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佐々木喜洋のポータブルオーディオトレンド 第91回

音の乱れを複雑な経路で整える音響メタマテリアル技術

2021年08月24日 13時00分更新

文● 佐々木喜洋 編集●ASCII

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 先週、Dan Clark Audio(旧称:MrSpeakers)から、新しいフラッグシップヘッドホン「Dan Clark Audio Stealth」が発表された。国内販売については未定だが、海外フォーラムのHead-Fiにレビュー動画が掲載されている。

 Stealthは平面磁界型の形式でありながら、珍しいことに密閉型のヘッドホンだ。密閉型は開放型に比べると定在波などを低減しにくく、そこが音質上のデメリットになるとされている。この問題を解決するためにStealthではユニークな解決法を採用している。それがAcoustic Metamaterial Tuning System(AMTS)だ。

 音響メタマテリアルによるチューニングシステムという意味である。AMTSは多孔の整形物による音響フィルターで、ドライバーと耳の中間に置く。それぞれの孔の形状や長さは異なっていて、複雑な計算の上で成り立っていることを伺わせる。

 Stealthでは、このAMTSを使用することにより、密閉型で主に発生する乱れを3kHzから超高域まで低減するという。実際に聴いたHead-FiのJude氏によれば、Stealthの音の感想は密閉型にしてはとてもニュートラルでスムーズだという。

 昨年、KEFがMetamaterial Absorption Technology(MAT)という技術を発表し、「KEF LS50 Meta」という新型スピーカーのドライバー部に組み込んだ。MATはメタマテリアルによる吸収技術という意味だ。これは迷路状の複雑な形状で、MATによってドライバー背面から生じるノイズの劇的な低減を図ることができるとしている。

 これらの技術で採用されているメタマテリアル(Metamaterial)とは直訳すると「超越素材」のような意味で、自然界にはない人造素材という意味だ。もともとメタマテリアルという分野は光学分野が始まりで、自然界にはないような光の屈折をする素材の研究から生まれたものということだ。それが音響メタマテリアルという分野に拡張されて、ホテルの空調ノイズの低減などに利用されてきた。

KEFのLS50 Meta

 下記にKEFと協力したと言われているAMG(Acoustic Metamaterials Group)のホームページのリンクを掲載するが、この中にメタマテリアルで空調ノイズを低減させる例が動画で掲載されている。

 上記ページの「CUSTOMIZATION PROCESS」という欄に効果説明図がある。この図をKEFのページにあるMATの動作動画のグラフと比較するとメタマテリアルの効果が分かりやすいと思う。

 メタマテリアル技術はすべての周波数帯域に一様に適用されるものではない。反射した音が干渉しあうことで発生するピークやディップなどの凹凸を打ち消すためフィルターを設け、その形状を複雑な計算で求めるという考え方のようだ。正確ではないかもしれないが、アコースティックなノイズキャンセリングとでも言うと分かりやすいかもしれない。自然界にはない迷路のような複雑な形状を伝って音が出ることになる。

 音響メタマテリアルのオーディオ機器への適用はまだ限定的だが、そのうちに小型化されてイヤホンの音響フィルターや音導管、アコースティックチャンバーなどへの適用も考えられると思う。音響メタマテリアル技術が、今後のオーディオをどう変えていくのかに注目していきたい。

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