでの情報がないので難しいと思います。ただ、FPSですと敵の足音から位置が分かったりするので、タイトルによりますね」(たま氏)
なお、同じ対戦格闘ゲームでもストリートファイターVはステレオなので、効果があるかもしれないとのこと。今はまだ修行中とのことだが、なおや氏のストリートファイターでの選手デビューが楽しみだ。
活躍中のパラeスポーツプレイヤーにインタビュー
「ADHDは、eスポーツ競技にはむしろ強みかも」(たま氏)
「ePARAではeスポーツプレイヤーとしてだけでなく、加藤さんの下で営業の仕事もさせてもらっています。障害は、ADHDです。簡単に言うと、子供の頃、忘れ物や遅刻が多かったり、物をよく失くす子がクラスに何人かいたと思いますが、それが大人になっても直らず、社会生活に困るほど影響がある状態です」(たま氏)
ADHDは、普段は他の人と変わらないことが多く、それだけに、怠けている、不真面目だなどと勘違いされやすい。また、思いついたことをよく考えずに行動に映してしまう衝動性などもあり、扱いにくい人だという印象を持たれてしまいがちだ。
ただ、好きなことでは集中力が維持できたり、独自の視点や発想と衝動性がいい方向に噛み合うと「アイディアを形にする行動力のある人」となるため、活躍できる場があるかどうかで、その人の評価が大きく変わる。
「Apex Legendsなど、最近のeスポーツタイトルとして出ているのはひと通り触っていますが、CoDシリーズが一番プレイ時間が長いです。最初に遊んだのはCoD2で、体験版をダウンロードして遊んだのがスタートですね。高校生の時、1年間オーストラリアに留学していたのですが、その留学先でソフトを買ってプレイして、それからずっとCoDシリーズをやっています」(たま氏)
ePARAではプレイヤーとして活躍するだけでなく、語学能力を活かし、海外選手とのやり取りも行っている。例えば、Any%CAFEのオープニングイベントで行われた、ケニア初のプロゲーマー、シルビア・ガソニ選手との試合では、対戦相手としてだけでなく、参加交渉から契約まで、すべて一手に引き受けたという。
「シルビア選手のTwitterアカウントへの連絡、調整、交渉、そして私たちが分かるように翻訳まで、すべてたま氏にしてもらいました」(加藤氏)
こういった例は、これが最初ではない。実は、Fighting Fortiaのコーチとして、EVO Japan 2020チャンピオンとなったタイのBook選手を招へいしたのだが、この交渉もたま氏が行ったそうだ。
加藤氏は日本語の法律は分かるものの、英語でどう書けばいいのか分からないため、その翻訳などをすべて、たま氏に任せたとのこと。
「こんな法的文書を僕がやってて大丈夫なのかな……などと思ったりもしましたが、なんとかやり遂げました」(たま氏)
eスポーツプレイヤーとしては、好きなことには集中力が発揮できる、行動力があるという点で、ADHDはむしろプラスに働いている可能性がある。とくにFPSでは、短時間の集中や思い切った行動が勝利に結びつくことが多いだけに、このあたり、うなずける人も多いだろう。
たま氏自身も、「勝手に考えているだけ」と前置きをしていたものの、プレイヤーとしては強みに働いているのではないかと考えているとのことだった。
「ただ、競技シーン以外では問題がありますけどね。大会の会場に遅刻するかもしれないとか、そういった部分で難点はあります」(たま氏)