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いよいよデジタル庁発足 キーマンに直撃1万字インタビュー

昭和の縦割りをレイヤー構造にする 村上敬亮統括官に聞いたデジタル庁の役割

2021年10月14日 10時00分更新

文● 大谷イビサ 編集●ASCII

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 9月1日に発足したデジタル庁。菅内閣が掲げる目玉政策であるデジタル化を主管し、霞が関のみならず、日本全体のDX(デジタルトランスフォーメーション)を担う新しいこの役所はどんな役割を持ち、われわれの生活やビジネスにどんな影響を与えるのか? 内閣官房 情報通信技術総合戦略室 審議官(取材時)としてデジタル庁の創設に取り組んできたデジタル庁 統括官の村上 敬亮氏を直撃してみた。

デジタル庁 統括官 村上 敬亮氏

1階と2階は共通化してしまう システムを現場に取り戻す

「ちょっと、どら焼きを食べてもいいですか?」「あっ、ぜひぜひ」

「デジタル庁の役割とはなにか」を直撃するオンライン取材は、実はそんなラフなやりとりからスタートした。いきなり懐に入ってくるような物腰の柔らかさ。インタビュー相手である村上 敬亮氏は、通商産業省と内閣府・内閣官房で長らくIT政策、地方創生、スーパーシティなどに携わり、2021年7月からは内閣官房 情報通信技術総合戦略室 審議官としてデジタル庁の創設に関わってきた。

デジタル庁設立の直前、多忙をきわめる村上氏だけに、昼食をとる時間もなかったのであろう。おもむろにどら焼きをほおばり、お茶を口に含み、落ち着いたらしい村上氏は、「すごく簡単に言うと、環境という横割りの課題に対して環境省ができたように、DXという横割りの社会的課題に対してデジタル庁ができたということ。デジタル化自体は本当のゴールじゃないんですよ。世のはやりで言うと、日本のDXはわれわれに任せてくださいという話です」と第一声。「デジタル庁なのにデジタル化がゴールじゃない?」「デジ庁やるのは霞が関だけじゃないの?」と混乱する私を横目に、村上氏はデジタル庁が生まれた経緯について、訥々と語り始める。

西山圭太氏の「DXの思考法」という本があります。その本の表現をお借りすればデジタル庁の役割は「レイヤー構造化する」ということです。

府省のシステムで例えると、今まではアプリケーションだけでなく、裏で使うクラウドも、実装するハードウェアも、いわば3階建ての建物のすべてを各府省がバラバラに調達してきた。でも、ガバメントで共通のネットワークやクラウドを使えばよい。ITベンダーって1階と2階を作ることで稼ぐことが多いけど、これらをまとめて設計・活用すればコストも抑えられるし、納期も短くなる。そのために、これをやるためにはレイヤー構造化を進めることが必要です。

さらに大切な狙いは、コストや納期より、(情シスやITベンダーから)システムを現場に取り戻すということです。

記者さんに身近な編集システムの例で考えてみましょう。せっかく使い始めても、最初は「日本語変換がなってない」とか、「改行が変なところに入る」とか、「この文字数制限なんだよ」とか、いろいろ不満も出るでしょう。でも、普通の企業の場合、情報システム部門って、現場からほど遠い存在です。情シスの人から、「いやあ、気持ちはわかりますけど、次の更新は3年後です」とか言われてしまう。たまらなくなくないですか? 明日の記事書くのにシステムが使いにくいと、まさに今困ってるのに(笑)。

今まで、1階・2階まで含めてすべてガッツリとITベンダーに任せてきたから、たとえば納期は1年かかり、コストは何億円という話になっていました。でも、1階・2階を整理して、速く軽く作れるようになったら、3階の事業部門は、情シス部門を介さずに、直接ベンチャーと仕事したり、もっと手軽に改修できるようになり、システム作りのリーダーシップを取り戻すことができるわけです。

使いにくいシステムが、数週間で直る。共用可能な部分をガバメントクラウドやガバメントネットワークに任せられるので、肝心かなめの部分、独自に作らなければならない部分に特化できる。だから、より速く、より現場がオーナーシップを発揮できます。システムは業務そのものだから、これをまずは官公庁のシステムで実現したい。

そもそも「アーキテクチャ」という言葉が理解できる人にとっては、このレイヤー構造化の話はなんら目新しい話ではないはず。すべてを独自で作り込むなら、アーキテクチャなんていらない。大工さんが一から作ればいいから。でも、みんなでシステムを効率化する時は、1階、2階、3階で建物の高さの定義が違うと困るから、アーキテクチャという共通フレームワークが必要になる。そして、アーキテクチャがあるからこそ、レイヤー構造化が可能になるんです。

デジタル庁が一元管理するというと、業務からシステムまで全部面倒見るみたいなイメージを持つ人がいますが、それは間違い。僕らの仕事は、横割りのレイヤー構造を整え、各プレイヤーが本当に必要な部分だけ見てもらえるようにすること。たとえば、IDの共通化とか、認証をバラバラにするのはやめていくみたいな話です。

とりあえずは「共通化」と言ってます。レイヤー構造化するとともに、業務のパーツも可能な部分は共通化する。業務内容をシステムに合わせる、よくあるBPR(Business Process Reengineering)という奴です。ただ、これも強調しすぎると、業務が標準化されてしまい、現場の自由度は一切なくなるのではと誤解する方も出てくる。でも、そうではありません。レイヤー構造を導入して、共通化した方が合理的なところがある。それをまとめるよう、旗を振り、率先して実践していくのがデジタル庁の役割です。

官公庁の次にやろうとしているのが、いわゆる準公共と呼ばれる分野です。ガバメントクラウドまで同じように使ってもらうかは別として、医療、教育、防災など、限りなく公共サービスに近い分野もできるだけ同じことをやっていきたいと考えています。

これら準公共の分野も、基本は官公庁と同じで、今まで全部縦割りしかありませんでした。たとえば、基礎自治体の教育委員会の単位で、電源から、WiFiから、ネットワークに至るまで、それぞれがバラバラのものを考え、調達してきた。でも、これって無駄じゃないですか? 共通化できる横割りをしっかり入れて、その上でその学校の教員が自身の個性を活かせるような教育コンテンツを作れるようにする。1階と2階のベースを整理し、これに準拠したモノを使ってもらう。コンテンツやユーザーは共通のIDで管理できるディレクトリを構築する。

「誰が、どこで、なにをやっている」といったセキュリティ管理がきちんと行なわれている環境だから、コンテンツやアプリもきちんと安全に利用できる。その上で、どんな教材、どんな教え方をするかは、それぞれ学校や教員が工夫すればいい。下のレイヤーを軽くして3階部分だけを切り出してあげられるからこそ、現場が気軽に作れるし、気軽に選べる。そういう環境を作っていくという話なんです。

官公庁はもちろん、医療、教育、防災などの準公共分野、中小企業まで、それに近いことができないかという議論を進めています。日本中そうなんです。日本中トランスフォーメーションなんです。

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