積水ハウスは、9月19日を「育休を考える日」として記念日に制定し、2019年から企業で働く男性の育休取得実態を探る全国調査を行なっている。
今年は2022年4月の「改正育児・介護休業法」施行を前に、男性の育児休暇取得の壁になり得る、「当事者と周囲の人々との意識のギャップ」をテーマとして、独自に調査を実施。「男性育休白書 2021 特別編」として編纂し、公開した。
積水ハウスが男性育休フォーラム2021を開催
男性従業員の育児休暇は一般的かどうか?
同社はこれに合わせて、「男性育休フォーラム2021」をオンラインで開催した。本稿ではその内容と、ゲストを招いて実施したパネルディスカッションの模様をレポートする。
まずは積水ハウスの事情を紹介。同社では、男性社員の育児休業1ヵ月以上の完全取得を目指し、2018年9月から、特別育児休業制度の運用を開始しているが、2021年8月末時点で、取得期限(子が3歳になる誕生日の前日まで)を迎えた男性社員1052人全員が1ヵ月以上の育児休業を取得しており、2019年2月以降、取得率100%を継続しているのだという。
「男性の育児休暇」というテーマは近年になってたびたび話題になるが、厚生労働省の「令和2年度雇用均等基本調査結果」によれば、日本の男性の育児休暇取得率は12.65%であり、まだ一般的であると言えるほどではないのが現状。ところが、積水ハウスによるアンケート(2800人が対象)で男性の育児休暇取得の賛否を聞くと、全体の88.1%が「賛成」と回答したのだという。同調査の対象には400人の就活層も含まれているが、就活層に限って言えば、97.8%もの対象者が男性の育児休暇に賛成だと回答している。
同調査では、経営者・役員200人の賛成は76.0%にとどまっており、およそ「4人に1人は賛成していない」という結果になっている。これも、男性の育児休暇が一般化しないひとつの原因と見れるかもしれない。だが、およそ「4人のうち3人は賛成している」という側に目を向ければ、決して少なくない人数の経営者・役員が、育児休暇に積極的であるとも考えられる。
実際、同調査で経営者や役員、部長クラスのマネジメント層400人に、男性従業員の育児休暇取得制度の今後の予定について訊ねると、「促進予定があり、現在具体的に検討中」という回答が27.3%、「促進予定はあるが具体的な検討はしていない」が25.0%となり、半数以上にあたる52.3%のマネジメント層が、男性従業員の育児休暇取得制度を促進させる予定があることがわかっている。この「促進予定はあるが具体的な検討はしていない」という層が男性の育児休暇の普及に大きく関わってきそうだ。
同社は、「ESG経営(環境、社会、ガバメントを意識した経営)の“リーディングカンパニー”として、『男性の育児休業取得が当たり前になる社会の実現』を目指すために、こうした活動を続けている」とコメントするが、それにしても同社の男性の育児休暇の取得率100%という数字は、社会全体の様相と比較すると、驚異的である。
男性の育児休暇の推奨、なぜ難しい
では、男性従業員の育児休暇取得を「促進する予定がない」と答えたマネジメント層は、どのような事情を抱えているのだろうか。同社が「促進しない理由」を調査したところ、「企業規模が小さい」(53.4%)、「従業員の人数が少なく、休業中の従業員の代替要員の手当ができない」(30.4%)、「休業する従業員以外の従業員の負担が大きい」(28.3 %)といった回答に投票が集中したという。
自由回答でその理由を詳細に調査したところ、30人規模の企業では「有給休暇で取得すればいい」や「人手不足で代わりの人員を用意する事ができない。育児休暇中だけ他の人を雇うことも難しい」、「前例がない」といった回答が、300人規模の企業では「その意があっても、その人の穴を埋めることができなければ対応は難しい」「経営者が反対している」といった回答が寄せられた。
また、1000人未満の企業では「前例がなく、周囲からの反感が予想される」や「仕事の妨げになる」、1000人以上の規模の企業では「自分一人では決定できる権限がない」「不平不満が出る。会社を休むと生産性が落ちる」「その人にしかできないことがある」といった回答が見られた。
面白いのが従業員側とマネジメント側に同様の質問をした調査結果だ。「勤め先の企業は男性従業員の育児休暇取得を促進しているか」という設問で、「促進している」という回答は、29.3%にとどまっている。ところが、経営者・役員側に聞くと、「促進している」が36.0%、部長クラスでは48.0%が「促進している」と回答している。
企業規模や従業員数といった事情で、男性従業員の育児休暇を推奨したくても進められない事情も見えてくるが、マネジメント層は推進しているつもりなのに、従業員側はそう思っていないというケースもありそうだ。マネジメント側は積極的に制度を設けてアナウンスし、従業員側は、恐れずに希望を伝えるという姿勢を持つことが、(マネジメント側が男性の育児休暇に反対していないという前提は必要だが)必要なのかもしれない。こうした動きを通して、世代や立場にまたがるギャップを埋めていくことが、将来的に男性の育児休暇を普及させるきっかけのひとつとなるのではないだろうか。