ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第619回
価格性能比でライバル製品を圧倒するRadeon PRO W6000シリーズの凄さ AMD GPUロードマップ
2021年06月14日 12時00分更新
米国時間の6月8日、AMDはRadeon PRO W6000シリーズ3製品を発表した。速報はすでに掲載済みだが、今回はこれをもう少し説明しよう。
NAVI 21ベースのRadeon RX W6800と
NAVI 23ベースのRadeon RX W6600
まずハードウェア構成について。先の記事にもスペックはまとまっているが、Radeon RX W6800はNAVI 21を搭載する。60CU構成(3840Stream Processor)の構成で、FP32の性能が最大17.83TFlopsとされる。
ここからコアの動作周波数はピークで2321MHzほどと推察される。基本的な構成はRadeon RX 6800に近いが、こちらは動作周波数がブースト時で2105MHz、演算性能は16.17TFlopsとされており、やや動作周波数を引き上げた格好だ。加えて言えばメモリーも32GBに増量されており、Radeon RX 6800に近いだけで別のカードである(VRAMのECCサポートも追加されている)。
もっともTGPは250Wとされており、ブースト時に1割ほど動作周波数を引き上げたわりにはRadeon RX 6800と変わらないことになっているが、その分ブーストを維持する時間が短くなっているのかもしれない。
一方のRadeon PRO W6600だが、こちらはNAVI 23ベースである。そもそもNAVI 23そのものが先日COMPUTEXの基調講演でRadeon RX 6600Mとして発表されたばかりであり、まだコンシューマー向けビデオカードとしては投入されていない。
このRadeon PRO W6600、カードイメージも公開されているが、個人的にはこの構成のままでいいのでRadeon RXグレードを出してほしいところである。仮にRadeon RX 6600が出たら、長さを切り詰めてその分2スロット厚になってしまうのだろう。
Radeon PRO W6600は1792SPで10.40TFlopsなので、ブーストクロックは2900MHzとかなりの高速動作になっているようだ。ベースクロックは10%落ちの2610MHzあたりではないかと推察する。
価格は高め
その代わりアプリの動作認証を取得
価格はRadeon PRO W6800が2249ドル、Radeon PRO W6600が649ドルとややお高めである。なぜこれほど高いのかというと、これは主にソフトウェア代というか、検証代というのが正確なのだろうが、これが加味されているからだ。
表示機能を省いてGPGPUとしての性能に特化したRadeon Instinctは別として、Radeon RXシリーズとRadeon PROシリーズの最大の違いは業務用か否かに絞られる。業務用とはなにか? もちろん長期間の安定性(例えば1週間くらいかかる長いジョブを実行中にドライバーを起因としたブルースクリーンが発生したら目も当てられない)などはあるのだが、一番重要視されているのは「正確に描画できるか」という点である。
例えばCADで、本来接しているはずの部品が離れて描画されたり、あるいはその逆が起きたりすると、そもそもCADとして使い物にならない。あるいはCGのレンダリングで、最終的にデータとして出力される画像と画面上の表示が食い違っていたりする(これには色調や輝度なども当然含まれる)と、これまた大変なことになる。
このため、Radeon PRO向けのドライバーは、単にOpenGLなどの最適化が進んでいる(*1)のみならず、正しく描画できていることの検証をAMD社内で行なうだけではなく、アプリケーションを開発しているパートナー企業の認証を取得している。
認証されたアプリケーションの一覧はAMDのウェブサイトにあるが、こうした認証は当たり前だが無償ではない。パートナー企業も少なくない手間(とそれに張り付くエンジニア)をかけて認証作業をしているわけで、その費用は当然AMDが支払う必要がある。これはWHQLの認証に結構なコストがかかるのと同じ図式である。
コンシューマー向けのRadeon Softwareで済むRadeon RXシリーズは、WHQLだけを取得すればよく、多くのユーザーがそのドライバーを利用するため1ユーザーが負担するコストが非常に少ない。対してRadeon PROシリーズのRadeon PRO Softwareは、限られたユーザーしか使わないからユーザー1人当たりの負担額が増えるので、必要な価格が全然違うのも仕方ないところではある。
もっともこうした対応は当然NVIDIAも行なっている。旧Quadroシリーズ、昨今はQuadro RTXシリーズにブランドが変更されたが、こうしたものも当然同じようにアプリケーションの認証などは取得した上で製品を展開ているわけで、結局のところソフトウェアの品質で差が付くということはなく、性能や消費電力、価格での争いになるコンシューマー向けと同じ状況になっている。
(*1) 最近はDirectX系やVulkanに移行する例も少しづつ増えてきたが、それでもまだ圧倒的にOpenGLを使うケースが多い。このため、AMDもNVIDIAも、コンシューマー向けのドライバーでのOpenGLのAPIサポートは最小限なのに対し、業務用では可能な限りのOpenGLのAPIをハードウェアでサポートしている。

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