既存のSIerに頼らず作った巨大キャンパスネットワーク構築の舞台裏
AS運用やWiFi構築まで徹底的に内製化したところざわサクラタウンのネットワーク
2021年09月03日 09時00分更新
内製化したほうが安価で、よくなる自信があった
実はKADOKAWA Connectedがネットワーク構築に関わったのは、工事着工後の2019年からだ。前年2018年にところざわサクラタウンの建設がスタートしたものの、KADOKAWA自体は巨大なキャンパスのネットワーク構築も実績を持っておらず、SIerに依頼すると莫大なコストがかかることがわかった。このままではオープンに間に合わないという危機感からKADOKAWA Connectedに構築を依頼したというのが経緯だ。
商用サービスのインフラを構築・運営した経験を持つドワンゴのメンバーで構成されるKADOKAWA Connectedへの期待は大きかった。ドワンゴのエンジニアでもあり、KADOKAWA Connectedのネットワーク構築をリードしてきた東松裕道氏は、「KADOKAWA側からはいろんなことをやりたいと言われました。イベントホールやホテルもあるし、eスポーツや動画配信もやりたい。とにかく夢の詰まった箱を作りたいと。でも、それを積算すると、ものすごいパフォーマンスのネットワークが必要になるわけです」と振り返る。
圧倒的な性能とコストパフォーマンスを実現する巨大なネットワークを短期間で構築するという、まさにミッションインポシブルなプロジェクト。複数の要件を満たすために、KADOKAWA Connectedのネットワークチームがとった施策は、これまでのデータセンター構築・運営のノウハウを活かした内製化だ。「実際、SIerにネットワーク構築の見積もりをとったら、けっこう金額が来たので、これなら自分たちやろうと思いました。でも、内製化した方が確実に安く、よいものができるという確信はしていました」(東松氏)
内製化に踏み切った背景には、商用に耐えうるシステムやネットワークを自ら構築・運用してきたという自負があった。「ドワンゴのようなコンテンツ事業者からすると、パブリッククラウド上にシステムを構築するより、オンプレミスでシステム構築した方がはるかにリーズナブル。その結果、2Tbpsという広帯域ネットワークを自前で構築できるノウハウと経験を持つようになったんです。今回も、配線や機器の配置などの工事は業者にお願いしましたが、設計やPoC、構築、運用まですべて自前でやりました」(東松氏)
ダークファイバーを活用し、無線LANも自前で構築
KADOKAWA Connectedの中でネットワーク関係を担うドワンゴのチームは計10名。この人数で、ドワンゴとKADOKAWAの商用・オフィスのネットワークの構築・運営を手がけている。そして、ところざわサクラタウンのネットワークに関しては、そのうち半分のメンバーが手を動かしたという。KADOKAWA Connectedの神武克海氏は、「サーバーやセキュリティの構築・運営経験もありますが、プログラムを書くために低レイヤーも知りたくなった」とのことで、ネットワーク構築を手がけた。
ところざわサクラタウンのネットワークは、WAN回線自体も自前で調達している。もともとところざわサクラタウンの敷地は浄水場の跡地だったこともあり、通信用の回線もひかれておらず、通信事業者に依頼するととてつもない金額がかかる。そのため、KADOKAWA Connectedのチームでは、ダークファイバーでところざわサクラタウンと大手町にあるドワンゴのデータセンターを直結し、AS (Autonomous System) まで自ら運用している。通常はISPや通信事業者が扱うASの大規模ネットワークを1企業が手がけるのはかなり珍しいことが、ドワンゴではすでに運用ノウハウを持っている。
東松氏は、「ところざわサクラタウンから大手町まで直結する回線を引いてしまえば、レイテンシも低いし、回線も安定するし、WDM装置で両端をつなげば、帯域だって増やし放題です。だったら、自分たちでやった方が速いのでは?という考えにつながりました」と語る。
また、アルバネットワークスの無線LAN APを用いた広域キャンパスネットワークの構築に関しても、物理的な設置やケーブリング以外はKADOKAWA Connectedが自ら設計・構築を手がけている。「過去に、いろいろなIT系イベントでネットワーク構築の技術支援をしてきました。今回もラッキーなことに、イベントの無線LANを作りまくってたメンバーがいたので、データセンターだけじゃなく、キャンパス内のネットワークも構築できると考えたんです」(東松氏)。