業務を変えるkintoneユーザー事例 第99回
使う人目線のアプリ開発と相手に合わせたケアが効果的
大阪のウェブマーケ会社が歩んだkintone社内浸透とデータ活用の道
2021年05月07日 10時00分更新
2021年4月21日、大阪のなんばHatchにて「kintone hive osaka vol.9」が開催された。kintone hive(キントーンハイブ)は、kintoneを業務で活用しているユーザーがノウハウや経験を共有するプレゼンイベント。全国6カ所で開催され、その優勝者がサイボウズの総合イベント「Cybozu Days」で開催される「kintone AWARD」に出場できる。
cybozu developers networkでカスタマイズにチャレンジ
今回大阪で登壇したのは5社。トップバッターはスラッシュ Marketing Dept. チーフマネージャー 安藤史織氏が登壇した。同社はBtoBのホームページ作成ツール「リブロ」や人材紹介・求人情報サイト「不動産キャリア」の運営などを行なっている。安藤氏は営業から店舗コンサルを経て、SEOやウェブ広告の業務を手がけるようになり、現在はウェブマーケティングを担当している。
kintoneを使い始めたのは5年前からだが、最初はライトプランを契約していた。2018年にスタンダードプランにしたものの、途中でkintoneを活用できず、放置していた期間があった。
当時、安藤氏はWeb制作を行なう業務に携わっていた。打ち合せの議事録はExcelで残し、顧客からもらったデータはオンラインストレージサービスのDropboxに保存する。営業からデザインチームへの業務依頼はメールで行なっていた。しかし、この非効率な業務プロセスでは、伝達抜けでトラブルが起きることもあったという。
打ち合わせ内容がうまく社内に伝わらないし、タスクの管理も行なわれておらず、どのくらいの案件が動いているのかもわからない。そんな課題に直面した安藤氏は、先人を探そうと思い立つ。きっと同じ悩みを抱えていた人がいるはずだ、と考えたのだ。
「まずコミュニティサイトを探しました。「cybozu developer network」にはサンプルのプログラムやプラグインが公開されていて、なんて便利なんだと驚きました」(安藤氏)
いろいろ組み合わせることで、業務フローをそのままアプリ化したという。もちろん「cybozu developer network」を見ながらカスタマイズにもチャレンジする。たとえば、条件によって入力項目を開閉したり、必須の入力項目を変更したりと、標準機能では無理な機能を実装したそう。視覚的にわかりやすくするため、イメージカラーのフォームにチェックを入れると、色が変わるような仕掛けも施した。
凝ったグラフを作るため、GAS(Google Add Script)を利用して、kintoneの情報を定期的に取得し、Googleスプレッドシートへ書き出してデータ連携するという高度な技にもチャレンジしている。kintoneからCSVファイルを出力し、Googleスプレッドシートに読み込んでも同じことができるが、自動化することでその手間を省いたのだ。会議用の資料を作成するときなど、大きな時短につながったという。
全員がkintoneを「見る」ようにするために
kintoneではデータを何度も活用できるというのがメリットと安藤氏は語る。たとえば、「問い合わせ履歴」や「制作依頼」「請求情報」といったアプリの情報を「顧客カルテ」アプリから閲覧できるようにしておけば、顧客から電話で問い合わせが来た時にあちこちのアプリを開かずとも、総合的な情報を確認できるようになる。
アプリを作る時に重視しているポイントは「使う人目線」だ。アプリを開発していると、いろいろなデータが欲しくなるのでフィールドを追加しがち。しかし、現場で使う人に取っては、必須項目が増えると入力作業の負荷が大きくなってしまう。限界を超えれば、kintoneを使ってもらえなくなる。そのため現場の人の目線に合わせて、折り合いを付ける必要があるという。
kintoneを社内に浸透させるためのコツとしては、まず、全員がkintoneを「見る」ことが重要。そのため、プロジェクトの進捗をガントチャートで表示するようにして、遅れている工程は赤く表示するようにした。問題がなければ緑色で表示される。問題が発生すれば、深掘りして従来よりも早く解決できるようになった。
ウェブの制作過程では、修正の履歴など成果物の画面キャプチャーをkintoneアプリに添付ファイルとして残しておくことで、社内の辞典のような形で活用している。あとで見て、こんな使い方をしていたのかとか、こういう事例があったんだね、と振り返ることがあるという。
さらに、依頼や確認など業務フローが進んだときに、プロセス管理で通知が飛ぶように設定した。通知を見て、kintoneアプリを見に来る、というのも重要な「見る」行為だという。プロセスは一覧で表示でき、問題が発生した場合、すぐに詳細を確認できるようにしている。
kintoneアプリを社内で使ってもらう場合、一般的には「今日からこのアプリを使います」とトップダウンで指示されることが多いという。しかし、その場合は現場に浸透しにくく、抵抗にあったり、忙しくて使ってもらえないということが往々にしてあるそう。
「逆転の発想を考えました。新入社員や若手に対して、ちょっと手厚いケアをして、アプリの使い方を最初にレクチャーします」と安藤氏。
その後、業務でわからないことが出た若手は先輩に質問するが、当然kintoneアプリを使っている。先輩としてはkintoneを使えないというのは格好が悪い。安藤氏はこの先輩のツボを刺激することで、社内に浸透させていった。
kintoneアプリを業務で利用することで、飛び交っていたメールが減り、大きな業務効率向上を得られた。さまざまな業務の待機時間が20%ダウンし、修正の回数が30%ダウンし、その分、作業件数が20%アップした。
加えて、社員のやる気もアップし、自分たちでアプリを作りはじめた。その結果、「有給休暇申請」や「業務Q&A」「書籍管理」「営業日報」「マニュアル共有」「ご意見BOX」などのアプリが生まれた。
データの二次活用、三次活用を徹底する流れも必要
kintoneをさらに発展させるため、会議の手前で雑談することも効果がある。できるだけ、雑談ベースで意見をピックアップして、必要があればそのまま改善してしまう。会議も行なうのだが、機能改善ミーティングというと、参加者は「何か言わなければならない」と身構えるし、若手は「面倒で使えない」とは言えなくなってしまう。
社内で効果を広げるため、営業部のエースなどにポイントを絞ってケアする手もあるという。影響力があったり部下を持っている人がkintoneを活用するようになると、その人がさらにkintoneのよさを周りに広めるようになってくれるのだ。
そしてアプリをたくさん作ると問題になるのが、ポータル画面。使いたいアプリがどこにあるのか探すのに手間がかかってくるのだ。そこで、安藤氏は現在、ポータル画面のカスタマイズを行なっている。タブで分類するのか、スマホの利用を重視してレスポンシブルにするのか、いっそシンプルなデザインにするのかを検討している。これまでは、インハウスで開発してきたが、この先はパートナー企業に力を借りることも考えているという。
「データは共有しながらみんなで使っていくんだよ、と社内で広めて、データの二次活用、三次活用を徹底するという流れも必要だと感じています。私個人としては、こうした情報発信を続けていきます。(kintoneの管理を)一人で担当していて、どうしたらいいのかわからないということがあるかもしれません。こんなことがありました、と発信していくことで、どなたかのお役に立てればいいなと思います」と安藤氏は締めた。
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