業務を変えるkintoneユーザー事例 第102回
kintone hive fukuoka開催 「十本ぬ指や同丈や無ぇーらん」に行き着くまで
琉球ガラスの工芸会社だから作れた「仕事にフィットする」kintoneのシステム
2021年05月28日 10時00分更新
2021年5月19日、kintoneユーザーの生々しい声が聞ける「kintone hive fukuoka」が開催された。福岡会場のトップバッターは琉球ガラスを手がけるRGC。登壇した當眞大地氏は、「コロナ禍で従業員38%減の工芸会社がkintoneで80%のコストダウンと200%の業務効率化で、息を吹き返そうとしている話」というタイトルで、kintone導入から活用までの生々しい過程を披露した。
当初の1/6のコスト削減に喜んでいたのもつかの間
鮮やかなかりゆしウェアで登壇したのは、沖縄の糸満市にあるRGCの當眞大地氏。前職のIT会社でkintoneの導入支援をしていたが、「バットを作るより、自分もバッターになりたい」という願望から、2年前にRGCに転職した。広報職を経て、営業3課のメンバーとしてIT導入を手がけている。ちなみにライフワークは孤高のタイポップDJで、回している途中はサイボウズのノベルティにお世話になっているという。
そんな當眞氏が所属するRGCは琉球ガラスの工芸会社。現代の名工3名、工芸士12名を含む70名が琉球ガラスの製造や卸、販売まで行なっており、6600㎡におよぶガラスのテーマパーク「琉球ガラス村」も運営している。「『ちょっといい毎日』をスローガンに、琉球ガラスを作ったり、テーマパークを楽しんでもらっています」(當眞氏)。
kintone導入のきっかけは2019年の消費税の改定だ。10年以上使っているPOSシステムを刷新しようと考えたが、やりたいことに価格が比例してしまったため断念。そこでタブレットやスマホベースの「スマレジ」を導入し、クラウドサービスのkintoneと連携させることで、当初の1/6のコストで導入できた。
しかし、コスト削減で喜んでいたのは最初だけで、いざ入れてみたら問題は山積していた。よくある「リテラシの不均衡」「情報資産の埋没」「情報の属人化」などにRGCも陥ってしまい、「利用は始めど、活用には至らない」という状態になった。しかも、昨年からのコロナウイルスの影響で観光業界は大打撃を受け、RGCも月間売上高が95%もダウンするという憂き目を見た。売上の減少に伴い、従業員も減少したため、少ない人数で業務を回す効率化が必要になった。「業務の量をぎゅっと圧縮して、お客さまや製品に向き合う時間を確保することが急務となりました」と當眞氏は語る。
「シークヮーサー問題」をバーコード入力で解決
4年間、kintoneをお客さまに提案してきた當眞氏は、このピンチに対してkintoneで一発逆転ホームランを狙ったが、「全然無理でした。いや、ちょっとはできたかもしれないけど、目標達成には至らなかった」という。結局のところホームランではなく、工場や経理、営業、売り場、倉庫など、それぞれの現場での改善(=ヒット)が活用につながったと當眞氏は振り返る。
まず活用の障壁となっていた「リテラシの不均衡」「情報資産の埋没」「情報の属人化」をRGC社内で通じる表現に置き換えた。「一般的な人はこれでわかる。でも、いっしょに働いている人には私たちの言葉に代えなければならない」ということで、生まれたのが「シークヮーサー問題」「信用できない理論在庫」「望さんが休み問題」の3つだ。
最初のシークヮーサー問題。沖縄の特産物である「シークヮーサー」の表記や読み方が統一されていないため、kintoneを使って、生産、在庫、売上などの情報を把握しようにも、情報の登録の仕方によっては、「シークワーサー」だとヒットせず、「シークヮーサー」だと出てくる、あるいは「ゴーヤ置物」だと出てこないが、「ゴーヤー 置物」だと出てくるといったことが発生する。「つまり、ルックアップ機能で商品名が使えない」ということだ。
そのため、當眞氏は福岡のkintoneエバンジェリストの久米純矢氏と相談し、商品名だけでなく、バーコードも使えるようにした。バーコードで入力すればブレないで入力できるはずだが、なぜか使ってもらえなかった。ここにはkintone特有のサブテーブルに項目を追加すると、画面上の横に伸びてしまい、行追加のためのプラスボタンが遠くなってしまうという問題があった。「『仕様です、慣れてください』と言いたいけど、もうちょっとがんばります」とあがいてみた結果、たどり着いたのがバーコード入力の自動化だ。
従来、kintoneでは、キーボード入力してルックアップをかけ、出てきた候補から選択して、はるか右にあるサブテーブルの追加ボタンを押していた。これを商品のバーコードをスキャンして登録する方法に変え、さらに行を追加するためのkintone操作自体もショートカットの操作をバーコード化してしまった。つまり、2回バーコードをスキャンすれば、登録が完了するわけで、操作は2~4分ずつ短縮できた。月間では380件の伝票入力が発生するので、1200分(26時間弱)の時短が実現した。「もちろん、スマホで入力しても、PCで入力してもいいのですが、売り場でバーコードに慣れている。それぞれが慣れているデバイスで、少しずつ業務効率化を図っていった。
信用できる理論在庫の誕生 「望さんが休み問題」の解消
続いての「信用できない理論在庫」は手入力の問題だ。従来、工場での生産数、商品の仕入れ数、倉庫の在庫数はすべて旧基幹システムに手入力しなければならず、けっこう手間がかかっていた。しかも、生産作業がメインの工場は日次での入力が難しく、棚卸しも1週間かかる。仕入れ登録だけは原価に関わるため入力を死守していたが、結果としては3ヶ月に一度の棚卸しで生産数をカウントすることになっていた。「恐ろしい状況です。今日作ったものがシステムに入るのは、一番遅くて3ヶ月後」と當眞氏は語る。
この業務フローは「一生在庫が合わない」ため、理論在庫が参考にならない。つまり、現場は毎回内線でして、在庫を確認しなければならない。これを参考になる理論在庫にするため、シークヮーサー問題で用いたバーコード入力を活用し、kintoneのCSVアップロード機能を用いることで、1件ずつ入力するつらみを軽減した。さらに機能の揃ったスマレジとAPI連携させることで、売れた数字と出荷、納品で矛盾がない卸のプロセスをkintone エバンジェリストの久米氏と作った。
信頼できる数字を共有することで、確認の手間が減らすことができた。「生まれて初めての理論在庫が当社に誕生した瞬間です。また、信頼しやすいシステムなので、在庫確認の内線が半分以下」と當眞氏はアピール。kintoneにデータが入ったおかげで、人気の商品や原料(色)、新製品の売り上げも職人と共有できるようになった。
最後は「望さんが休み問題」は、まさに俗人化の課題。kintoneのおかげで、廃番も含めて、在庫数はすべて検索できるようになったが、1万種類・35万個の在庫がどこにあるかはわからない。RGCの場合、社歴の長い望さんが商品の位置をすべて把握しているのだが、休みの場合はわからなくなるという。
しかし、聞いてみるとスマレジの棚卸しのメモをスタッフが活用していることがわかった。棚卸しのたびにスマレジから出力されるCSVをkintoneにアップすると、プリントクリエイターで出力される出荷指示書には在庫の位置が明記されるようになっているからだ。新たな作業が発生したわけでもなく、見える場所に必要な情報があり、更新業務を確実に行なう意識がアップしたからこそ属人化された情報が共有できたわけだ。
こうして活用までの問題を現場にあわせた言葉と方法で解決してきたRGC。「改善の積み重ねにより、従業員が半分になった部署でも業務をこなせるようになった」と當眞氏は振り返る。
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