既存のSIerに頼らず作った巨大キャンパスネットワーク構築の舞台裏
AS運用やWiFi構築まで徹底的に内製化したところざわサクラタウンのネットワーク
2021年09月03日 09時00分更新
KADOKAWAの「ところざわサクラタウン」内の巨大なキャンパスネットワークを構築したKADOKAWA Connectedのチームを取材した。国内でも数少ない大型複合施設のネットワーク内製化に踏み切った背景や構築の苦労、コストや納期に対するこだわりなどを聞いた。
データセンターの構成を横展開 現場で使えなければ信用しない
2020年4月に竣工し、11月にグランドフルオープンしたKADOKAWAの「ところざわサクラタウン」。ランドマークとなる「角川武蔵野ミュージアム」を中心に、KADOKAWAが建設・運営する書籍製造・物流工場や所沢キャンパスのほか、イベントスペース、ホテル、ショップ&レストラン、ダ・ヴィンチストア、商業施設などが展開される。KADOKAWAと埼玉県所沢市が共同で進める「クール ジャパン フォレスト(COOL JAPAN FOREST(クール ジャパン フォレスト) 構想」の中核となる大型複合施設になる。
この施設内に巨大なキャンパスネットワークを構築したのがKADOKAWA Connectedになる。ドワンゴとKADOKAWAのメンバーから構成されるKADOKAWA ConnectedはKADOKAWAのIT戦略子会社として、KADOKAWAグループ全体のIT戦略やインフラ構築・運営を手がけている。
全体のネットワーク構成は以下の通りだ。ところざわサクラタウンのサーバールームと大手町のデータセンターはダークファイバーでつないでおり、冗長化されたWDM装置で伝送。1本の光ファイバー内で複数の波長を多重化するWDM装置を対向で利用することで、大容量伝送を実現している。また、大手町のデータセンターからは、2Tbpsを誇るドワンゴの大容量バックボーンを経て、KADOKAWAのシステムを収容するメインデータセンターに至る。メインデータセンターには認証システムや各種ネットワークサービスが動いており、インターネットやKADOKAWA社内のイントラネットに接続されている。
ところざわサクラタウンのキャンパスネットワークは2台のコアスイッチを中心に、サーバーとは100Gbps、フロアスイッチとは40Gbpsでつないでいる。とにかくジャブジャブの広帯域にしておいて、QoSのような技術を使わないようにしたというのは、ドワンゴがデータセンターを自前で運用している経験による。コアスイッチ自体もVRF(Virtual Routing and Forwarding)を用いて仮想化されており、高い信頼性と柔軟なネットワーク構成が実現されている。
製品選定に関して、KADOKAWA Connected 東松裕道氏は、「今までデータセンターで使ってきたものを、そのまま流用しただけ(笑)」と語る。新しい製品や技術を使うと、その分運用や学習コストに跳ね返るからだ。過去に選定した製品は、トラフィックジェネレーターで疑似トラフィックを発生させたり、冗長構成を組んで片系を落としてみたりといった“ガチ検証”を実施している。今回導入したアルバネットワークスの無線LANに関しても、コントローラーとAPを数十台を購入し、リアルイベントで検証した上で導入している。現場で使えなければ、信用しないという現場主義だ。
メーカーと対等の立場で交渉に臨み、徹底的なローコスト調達を手がけた。たとえば、光ファイバケーブルをネットワーク機器に収容するためのトランシーバーは自前で調達したことで、コストは約1/30に抑えている。「メーカーの人と仲いいですけど、『高かったら使わない』という一貫したメッセージを出していますね(笑)。つねに信頼性と緊張感を維持している感じです」(東松氏)