●セキュリティとユーザビリティの両立
アップルのセキュリティにまつわるサクセスストーリーとして最大の成果は、Touch IDの実現だった……。
これは、Apple Platform Securityを通じて感じる1つのテーマのようにも感じています。アップル製デバイスは、アップル自身もロックを解除する方法を持ち合わせない、あくまでもユーザー主体のロック機能となっています。
カリフォルニア州南部で銃乱射事件が起きたとき、犯人のiPhone 5cについて捜査当局がアップルにロック解除の方法の提供を求めても、アップルはこれを拒否し続けたわけですが……。
しかし、このユーザーはどちらかというと用心深い人だったと言えるかもしれません。アップルによると、4桁のパスコードロック利用率は半数だったと振り返ります。つまり半分のユーザーは、iPhoneのロックをかけずに使っていたことになります。
iPhoneユーザーが1日にロック解除する回数は平均80回だそうです。4桁のパスコードなら1日320タップ、最近のiOSの標準である6桁なら1日480タップをロック解除のためだけにしなければなりません。確かにこれは骨です。
確かに筆者のまわりでも、iPhoneのパスコード4桁を「8888」にしている人は多かったです。右手でiPhoneを握って、親指で一番連打しやすい位置にあるからで……。
アップルがいくらセキュリティやプライバシーまわりの機能を高めても、ユーザーがパスコード入力を面倒くさがってロックを設定しなければ、データは全く守られません。これが、アップルがTouch IDを導入する動機となりました。
Touch IDは、パスコードを設定したiPhoneのロックを、タッチで瞬時に解除できる仕組みとして実装されました。背後には、読み取った指紋データを暗号化してセキュアに格納し、毎回照合する仕組みが用意されていますが、これを瞬時に実現できるようチューニングされています。
報告によれば、Touch IDの実装によって、92%以上のユーザーがパスコードを設定するようになったそうです。セキュリティとユーザビリティを犠牲にせず端末を守る機能を幅広く使ってもらうことができる。そんな施策に成功したことから、Touch IDがサクセスストーリーとなっているわけです。
筆者紹介――松村太郎
1980年生まれ。ジャーナリスト・著者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。またビジネス・ブレークスルー大学で教鞭を執る。モバイル・ソーシャルのテクノロジーとライフスタイルについて取材活動をする傍ら、キャスタリア株式会社で、「ソーシャルラーニング」のプラットフォーム開発を行なっている。
公式ブログ TAROSITE.NET
Twitterアカウント @taromatsumura
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